*第22回*  (H26.1.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は群馬大学での取り組みについてご紹介します。

群馬大学医学部における地域医療人育成の取り組みについて
文責 : 群馬大学医学部 医学部長 和泉 孝志 先生
 
             

 群馬大学ではかねてより地域医療を担う医師数の減少に対し、医師の地域定着を促進するための地域保健・医療実践プログラムや教育課程を導入してこの問題に取り組んできました。しかし、群馬県での医師不足や医師の偏在、医師確保の困難性に起因する住民の健康・福祉面での弊害が顕在化しており、地域医療と特定の診療科目を担う医師確保は喫緊の課題となっています。これに対して、群馬大学では医学部医学科の入学定員を平成21年度から5名増員し105名に、平成22年度からはさらに12名増員し117名に、平成23年度からはさらに6名増員し123名としました。このうち群馬県から修学資金を貸与される「地域医療枠」の定員は平成21年度5名、22年度17名、23年度からは18名となっています。

1.医学科の授業での取り組み
 地域医療を担う医療人を養成するためには、入学後早期より地域医療の現場を体験し、将来地域医療を実践するための関心と意欲を高めることが効果的です。また、地域医療では特に重要となるチーム医療への理解と関心を深めるための実践的・体験的学習が必要と考えています。本学では、平成16年からの「特色ある大学教育支援プログラム:良医養成のための体験的・実践的専門前教育」での取り組みをきっかけに、次のようなカリキュラムを行っています。

『地域医療教育(医学概論・実習)』 1年次に医学部附属病院の各部署を少人数グループで巡回し、医療現場を体験し患者の話を聞くことにより、以降の学内外の実習に対する積極的な姿勢を身につけさせます。

『チーム医療実習』 2年次に、学外の老人保健施設、社会福祉施設等において少人数グループ実習を2週間体験し、利用者の介護等を通してコミュニケーション能力の向上を図っています。同時に医療介護現場での各職種の協力体制を学び、さらには群馬県内各地域での医療・介護の実態を体験、理解することにより、以降の学習に役立てることを目的としています。

『地域保健実習』 5年次に、小グループで地域保健、予防医学、医療過疎地診療などのテーマについて学外施設にて調査研究を行います。群馬県を中心とする地域の医療、福祉の実態を身をもって体験することが、地域保健・医療への意欲を高めるために有効だと考えています。

2.「地域医療枠」の学生を対象とした取り組み
 以下の2つの取り組みは、「地域医療枠」の学生を主な対象としていますが、一般の学生も参加することが可能です。

『地域医療体験セミナー』 低学年から、群馬県内地域医療施設で実際行われている医療とチーム医療について体験してもらいます。群馬県の地域医療再生計画について学び、それぞれの県内各地域での医療に関する重点化目標を知ったうえで実際の医療の設備と内容を体験してもらいます。大学からバスで現地に向かう日帰り型(地域での医療、特にへき地診療所や、特徴的な地域医療を学ぶ)と宿泊型(当直室等院内に宿泊し当直の体験や医師の1日の仕事を体験する)の2つの形で実施しています。日帰り型セミナーは1~2名の少人数でマンツーマンでの研修を受けることができるのが特徴です。特に中央から離れている地域では救急隊とのかかわり(はしご車での救出等も体感できる)や他県とのドクターヘリを含めた医療連携についても学ぶことができるので、参加者からは臨床医学に触れることで医師になるという自覚がわくと好評です。解剖や基礎医学の知識が活用されているMRI等の画像の構築や検査を実際に行う実習等を加え、現在の講義や学習が医療現場で生かされていることを実感してもらうよう工夫しています。(図1)

   
   図1:新生児と触れ合う医学生


『自治医科大学関係者とのセミナー』 夏季休業中に自治医科大学が県内実習を実施している時期に合わせて、医師不足が顕著な群馬県の北毛地域での訪問看護訪問診療の実習と自治医科大学生との実習報告会に参加するセミナーを、平成22年度から開催しています。日本有数の観光地である草津温泉に宿泊し、へき地診療所を含む地域医療に従事する医師や首長、群馬県の医務課職員等関係者と交流を深めています。参加した学生からは、他大学で学ぶ医学生から情報を得ることができ医療に対するモチベーションがあがるとの声が多く聞かれます。

3.高校生に対する取り組み
 群馬県内から医師を目指す人材を増やすことを目的に、高校生を対象に『医師職場体験セミナー』を夏季と春季の学生休業を利用して平成22年度から開催しています。県内各地から高校生が参加しています。(図2)

   
   図2:手術着を着用して説明を受ける高校生

 平成25年度から、県内の医学部医学科志望者への情報提供と相互交流を通して地域医療の発展に寄与することを目指し、また県内の医学科受験者・合格者の増加を図るために、高校2年生を対象とした『群馬県内高等学校医学部医学科セミナー』を行っています。

4.県外の医学生及び県外からの本学医学生に対する取り組み
 群馬県出身の県外の医学生が卒業後に群馬県で研修するようになることを目的として、現在の群馬県の研修医指導体制を含めた地域医療施設に触れてもらうための『群馬県内臨床研修病院見学バスツアー』を、平成24年度に開始しました。1日で2~4施設を借り上げバスに乗車して見学します。県外からの本学進学者も参加者の半数以上を占めており、卒後従事する選択肢として医学を学んだ群馬県内での医療現場と研修を体験してもらっています。県外の医学生と県外出身者の不安のひとつに、大学から離れた場所は遠くて不便ではないかということがあります。群馬県内は高速道路や道路網が整備されています。そこで、通勤者と同じように高速道路等を利用し大学所在地からの通勤の実際を体感してもらい住居環境をはじめとする研修環境を見学し、学外実習やマッチング前のてがかりとしてもらいました。参加学生からは、「複数施設を1日でめぐって見学することができてよかった。研修内容も充実しており当直室や女性医師専用のスペース等の配慮がされている病院が多くて安心した。」等の声がきかれました。

5.地域医療枠学生の卒後支援
 群馬大学地域医療枠学生1期生は平成27年4月から初期臨床研修に入る予定です。群馬県では県全体として若手医師をサポートし、地域医療の質の向上を図っていくために『ぐんま地域医療リーダー養成キャリアパス』を作成中です。地域医療枠卒業生は原則として本プログラムに参加して地域間・病院間をローテーションしますが、幅広い臨床現場で確かな実力を身につけることが可能となるよう配慮しています。19の基本領域の専門医資格取得も可能で、将来群馬県の地域医療をリードして活躍してもらうためのキャリアパスとして用意するものです。


(協力
医学部附属病院医療人能力開発センター 地域医療推進研究部門  准教授 鎌田英男先生
同センター長 総合医療学教授 田村遵一先生)