*第44回*  (H28.2.4 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は北海道大学での取り組みについてご紹介します。

北海道大学における地域医療人育成に関する取り組み
文責 : 北海道大学病院卒後臨床研修センター  センター長  平野  聡 先生
    副センター長 石森 直樹 先生 
■ 北海道の地域医療体制とその特殊性 ■
 北海道は日本全国の国土面積の20.7%を占めますが、人口はわが国の人口のわずか4.2%を占めるにとどまります。さらに、北海道の人口の36%が札幌市に集中しており、北海道における生活環境は、札幌市を中心とした地域と、その他の地域で大きく異なっています。また北海道の地域医療体制も2極化しており、札幌圏とその他の地域との間で、医療資源に関する充足度は大きく乖離しています。
 図1は医師数の充足状況を2次医療圏毎に表示したものです。人口当たりの医師数が全国平均を上回る(青色表示)2次医療圏は、札幌と旭川を中心とした地域のみであり、北海道の大部分の2次医療圏が全国平均の8割に満たない充足率(黄色・赤色で表示)であるため、北海道の地域医療体制の維持においては医師数の確保に加え、医師偏在の是正が極めて大きな問題となっています。

   
  各地域の人口当たりの総医師数(病院勤務医および診療所勤務医)指数 (全国平均で標準化)
(0.6未満;赤色、0.6以上0.8未満;黄色、0.8以上1.0未満;無色、1.0以上;青色で表示)

■ 北海道の地域医療における本学の役割 ■

 上記の様に、北海道の地域医療は、広大な土地に医師が偏在するという、深刻かつ独特の問題を抱えており、多くの地域において医療サービスへのアクセスで大きな支障が生じています。これまで北海道に所在する3医育大学では、互いに協力しながら医師の関連病院への出向を通じ、地域医療体制の堅持に努めてきました。しかしながらご承知の通り、平成16年に導入された新臨床研修制度によって「若手医師の大学離れ」が急激に進行し、多くの若手医師が「大学病院から都市部の市中病院へシフト」した結果、大学が担ってきた地域への恒常的かつ均質的な医師派遣が困難となり、北海道における地域医療は崩壊の危機に直面しています。
 とはいえ、およそ一世紀にわたり北海道全域の医療を支えてきた本学の役割が、他の機関によって替わられることはありません。いかなる悪条件にあっても、「地域医療における医師確保と医療の質の維持向上」という大命題が本学に課せられた使命であることは、医学部・病院及び各診療科に共通する認識であります。


■ 地域医療人育成に関する本学の取り組み ■
 本学では、学部教育から初期臨床研修、そして後期専門研修へと繋がるシームレスな地域医療を担う人材の育成を行い、さらには専門医・指導医を地域と大学で循環させる独自のシステムを発展させてきました。
 学部
教育においては、これまでの大学病院を主体とした臨床実習から、北海道全域に広がる教育研修病院を含めた複合型臨床実習へ発展させ、医学生の段階から地域医療の重要性を体感できる様、カリキュラムの改編を進めています。
 また、初期臨床研修では、いわゆる「たすきがけ研修方式」を採用して当院のほか、道内の第一線の研修病院で1年間にわたる研修を通じて、医師の立場より地域医療を体験することを推奨しております。プログラムは本学におけるフロンティア精神に則った自由闊達な雰囲気を生かし、リサーチマインドを育みながらも地域医療の重要性を充分理解し、それを適切に実践できる若手医師を社会に送り出すべく、改良を重ねてきました(詳細については当院卒後臨床研修センターHP;http://www.huhp.hokudai.ac.jp/sotsugo/)。
 
後期専門研修においては、平成29年度から「新専門医制度」が導入されますが、本制度は専攻医のほか指導医など多くの医師の配置に影響を与える可能性が強く懸念されています。北海道における医師の偏在がさらに助長され、地域医療が崩壊することの無い様、本学では制度の本質をしっかりと見据えて、地域医療を守る観点より18基本領域において本学を基幹施設とした研修施設群を構築いたしました。
 さらに、広大な医療圏を有する北海道の地域医療では、医療圏を越えたアクセスが困難であるため、各地域への専門医や指導医の供給・配置が重要となります。本学と病院は平成20年以降、多くの地域医療支援プロジェクトを施行してきましたが、なかでも「地域医療を支える大学病院・地域中核病院循環型医師出向制度」(図2)はまさに人材とともに専門性を同時供給し、大いに成果を挙げたものと評価されています。本プロジェクトでは、北海道大学病院勤務の専門医が特任助教として任用され、1年間の大学病院勤務の後、2年間、地域中核病院に派遣され、その専門性を生かした診療や指導を行い、再び大学病院で特任助教のポストを2年間継続することになります。派遣された専門医は決められた期間でいかに地域医療に貢献できるかを考え、それまで地域の医療者だけでは実現できなかったさまざまな診療の実現、医療体制の整備などに精力的に取り組みます(表1)。その後は派遣先の医療を自らの手で変革した自信と、医療者のみならず地域からの感謝を胸に帰局し、高いモチベーションでさらなる専門性の向上を目指し充実した日々を過ごします。北海道大学では、このような専門医・指導医を介した地域と大学の循環こそが地域医療再生の突破口と考え、さらなる効率的な循環方法を模索し続けております。
   「地域医療を支える大学病院・地域中核病院循環型医師出向制度」