*第2回*  (H24.4.17UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は千葉大学での取り組みについてご紹介します。

千葉大学医学部の地域医療への取り組み
(文責:千葉大学医学部長 中谷 晴昭 先生)

(1)医学部学生に対する修学資金制度
 千葉大学医学部では、平成21年度より千葉県医師修学資金貸付制度を開始した。
 本制度は千葉県と連携して進められる奨学金制度であり、千葉大学医学部新入生の中から将来千葉県の医療の発展・充実を目指す高い志を有する学生を選抜し奨学金を支給して、在学中の修学を支援することを目的としている。
 この奨学金制度には、「長期支援コース」と「集中支援コース」の2つのコースが設定されている。「長期支援コース」では、月額20万円の奨学金が千葉県より給付される。一方、「集中支援コース」では月額5万円の奨学金が千葉県より給付されるのに加え、千葉大学医学部から年間30万円が給付される。本奨学金の受給者は両コースとも、卒業後に千葉県内の指定された千葉県下の医療機関に一定期間医師として勤務することが義務付けられているが、この条件を満たすことにより返済が免除され、実質的には「給付型の奨学金」である。

 両コースは、卒業後の勤務義務年限(「長期支援コース」では貸付期間の1.5倍の期間、「集中支援コース」では4年間)と、勤務を指定する診療科や、卒業後の勤務の猶予期間の有無など、いくつかの条件で差異があるが、いずれのコースも、奨学生が「将来、地域医療を担うため」に必須である知識・技量・人格を修得できるように卒業後の研修プログラムが練られている。すなわち、千葉大学医学部附属病院や千葉県内各地域の基幹病院での研修プログラムが企画されているほか、本奨学生が各診療科の専門医を取得することも推奨しており、各自の医師としてのキャリアパスの確保にも配慮した内容となっている。

 このシステムが定着・発展することにより、各医療機関と本学医学部附属病院・基幹病院間の診療連携での相互協力がより強固となり、今後、長期間に亘って、千葉県の地域医療を支える優秀な人材を輩出する基盤が形成されることが期待される。
 

(2)地域医療に関する教育
 千葉大学医学部では、平成20年度よりアウトカム基盤型教育を導入、実践している。これは卒業時に学生が実践できる学習アウトカムをコンピテンシー(実践能力)として明示し、それを達成するために6年間の医学教育をデザインする教育であるが、本学部では、地域医療を担当できる医師を育成するために、地域医療に関するコンピテンシーとして次のようなアウトカムを設定している(表)。「Ⅲ 医療の実践」の中に9. リハビリテーション、地域医療、救急医療、集中治療に参加できる、「Ⅴ 医学、医療、保健、社会への貢献」の中に3. 地域の保健、福祉、介護施設の活用が患者個人と医療資源の適正な利用に必要であることを理解する、4. 患者と患者家族の健康の維持、増進のために施設を適切に選択できる、5. 地域の健康・福祉に関する問題を評価でき、疾病予防プランを立案できる、6. 医師として地域医療に関わることの必要性を理解する、等の5つのコンピテンシーを明示した。これらのコンピテンシーを達成するために6年一貫で順次性のあるカリキュラムを設定している(表)。

 「Ⅲ 医療の実践」では地域医療に参加し、それを診療の一部として実践できることを卒業時のレベルとして設定した。具体的には1年次からチーム医療や導入チュートリアルという科目を設定し、2・3・4年次で同様の科目を繰り返すことにより、基盤となる知識、態度(地域医療への興味、責任感、モチベーション)、コミュニケーションスキルを修得させる。4年次の臨床医学総論(臨床入門)で模擬診療を経験し、5・6年次のクリニカル・クラークシップで地域医療に参加し、患者診療を体験させる。「Ⅴ 医学、医療、保健、社会への貢献」においても、1年次から4年次まで同様の科目設定でコンピテンシーのレベルを段階的に向上させ、5・6年次のクリニカル・クラークシップと6年次の公衆衛生実習(地域保健医療実習)で卒業時のコンピテンシーを達成するカリキュラムである。
 このような順次性のあるカリキュラムの設定により、卒後研修へのシームレスな移行が可能となり、2年目の研修において必修の地域医療研修に意欲的に取組み、それを確実に達成することが可能となる。


表 地域医療に関する6年一貫カリキュラム。年次進行でEからB、Aとコンピテンシー・レベルが向上するように計画されている。 A:診療の一部として実践できる(単位認定の要件)、B:模擬診療を実施できる(Ⅲ)、理解と計画立案ができる(Ⅴ)(単位認定の要件)、C:基盤となる態度、スキルの修得(単位認定の要件)、D:基盤となる知識の修得(単位認定の要件)、E:修得の機会がある(単位認定の要件ではない)、F:修得に機会がない

(3)独立行政法人東金九十九里地域医療センターへの支援
 千葉県は人口10万人あたり医師数が全国ワースト3位であり、医師をはじめとする医療従事者の確保は、地域医療を充実させるために喫緊の課題となっている。特に外房地域の山武・長生・夷隅医療圏には3次救急医療施設(救命救急センター)がないため、他地域へ患者を搬送するなど、長年救急患者の受け入れに支障を来していた。この状況を打開するため、東金市と九十九里町は地方独立行政法人東金九十九里地域医療センターを立ち上げ、新しい地域の拠点病院開設を決定した。本法人が設立する病院(東千葉メディカルセンター)は314床を有し、救急医療・急性期医療を核とした地域中核病院であり、救命救急センターが設置される予定となっている。

 千葉大学では本法人東金九十九里地域医療センターと協定を結び、東千葉メディカルセンター内に本学医学部附属病院東金九十九里地域臨床教育センター(仮称、以下「臨床教育センター」)を設立して、本メディカルセンターに人的支援を行うとともに、本メディカルセンターにおける診療活動を通じて教育・研究を行い、地域医療に貢献できる医師の育成に寄与することとなった。具体的には、本学大学院医学研究院に講座を新設し、臨床教育センターを勤務地とする特任教員を採用する。当該特任教員は、本メディカルセンターにおいて診療に従事するとともに、学生や研修医に対して地域医療に係る教育・臨床研修を行う。この取り組みにより、本メディカルセンターの診療を充実させ地域医療に貢献するとともに、臨床研修病院としての機能を充実させ、地域医療に貢献できる医師やコメディカルの育成、ひいては千葉県の医師不足の解消につながることが期待される。一方、本学大学院医学研究院としては、大学病院において不足しがちな学生や研修医へのプライマリケア研修、地域医療研修を現場で行うことができ、医学教育の充実・発展が期待できる。
 本メディカルセンターは、現在、平成26年4月の開院に向けて準備が進められている。

東千葉メディカルセンター(病院の完成予想図)。千葉大学と正式な協定を結び、特任教員等を医学部教授会で決め、本学学生の急性期医療に対応する実習や研修の場として利用するとともに、医療過疎であった千葉県外房中央地域の医療再生を目指している
                           (協力:三木隆司教授、田邊政裕教授、織田成人教授)