*第31回*  (H26.10.29 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は佐賀大学での取り組みについてご紹介します。

佐賀大学医学部の地域医療人育成の試みについて
文責 : 佐賀大学医学部附属病院 総合診療部 部長  山下 秀一 先生 
  佐賀大学医学部肝疾患医療支援学講座 教授 江口 有一郎 先生
  佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科 教授 安西 慶三 先生 
             

 佐賀大学医学部は、2009年に厚生労働省が設立した地域医療再生基金プロジェクトに応募する形で地域医療支援学講座設立を構想し、佐賀県に採用された。寄付講座としては異例に高額の8億2200万円の援助を受け、当初は5年の計画でスタートした。危機に陥っている地域医療の健全な継続のために重要な急性期から在宅までの間をシームレスに橋渡しできる総合内科医、外傷や救命救急まで対応できる小児科医、さらには不足しがちな救急医などを育成することを目標とし、講座に所属する専門研修医は、佐賀県の医療に従事することを条件に助教の身分を与えられる。
 中でも総合内科医育成には、一般診療を研修することが困難である特定機能病院の大学病院のみでの研修ではなく、唐津赤十字病院、佐賀県医療センター好生館、NHO嬉野医療センターなどの地域の中核病院に協力をあおぎ、消化器、呼吸器、循環器、感染症、神経内科、糖尿病科などを1年ずつ回って5年で完結するプランとした。単に各病院に派遣する形ではなく、同講座の指導スタッフが毎週研修教育病院に出向いてVisit Teachingを行ったり、週に一度は研修医が佐賀大学に戻って総合内科が依頼の指導を受けたりカンファレンスに参加したりする教育体制となっている。ここまでの研修を、土台を作るための「Phase 1」とする。

 小児救急部門は7名の医師が参加するなどある一定の成果を上げ当初の予定通り5年でプログラム終了となったが、総合内科医育成部門はその実績と独創性や将来性が認められ、とりあえず2年間の延長が決定された。次のステップを、実践しながら学ぶ「Phase 2」とする。この段階までは県内の主要な総合病院と大学病院の各専門科のみをローテイトする形で行われていたので、総まとめの場所が必要である。総合内科医には、総合病院や大学病院で急性期の治療が終了した患者がどのような医療を受けるのか、ということに対する理解が求められ、更には在宅医療にもある程度の経験を持ち、シームレスに地域医療に関わることの出来る能力が必要である。この研修には地域の小規模な自治体病院が最適であると判断し、佐賀市が運営する100床程度の小規模公立病院である富士大和温泉病院に、その研修場所として「佐賀大学医学部附属病院・地域総合診療センター」を設置した。ここにはPhase 1 を終了した医師、あるいは佐賀大学医学部附属病院総合診療部の若手医師が2名ずつ赴任し、そこに大学病院から教授と講師が毎週3~4回指導に訪れるという仕組みを取っている。この付置センターは寄付講座である地域医療支援学講座の総合内科育成部門の事業の永続的継続を可能とし、地域の中小自治体病院との医療連携役割分担のモデルとなることも期待してスタートさせた。この計画も佐賀県から予算補助を受けている。

 

  図1 
   


 この他に、佐賀県が地域としてかかえる健康課題として「肝がん粗死亡率14年連続全国ワーストワン」がある。佐賀大学医学部はこの地域で唯一の医学部であり、佐賀県や基礎自治体、佐賀県医師会と協力してその地域の健康課題の解決に取り組まなければならない。本医学部は肝がん死亡率の低下のために効果的な地域医療の仕組み作りを構築するために、佐賀県の寄付講座として肝疾患医療支援学講座、肝疾患センターを2011年に設置した。本講座では、医学部教育の「地域医療」の分野で、地域の抱える健康問題として肝がん粗死亡率全国ワーストワンを取り上げ、その同講座が行っている課題解決のための公衆衛生学的な取り組みと知見を授業内容に取り入れている。また「消化器」の分野では疾患の各論のみならず、課題解決のための医療連携や患者教育についても教育している。さらに、年間を通して患者交流会や各種の啓発活動への学生の参加を呼びかけ、課題解決のためのチームの一員としての自覚を持てるような機会を設けている。医療人育成に加え、肝炎や肝がんのデータベースの構築と分析や効果的な疾患啓発なども行っている。


  図2 
   

 また、佐賀県では糖尿病専門医の数がきわめて少なく、関連のコメディカルを含めた関連医療資源の不足が著しい。これが人口あたりの年間の新規血液透析導入数の伸び率が全国第2位である原因の一つとなっている。このため糖尿病専門医の育成に努め、顕著な成果をあげてはいるが、医師育成のみでは時間がかかり一朝一夕に事態が好転する訳ではない。そこで地域医療再生基金事業を利用し、糖尿病コーディネート看護師育成・支援事業を開始した。県内各地の中小自治体病院の協力のもと、佐賀大学医学部附属病院が運営の主体となり、糖尿病の重症化予防を目指して、既に育成されている糖尿病療養指導士に対し追加教育を実施している。現在までに35名に規定の教育を終了し、佐賀県糖尿病コーディネート看護師として認定資格を与えた。糖尿病コーディネート看護師はかかりつけ医療機関を訪問し、糖尿病治療を支援するとともに保健師との協働連携により糖尿病の発症から重症化予防まで行う。この活動は県内の糖尿病診療の均てん化に大きく貢献している。



  図3