*第41回*  (H27.10.6 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は大阪大学での取り組みについてご紹介します。

大阪大学医学部における地域医療への取り組み
文責 : 大阪大学大学院医学系研究科長・医学部長 澤 芳樹 先生

 大阪大学は「地域に生き世界に伸びる」ことをモットーとすると大阪大学憲章に謳われています。大阪大学医学部は1838年に緒方洪庵によって大阪の地に開かれた適塾にその源流を求めることができます。適塾の自由闊達な環境が大村益次郎や福沢諭吉、長与専齋ら多くの俊才を輩出し、彼らが歴史を動かして近代日本の基礎を築いたことはご存知のことと思います。緒方洪庵は当時流行した天然痘を征圧するため種痘を普及させ、除痘館を設立しています。また、コレラの大流行の際には、急遽『虎狼痢治準』という対策書を著しています。大阪大学医学部はこの先進性と市民精神を受け継ぎ、新しい基礎医学を築き、未来医療を生み出し、イノベイティブでグローバルに活躍する人材の育成に努めるとともに、「地域に生き世界に伸びる」取り組みとして、医学部附属病院が中心となって高度医療の提供、先進医療の開発、未来医療橋渡し研究等の臨床研究の推進、地域の医療機関でリーダーとなる人材の育成を行っております。
 人材育成における医学教育は、卒前教育を担当する医学科教育センターと卒後教育を担当する卒後教育開発センターを統括して担当する専任教授を配置し、一貫した教育体制を整えています。大阪大学医学部らしい全人的医療人の育成、臨床教授・准教授制を取り入れての地域医療実習の充実、高い価値創造力やリーダーシップ、国際力の高い世界で活躍するグローバルな医学研究者や医師の育成を目指した教育カリキュラムの充実に努めています。初期臨床研修から専門医育成プログラムにおいても大学病院と地域の医療機関が連携して責任を持って教育の充実に取り組んでいます。さらに、社会人大学院制度を含む高度な大学院教育とも連携させ、大阪の医療レベルの向上から新しい医療の開発まで、常に高い意識を持って活動できる人材育成を心がけています。

 さて、昨今の医療を取り巻く環境は、様々な点でめまぐるしく移り変わっています。大学における医学・医療の教育カリキュラムも常に変革が求められています。最近の大阪大学の動向を地域医療との関係で3点紹介いたします。

 ひとつは、大阪大学医学部附属病院が平成27年8月に臨床研究中核病院として全国で最初に承認された3施設のひとつとなったことです。これまでも、基礎講座と臨床講座の強固な連携によって推進してきた橋渡し研究などによって高度な知識を持って地域医療に貢献できる人材を養成してまいりました。平成25年度には、社会環境医学の重要性を鑑みた措置としてMaster of Public Health の教育コースを医科学専攻の修士課程に開設しました。さらに、今後のダイバーシティに対応すべく、医療情報や医学統計、バイオインフォマティクス, メディカルエンジニアリングなどの新領域の充実にも取り組んでおります。今後の臨床研究中核病院としての活動は、必ずや地域医療にも貢献するものと信じております。

 2つめは、新専門医制度における役割です。大阪大学医学部附属病院は、それぞれの専門医制度の中で地域における基幹病院としての役割を果たすべく準備を進めております。関連病院との強固な連携を生かし、地域医療の更なる充実を目指した専門医教育に取り組む所存です。

 3つめは、文部科学省事業である未来医療研究人材養成拠点形成事業(平成25~29年度)の、「リサーチマインドを持った総合診療医の養成」において大阪大学が拠点のひとつとして選定されていることです。「地域に生き世界に伸びる総合診療医養成事業」と名づけた事業は、①地域の高齢者医療においてリーダーシップを発揮できる総合診療医の養成、②世界に発信すべき社会システム構築に貢献できるリサーチマインドを持った人材の養成を大きな柱としています。大阪大学医学部附属病院の卒後教育開発センター、総合診療部、老年・総合内科学講座、総合地域医療学寄附講座などが一丸となり、全ての診療科のバックアップを得て、大阪大学に課された大きな地域的課題である千里ニュータウンの超高齢化に関わる諸問題に対して、リーダー型総合診療医養成の観点から貢献することを目指しています。

 大阪大学医学部の原点である適塾の精神を受け継ぎ、真に革新的な人材を育成し、地域医療への貢献を図るとともに、開かれた医学部として日本から世界に情報を発信し続けたく存じます。