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地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は秋田大学での取り組みについてご紹介します。

日本の国情・本県の2次医療圏の実情を考慮した
地域医療充実のための秋田大学の取り組み
文責 : 秋田大学大学院医学系研究科 医学専攻 医学教育学講座 教授 長谷川 仁志 先生

 これまでの日本医療の独特な国情と本県の2次医療圏の実情から熟考すると、本県の地域医療充実を担う医療人としては、地域包括ケアを担う総合診療医とともに、総合力(=教育力ある)各科専門医の充足による2次医療圏の中核病院各科の維持も優先される状況にある。それには、卒後臨床研修医と、その後の基本19領域の専門研修医数の増加につながるような、大学と県内医療機関が一体化した理想的な医師育成教育・研修の充実が生命線となる。以下に、その理念を達成するために、近年、秋田大学と秋田県、県内医療機関が一体化して進めてきている取り組みについて、4つの観点から述べる。

1.『総合地域医療推進学講座(寄附講座)』の取り組み (図1)

 2008年、秋田大学医学部に総合地域医療推進学講座(秋田県からの寄附講座)が開設された。本講座は、開設後、はじめに県内医療充実のために県内医療と全国や世界の医療体制の情報を収集・比較解析し、真に今の秋田県に必要な方針について検討した。その後、大学と県内医療機関の一体化した卒前・卒後教育研修の充実を各科横断的に推進する役割を担っている。

1)地方都市の医療維持・充実のためには、総合診療医とともに総合力ある各科専門医が必要な日本の国情(=卒前教育改革が必須)
 これまで日本のほとんどの医師は、各科の専門医として大学や中核病院などの病院勤務医としてキャリアを開始した。その後、一定の経験を積んだ各科専門医(中核病院勤務医)の多くは、かかりつけ医や総合診療医へとキャリア転換して、医療連携の要である各種診療所や連携病院・施設で分野横断的・総合的な診療を担うことにより、世界一の医療アクセスを維持し、地域医療を展開してきた独特の国情がある。
 基本18領域専門各科がいずれも比較的充実している大都市圏と違い、秋田県をはじめ国土の約7割の面積を占める地方都市の多くでは、19番目の新専門医としての総合診療医の充実はもちろん必要であり、今後も増加することが推奨されるが、これまでの国内の体制から急激な増加には限界があることから、その方針のみでは県内の地域医療を維持できる状況ではない。実際、多くの地方都市では、総合診療医の充実とともに、およそ5~10万人医療圏人口以上の広大な2次医療圏最後の砦である中核病院各専門科の維持も優先される現状にある。卒前教育改革によって総合力ある各科専門医を充足させ、その後のキャリア転換によって、その先の1次医療圏・地域包括ケア充実へ結び付ける日本の国情を生かした展開が必要である。それには、すべての医学生が、卒後に医師として当然の総合的な能力を発揮するための卒前教育が必要になるが、この点は専門に偏り過ぎている日本の医学教育改革における最大の目標となっている。ほぼ100%医師免許を取得するための医学教育の在り方が、真に社会のニーズに応えるべき時期に来ている。

2)県内2次医療圏・中核病院と一体化して入学直後の1年生から6年生~卒後臨床研修~新専門医研修までのシーレスな教育・研修体制を構築して県内医療の充実へ
 上記1)の背景から、本講座は、大学と県内医療機関が一体化して、全医学生に対し、将来、何科に進んでも大切な総合的な診療能力を修得するために、1年生の入学直後から通年で、①医療行動科学としての医療面接コミュニケーション学習、②基礎及び臨床各分野と統合した主要症状ベース臨床推論の問題解決型学習、③保健学科との多職種連携合同PBL講義、④医師役・患者役・医療面接ロールプレイ学習、⑤日本語・英語の医療面接客観的臨床能力試験(OSCE:年4回)、⑥大学と県内医療機関における早期臨床実習(3~4日間)を実施している。3年生では、①地域包括ケアに関する症例ベースの地域医療PBL学習、②将来何科に進んでも大切な内科救急・臨床推論、③パートナーシップを持ったEBMのとらえ方に関する学習、④(1年生に引き続き)大学と県内医療機関における早期臨床実習1週間をコーディネートしている。5年生では、①何科に進んでも大切なプライマリケア内科救急シミュレーション実習、②県内医療機関における地域包括ケア実習(2週間)を調整している。6年生では、臨床実習終了時OSCE(16ステーション)を担当しているが、この際、教育アウトカムを共有して翌年からの実習充実に役立てるために県内医療機関指導医のOSCEへの見学を調整している。 この他にも本講座では、秋田県臨床研修協議会の各種企画への関与、シミュレーション教育・多職種連携教育の充実、高校生への秋田大医学部セミナー開催などを多角的に進め、卒前・卒後シームレスに教育研修の充実につなげる活動を推進している。

3)本学では医学生の4割以上が女性であり、子育て中の医師(男女にかかわらず)のワークライフバランスの充実は地域医療の生命線の一つである。この課題解決は、本講座活動の重要な柱の一つに位置付けられてきた。本講座では、全国に先駆けて2009年から3年生必修講義において男女共同でこの問題に取り組むPBLを含む1日間のカリキュラムを実施しているほか、1、5、6年、研修医向けの企画も行っている。県内(主に外科系を目指す)の女性の研修医・若手医師に対しては、本講座女性教員とともにこの分野の先進国である米国女性外科医会の年次集会への参加を後述のあきた医師総合支援センターと連携してコーディネートするなど、県内地域医療充実のための女性のモチベーション、リーダーシップを育成するグローバルな取り組みも積極的に推進している。
 これら本講座の教育活動や取り組みには、毎年、全国の医学部教員の見学希望があり受け入れてきている。

