*第20回*  (H25.10.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は福井大学での取り組みについてご紹介します。

福井大学医学部の地域医療人養成の取り組み
文責 : 福井大学医学部地域医療推進講座 寺澤 秀一 先生
             

 平成17年度に「救急に強い総合医養成」の専門研修コースが医療人GPとして採択された以後、本学の総合診療部の医師数は着実に増加し、現在、本コースを履修中、または修了者は、合計約30名で、そのうち約20名が本学と県内の施設において家庭医療専門医、在宅医療専門医、病院総合内科医として働いている。彼等が現場における臨床教育者として、地域医療の卒前、卒後教育に参画しているため、医学生の地域医療実習や初期研修における地域医療ローテーションが既に充実した内容で円滑に行われており、福井県が人口当たりの初期研修医確保数で、全国トップ10内を維持している原動力の一つとなっていると思われる。

1. 地域行政との連携
 大学と行政が地域医療を担う人材養成で連携できていることが、本学の特徴の一つである。現在、以下の二つの寄付講座が地域医療の人材養成のために運営されている。
 ① 地域プライマリケア講座
 平成22年度からスタートした高浜町からの寄付講座である地域プライマリケア講座は、客員教授、講師、助教の3名で構成され、高浜町和田診療所において、家庭医学に関する卒前、卒後教育が展開され、図1に示すように多くの医学生、初期研修医、専門研修医が研修に訪れている。この結果、和田診療所は開設時には1名だった医師が、現在は常時3、4名の医師が常駐する施設となり、高浜町から寄付講座の延長の申し出があり、本年度から第二期に入っている。

 ② 地域医療推進講座(福井県からの寄付講座)
 平成22年度に福井県からの寄付講座として地域医療推進講座(教授、講師、助教)がスタートした。この地域医療推進講座を中心に地域医療推進センターが発足し、毎年県内施設からの要望を聞いて、大学から5名以上の医師を派遣する特命医師派遣制度が初年度から始まった。全診療科、講座の協力を得て、毎年5~10名の特命医師派遣が実現し、地域医療に多大な貢献をして、福井県からも高い評価を得ている。
 地域医療推進講座の教員(教授、助教)が県内の研修病院に出向で教育する出前カンファランスは毎年約100回を維持し、県内の研修施設での初期研修医確保に大きく貢献している。また、年一回、地域医療推進講座主催で福井レジデントキャンプを開催し、県内の全ての初期研修医の教育に貢献している。
 さらに、地域医療推進講座の教員(講師)は、多職種同時参加型の在宅医療人材養成の企画、開催などを行い、地域医療を担う人材養成のみならず、県内の在宅医療ネットワーク構築の推進にも貢献している。

表1 
 

2. 全ての医学生の卒前教育
 将来の地域医療を担う人材養成には、地域医療に関する卒前教育の充実が必須である。表1に示すように全ての医学生のカリキュラムに地域医療の講義を増やし、上述した既に家庭医、在宅医療専門医、病院総合内科医として働いている本学附属病院の総合診療部出身の若い医師達が講義を担当している。特に早期の動機づけを重要視して、1年生の入門チュートリアルにおいて、在宅医療における看取りの例を討議させることを毎年行っているが、医学生の反応はすこぶる良い。

3. 地域枠、奨学生の卒前卒後支援
 将来、県内の地域医療を担う人材として期待される地域枠、奨学生に特化した企画として、3年生の研究室配属の際には、上述した県内で働いている家庭医、在宅医療専門医、病院総合内科医にマンツーマンでついていただくことをしている。また、夏休みに毎年企画される、高浜和田診療所における地域医療実習や地域医療推進講座主催の福井県地域医療夏季研修(写真1)にも参加してもらって、早くから現場におけるニーズと、現場教育体制の充実ぶりを理解してもらうことを狙っている。彼等は既に自分達で地域医療を勉強するサークルを結成し、他県の医学生との交流や地域医療の全国レベルの勉強会などにも参加している。

 
4. 地域医療人材循環構想
 地域医療を担う候補者の将来の不安を払拭するために、県内の施設を移動しながらも、自分の家庭を大事にしつつ、生涯に渡って地域医療に貢献できる人材養成の体制として、循環型地域医療人材養成を目指している。図2に示すように、昨年度に地域医療高度化教育研究センターが立ち上がり、本年度から本学医学部に地域総合医学大学院コースが開設され、地域医療人材循環構想が大きく前進した。地域医療に関する臨床研究者の養成によって、日本人を母集団とした臨床研究に基づく地域医療のエビデンスを発信することは、日本の地域医療の質の向上のために大学が果たすべき役割である。また、この領域の臨床研究者としての道は、地域医療を志す若手医師がアイデンティティクライシスを起こさずに生きていくためにも、大きく貢献するはずである。現在3名が本コースの大学院生として、地域医療に関する臨床研究を始めている。
図2
 
5. 今後の課題
 表2に示すように、これまで地域医療に貢献してきた自治医大出身の医師達に加えて、福井県医師確保修学資金奨学生、嶺南医療振興財団奨学生が現場に急増する時代が迫っている。今後重要なのは、彼等の生涯教育支援体制の構築であろう。彼等のなかには専門医を目指す者もいるし、救急医、家庭医、在宅医療専門医、病院総合内科医などの横断的診療医を目指す者もいる。地域のニーズと彼等の目指す医師像をマッチさせるための卒前卒後教育において、大学と地域の医療関係施設、行政、地域住民で総力戦を展開できるかが問われている時代である。