*第10回*  (H24.12.20UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は大分大学での取り組みについてご紹介します。

大分大学医学部の「地域医療を担う人材育成」と
「地域医療向上」への試み
文責:  大分大学医学部地域医療学センター  宮崎 英士 先生 
  大分大学医学部長  大橋 京一 先生 
             

 大分県は人口10万人当たりの医師数では全国平均を上回るものの、大分市、別府市以外の医師不足は深刻で、厚生労働省が行った必要医師数調査では全国5位にランクされている。また、無医村地区数も全国有数で、医師の偏在が顕著な県であるといえる。そのようななか、大分大学医学部では地域医療人育成、地域医療向上のために、大分県と連携した様々な取り組みを行っている。

 


地域枠制度
 大分大学では平成18年度に奨学金制度と連動した地域枠入試を導入した。今年、初めての地域枠医師2名が誕生し、大分県内で初期研修を開始した。現在、医学科1年次生~6年次生まで合計50名の地域枠学生が在籍し、卒業後は、大分大学の初期臨床研修プログラムから研修を開始し、奨学金貸与期間の1.5倍を義務期間として当大学を含む県内の医療機関で診療に従事することとなっている。地域枠学生に対する特別な地域医療教育としては、毎年3日間、自治医科大学学生と合同で、県内へき地医療機関にて地域医療研修を実施している。将来、大分県の医療を担う医学生の一体感を醸成するための研修でもあり、大分大学(地域医療学センター)と県とで協働して企画・運営を行っている。当大学の地域枠入試の特色として、受験生(高校3年生)には、夏休みの3日間に地域中核病院での研修を義務付けている。さらに大分県教育委員会との共催により県内の高校2年生を対象とした「地域医療を理解するセミナー」を開催し、毎年100名前後の参加者に対して、講演や体験学習等を通じて地域医療への啓発を行っている。地域枠入学制度を核とする以上の取り組みにより、大分県で医療を行う人材増加が期待される。

地域医療教育
 大分大学では、卒前医学教育における地域医療教育を強化するために、平成22年に地域医療学センター(内科:教授以下4名、外科:教授以下3名)を設置し、地域医療講義、実習をカリキュラムへ導入した。地域医療教育は入学直後の早期体験学習に始まり、6年次前半の地域滞在型地域医療実習まで一貫して実施するよう、年々プログラムを拡充している。地域滞在型実習は地域中核病院、診療所、在宅、介護保険施設、保健所、行政等、様々な場での地域包括医療を体験することをテーマとしているが、大学教官と地域中核病院指導医が緊密に連携して地域の特色を生かした実習プログラムを作成している。平成23年度は県内8地域が実習の場であったが、平成24年度には13地域に増加となった。実習をとおして、大分大学主導で地域中核病院における教育体制の充実、指導医の育成を図り、オール大分で医学生、研修医を育成する仕組みを創ることが地域医療の向上につながると考えられる。また、平成24年からは本学同窓会と大分県医師会の協力のもと、3年次生を対象とした診療所実習(シャドウイング)をカリキュラムに導入し、「地域住民が求める医師像」を主テーマとして、大分市を中心に県内54クリニックに学生を配属した。

 
地域中核病院で医師とともに救急患者の診療に当たる学生(左2名)
 
巡回診療で血圧測定を行う学生 

地域医療支援センター
 地域医療人育成を進めるうえで、地域の医療機関に勤務する医師のキャリアアップをどう図るかは重要な課題である。本学地域枠学生に対するアンケート調査でも大部分の学生が基本領域ならびにサブスペシャリティー領域の専門医の取得を希望している。地域枠学生に対しては、地域医療機関への勤務とキャリアパス形成を両立させなければならない。そのためには、地域病院と大学病院とを循環するシステムの構築、キャリアパスを充分に考慮した地域病院への配置が不可欠である。平成23年には大分大学地域医療学センター内に地域医療支援センターが設置され、専任の教官2名を軸にセンターと大分県ならびに大学医局との協議により地域枠医師のキャリア形成を支援するシステム・委員会を構築中である。地域医療支援センターは、医師のキャリア形成支援、地域枠医師の配置調整を行うとともに、地域中核病院の医療提供体制の分析、地域医療研修会の開催、医学生に対する地域医療セミナーの開催、さらには情報発信と総合相談窓口の開設を行う。

地域医療診療支援
 大学病院も医師不足であるなかで診療支援を行うに当たり「どの地域に、どの診療科の医師が不足しているか?」を正しく認識することが重要である。大分大学は地域医療学センターを中心に「クリニックと地域中核病院の医療連携に関する調査」「外科手術や呼吸器診療における地域格差に関する研究」等、種々の調査活動をとおして、地域の医師不足の現状把握を行いつつ、適正な医師派遣を行う仕組みを整備しているところである。小児科、産婦人科では平成20年より大分県より「おおいた地域医療支援システム構築事業」の委託を受け、へき地における小児科医、産婦人科医の安定的継続的な派遣を可能とするために、教員が地域中核病院を定期巡回し、同病院に勤務する医師の指導と後方支援を行っている。その他の各臨床講座も地域病院への医局員派遣を行っているが、地域医療学センター教官は調査結果を基に医師不足の特に顕著な熊本県に近い豊肥医療圏の地域中核病院等へ非常勤医師として診療支援を行っている。豊肥医療圏の中核病院である豊後大野市民病院には、「地域医療研究研修センター」を設置し、大学教員1名を配置し、地域医療教育・研修体制を整備している。豊肥医療圏は全国でも有数の高齢化率の高い地域であり、地域包括医療、高齢者医療を学ぶ教育の場としてモデルケースにできるよう取り組んでいる。