 
   図1


2.『総合臨床教育研修センター』および『あきた医師総合支援センター』による県内一体化した理想的な医師・医療者育成教育研修の強化
 前述してきたように、大学および県内医療機関における医師・医療者育成教育研修の充実は、地域医療充実のための必須条件である。この目的を達成するために、本学では2012年に東日本最大規模(3階建、1200㎡)のシミュレーション教育センター(http://career.hos.akita-u.ac.jp/sim/)(地域医療再生臨時対策基金を財源として整備)を開設し、国内外と連携して県内の医師・多職種連携教育・研修の充実のための各種シミュレーションセミナーを開始した。現在、学内、県内の学生、医師、看護師中心に年間7000名前後の利用実績となっており、病棟単位でこの施設を利用する県内医療機関も出てきている。2014年には学内および県内の卒前・卒後教育研修のシームレスな展開を強化するために、このシミュレーション教育センターを包括し、それまでの卒後臨床研修センター機能を各分野横断的に多職種の卒前・卒後教育研修に拡大する形で『総合臨床教育研修センター』を開設した。また、県内医療機関各科の教育・研修充実のための各種企画のサポートを担いながら、学生・研修医の相談窓口となる『あきた医師総合支援センター』(地域医療再生臨時対策基金及び地域医療介護総合確保基金を財源とし、県が秋田大学に委託して運営)が開設された。


1)『総合臨床教育研修センター』は、附属病院の全診療科と看護部・薬剤部をはじめとする各部門および医学科・保健学科の委員から構成されている。本センターは、本学のみならず、2次医療圏の医療充実のためにその地区の多職種連携教育を担う県内の中核医療機関の教育部門と連携しながら、全県的に卒前・卒後教育、卒後臨床研修・専門医研修、多職種連携教育(IPE: inter professional education)、生涯教育、入学前教育、教育・研修のグローバル化、ワークライフバランス支援等を積極的に推進する役割を担っている。

2)『あきた総合医師支援センター http://akitamd-support.com/http://akitamd-support.com/』は、シミュレーション教育研修センター内に事務局を設置し、上記活動の多くをサポートすることにより、県内の医師の各種支援を実施している。重要な役割の一つに、学生(特に地域枠など修学資金を受けている学生)や研修医に、卒後臨床研修および専門医研修に向けての進路相談の他、2次医療圏の当該診療科の状況を鑑みながら、本人や各講座キャリア担当者と毎年の勤務先を検討する役割を担っている。週に1回、定期的に学内センターメンバーと県の担当者で会議を行っており、県内に勤務する若手医師のキャリア支援のために、より細やかな対応を目指している。
 1)2)両センターは、それぞれの取り組みを支援する形でも統合しており、医学部・附属病院各分野、県内医療機関の教育・研修部門、国内外の関連教育機関との連携を強化し、これからの大学の役割として、最前線の地域包括ケアから、最先端の各分野専門まで、理想的な医師・医療者育成のニーズに対応した教育・研修・研究を充実する活動を推進している。(図2、図3)

   
  図2
 
  図3


3.地域枠学生(県の修学資金)のキャリアプラン
 地域枠学生は、平成18年度5名から募集開始し、平成20年度からは定員を増やす形で、平成27年度秋田県枠19名、全国枠5名まで増員してきた。しかしながら、その分、県内から一般枠で入学する学生が減少しており、総数では定員を増やした分、県内出身者が純粋に増加している状況ではない。本県の地域医療充実のためには、これまで述べてきたように県内で卒後臨床研修および基本19領域各分野の専門研修医数を増やし、2次医療圏の中核病院の各科を充実していくことが優先的な実情にある。このような背景から、本学の卒前教育では学生を全く区別せずに、医学教育改革の目標であるすべての学生に対する医師として当然持つべき総合的な診療能力修得を保証すべく、大学と県内医療機関における卒前・卒後教育の充実のための前述の取り組みを進めている。平成18年19年入学の地域枠学生は、卒後3、4年目を迎えているが、希望する専門研修の修練を県内医療機関で実施している。

4.各科横断的な教育・研修・研究を充実する2つの大学院講座の開設
 本学大学院に、医学教育学講座(2013年)と、総合診療・検査診断学講座(2014年)が開設された。これらの講座では、各科横断的・総合的な教育・研修・研究を充実し、前述の流れを強力に進めることを目的として各分野・各機関と統合した展開を進めている。

 以上、日本の国情・本県の2次医療圏の実情を考慮した地域医療充実のための秋田大学の取り組みとして4つの観点から述べた。地方都市の地域医療が厳しさを増す中、医学部長・病院長のリーダーシップのもと、大学、県内医療機関、県が統合して取り組む体制が築かれてきている。医学教育の認証評価時代に入り、今後の新専門研修の充実に少しでも結びつくような卒前・卒後の取り組みを、これまで以上に大学と県内医療機関が一体化して進めていく必要がある。