*第25回*  (H26.4.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は岐阜大学での取り組みについてご紹介します。

岐阜大学医学部の地域医療確保対策
~地域枠推薦入試・岐阜県医学生修学資金と医師育成・確保コンソーシアム~
文責 : 岐阜大学医学部附属地域医療医学センター(Center for Regional Medicine:CRM) 
                      センター長・教授 村上 啓雄 先生
             
(1)地域枠推薦入試と岐阜県医学生修学資金
 岐阜県の医師数は全国平均に比べかなり少なく、平成19年の時点で全国ワースト5位であった。その対策として平成20年度から医学部医学科では「地域枠推薦入試」を開始し、平成20年度10名、21年度15名、以後毎年25名を選抜し、医学部医学科の入学定員は80名から107名に増えた。地域枠は入学要件に「岐阜県医学生第1種修学資金」の受給が必須であり、月額100,000円の修学資金に加え、授業料、入学金相当額が支給される。その返還免除条件として、卒後県内臨床研修病院(23病院)での初期臨床研修2年+9年間県内医療機関での指定勤務が課せられている。また地域枠以外の入学者および他県の大学医学部在学中で将来岐阜県に戻る希望の学生が任意に受給できる「第2種修学資金(月額100,000円の支給のみ、受給年限は開始から卒業までの1~6年間)」と合わせ、平成25年度までに244名(第1種125名、2種119名)の受給者を数えることになった。近年では本学医学部医学科卒業生のうち、県内研修病院での勤務率は、愛知県高校出身者:40~50%、愛知、岐阜以外:20~50%に対し、岐阜県内高校出身者では60~100%と高率であり、このデータも含め地域枠や修学資金受給体制の確立は、将来の県内勤務医師の確保につながることが大いに期待できると予想される。実際に地域枠入学生の出身地は県内の大方の市町村を網羅しており、県内出身で将来故郷の地域医療に貢献する意識の高い学生が確実に岐阜大学医学部に入学している。

 (2)岐阜県医師育成・確保コンソーシアム
 これら多数の医師(表1)が初期臨床研修および指定勤務を行う上で十分な指導体制を提供し、医師が安心して円滑かつ効果的にキャリアアップが図れるようサポートするため、平成22年9月に結成されたのが「岐阜県医師育成・確保コンソーシアム」(図1、HP:http://www1.gifu-u.ac.jp/~dr_conso/index.html)である。
   
   

 本コンソーシアムは、本学医学部および県内で研修医が多く集まる9病院(本学医学部附属病院を含む)を幹事(=構成病院)として、県内の各病院、医師会、病院協会、協力医療機関等との連携体制で構成されている。ただし、決してこれら9つの病院のみの人事確保のために結成されたのではない。研修医等が「岐阜県内のどの病院で勤務しても、医師として自分自身がしっかりと成長できる。」という実感を得られるように、規模や現在の在籍医師数を問わず県内の全医療機関の指導者が一丸となって、指導力向上に努め、医師育成体制を確立することこそ、地域住民のための医療・医師確保につながるとの基本理念に基づいて整備されたものである。すなわち教育体制が整わなければ、どんな医師確保方策も夢物語になるという強い危機感を共有することが極めて重要であると考え、9構成病院が他の医師不足病院の実情に配慮しつつ、医師育成を通じて岐阜県全体の医療確保に率先して関わるために組織されたものである。また、指導医たちにとっても、研修医等教育が自分自身のブラッシュアップにつながり、さらに元気を失っていた医師不足地域医療機関の活性化にも結び付くということをも予想し、期待しているところ大である。以下にコンソーシアムの特徴をまとめた。
  研修医や義務年限医師が、「岐阜県内の病院で勤務すれば自分自身が成長できる」という実感を得られるような(ドロップアウトも少なくなる)指導・医師育成体制の確立なくして医師確保はできない、との基本理念に基づいて体制整備した. 
コンソーシアムという岐阜大学主導でも岐阜県主導でもない中性的な体制を取ることによって、この基本理念を岐阜県内病院のすべての指導者が共有できるとともに、岐阜大学関連病院のみならず名古屋大学・名古屋市立大学等県外大学関連病院とも一丸となった育成システムを提供できる。 
  指導医派遣システムや臨床研修指導医養成講習会の開催などを通じて、構成病院以外の医師不足病院でも医師育成ができる=医師派遣を受けることができる体力をもてるよう配慮している。
  初期臨床研修2年次の地域医療研修を、都市部の医師数が比較的充足している病院の研修医が、地域の医師不足病院とその周辺の診療所などで策定される地域医療研修プログラムを選択できる体制をコンソーシアムがコーディネートし、研修医が患者の診療動線に寄り添った真の地域医療を体験できるとともに、派遣元病院と派遣先病院の連携体制強化に寄与している。 
  岐阜県内病院の医師派遣は、現状でも多くが大学医局人事の体制で継続しており、今までどおりの医局人事・医師派遣のシステムを崩さず、しかも義務年限のルールに従ったキャリアパス策定を医局人事担当者に説明を尽くすことに注力している。これは岐阜大学のみならず、他県大学医局の医師派遣システムでも同様である。 
  コンソーシアムは実際のキャリアパス策定にあたっては、医師本人の意向を踏まえ、医局および指導医と連携しながら、ルールを遵守したキャリアパス策定支援および管理・記録を行う。 
  コンソーシアム事務局を岐阜大学医学部附属地域医療医学センター(Center for Regional Medicine:CRM)に置くことによって、岐阜大学医学部医学科学生卒前~卒後のシームレスな育成体制構築に役立っている。さらに、他県大学、岐阜県、医師会、病院協会、地域医療振興協会、全国地域医療教育協議会などとの風通し良い連携実現につながっている。 

