*第5回*  (H24.7.17UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は北海道大学での取り組みについてご紹介します。

北海道大学での地域医療の取組
文責: 北海道大学医学部長 玉木 長良 先生
                    北海道大学病院・卒後臨床研修センター副センター長 宮田 靖志 先生
 北海道での地域医療の問題はその地理的条件のため、全国の他の地域以上に深刻ではないかと思います。医師数は全国平均となっておりますが、札幌、旭川以外の地域での医師不足は深刻で、多くの地域で専門医療を受けるために何時間もかけて遠方のセンター病院を受診しなければならないという事態が、ここ北海道では生じているのです。
 かねてより、北海道内では北海道大学と札幌医科大学、旭川医科大学の3大学と地域の基幹病院、地域医療の最前線の診療機関、そして北海道庁が連携して、地域医療に貢献できる医師の養成とその派遣システムの構築を進めてきましが、北海道の地域医療の最後の砦となり道民の医療を支えることをその使命のひとつとしている我が北海道大学病院では、地域医療支援のための北大病院独自の取り組みも進めております。
 具体的には平成20年から地域医療診療支援と地域医療の指導医を支援するプロジェクトを立ち上げ、現在4つの支援事業(①医療人養成・地域医療支援プロジェクト、②医学部・大学病院の教育研究活性化及び地域・へき地医療支援人材の確保事業、③臨床指導医養成プロジェクト、④専門医派遣システム推進事業)を行っています。北海道内には質の高い医療を提供している地域基幹病院、臨床研修指定病院が数多くあり、これらが診療及び教育研修の重要な拠点となっていますので、これらの地域基幹病院、臨床研修指定病院に北大病院から若手医師や中堅医師、指導医を派遣することで、地域医療を重層的な診療体制、教育体制によって支えていく、というのがこの4事業の取組の趣旨です。この事業を有効に進めるために、北海道大学病院と道内の29の地域基幹病院(図1)との間には北海道庁の協力も得て出向協定が結ばれ、実際に多くの医師がこの協定のもと地域医療機関で診療、教育に従事しております。
 
 図1 29地域基幹病院との協定

■北大病院の地域医療支援4事業(図2)
医療養成・地域医療支援プロジェクト
北大病院で1年間助教として地域医療支援のための診療、教育のスキルを磨き、その後2年間実際に地域医療支援を行うもの
医学部・大学病院の教育研究活性化及び地域・へき地医療支援人材の確保事業

大学病院で勤務しながら、週の1.5日地域医療支援を行うもの
③臨床指導医養成プロジェクト
北大病院で1年間助教として勤務してスキルを磨いた後、実際に2年間地域医療支援を行い、その後再び大学病院に2年間勤務するもの
専門医派遣システム推進事業
北大の各医局が中心となって若手医師を直接地域医療機関に派遣するもの
 
 図2 北大病院の地域医療を支える取り組み

 私どもがこのような4つのプロジェクトを同時進行させている理由は、かつてのような単純な医局派遣による地域医療支援体制では問題が解決できないという認識があるからです。地域医療は若手医師にとって確かに充分にやりがいがあり、地域住民から寄せられる信頼は医師冥利につきるものでありますが、一方で、若手医師は地域医療とは別に、高度医療技術の習得や医学研究、教育活動など、それぞれが考えるキャリアプランも持っています。このような若手医師のキャリアプランを考慮せずに真に有効な地域医療支援システムは構築できないと考えます。上記の4プログラムは、若手医師のキャリアプランを考慮した多様性のある内容を備えており、ある者は継続して地域医療支援に当たり、ある者は一定期間で次の医師と交代して別のキャリアを進むことができます。4事業を有機的に実施することで継続して北大病院から地域医療機関に診療、教育支援を行うことが可能となり、サステナビリティーが保たれた責任を持った地域医療支援体制を構築できていると自負しております。
 北大病院の4事業にて、すでに20名を超える優秀な人材が地域基幹病院に従事し地域医療に大きく貢献しており、道民からの北大病院への信頼はこれまで以上にさらに向上しております。地域医療の支援には、勤務した医師が安心、安全にその地域医療機関で過ごせることと共に、各自のキャリ形成にもつながるシステムの構築が必要であると考え実施している北大病院の4事業は、全国の他の大学病院でも構築可能であり、地域医療支援のモデルとなるのではないかと考えています。