 現在コンソーシアムでは医師育成体制の強化をめざして、本学医学教育開発研究センター(MEDC)および医学部附属病院医師育成推進センター(CCT)の全面的な協力を得て、厚生労働省から認定された初期臨床研修指導医養成講習会を年2回定期開催している(3年半で260名を認定)。また、初期臨床研修医には魅力的な研修プログラム提供、後期研修医等には自身の将来の専門領域・診療科の希望に応じたキャリアパスの提供・支援を行い、後期研修~指定勤務プログラムの中に一定期間の医師不足地域・病院での勤務を含めることによる効果的な地域医療・医師確保の役割を担っている。
 事務局は岐阜大学医学部附属地域医療医学センター(CRM)内にあり、事務局長(企画調整委員会委員長)は医学部附属地域医療医学センター長(教授職、筆者)が担当している。今後岐阜県医学生修学資金受給後の研修医等の数が非常に多くなるため、その業務量はかなり増加し、ますます責務が大きくなると予想される。現在の職員は兼務の教育職員2名と専従事務職員1名のみであり、機能強化のため、専任教育職員や事務職員の増員が喫緊の課題であるが、平成26年度から体制を整備出来た。(岐阜県における「地域医療支援センター」として位置づけられており、予算措置されている。)

(3)既卒業者の動向(表2)
 今年度地域枠第1期生10名が卒業し、同時に卒業した第2種17名をあわせ、27名が無事岐阜県内の臨床研修病院で初期臨床研修を開始した。それらを加え、すでに64名の医師が岐阜県内で勤務している。すでに指定勤務を終了した医師も含められているが、これらもすべて岐阜県内での勤務を継続している。診療科については特別の誘導はせず、医師不足がより深刻な診療科情報は学生や研修医に適宜提供し、あくまで本人の希望を尊重し診療科を選択させている。結果的にほぼすべての診療科に渡って専門領域を選んでいることがわかる。また圏域別では、過去にはわずかな実績があるものの、現在東濃圏域に医師が派遣できていない現状がある。この圏域は岐阜大学の関連病院が少ないことも一因であるが、平成27年度からこの圏域の臨床研修病院と岐阜大学医学部附属病院が襷がけプログラムを策定し、主に地域枠でこの圏域出身者が将来この圏域での勤務を念頭に選択できるように募集を始めたところである。
 このように地域枠推薦入試、岐阜県医学生修学資金制度の運用は、確実に岐阜県内での勤務医師の増加につながっていると考えられる。今のところ第2種修学資金受給者の一部に制度離脱(11/119=9.24%)があるが、幸い地域枠に制度離脱者はない。今後も制度利用者が岐阜県で勤務すれば安心してキャリアアップできる実感を与え続けられるような医師育成体制を管理・維持できれば、数年後の県内医師充足率がかなり改善されることが予想され、岐阜県民も含め関係者は大きな期待を寄せている。