*第55回*  (H29.2.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は金沢大学での取り組みについてご紹介します。

シリーズ「地域医療を支える国立大学医学部の役割」
文責 :  金沢大学附属病院特任教授・総合診療部部長 野村 英樹 先生
 本シリーズの第17回において、平成25年当時の本学の地域医療に関する取組みについて医学教育研究センター松村正巳准教授(現自治医科大学地域医療学センター総合診療部門教授)からご報告させて頂きましたので、その後の進捗についてご紹介致します。
 医学類(医学部に相当)学生に対する地域医療実習ですが、前報にもありますように、従来より石川県特別枠(地域枠に相当)学生を対象として、春季および夏季休暇期間中に「地域医療研修in能登」を実施しております。1年生から6年生までの石川県特別枠学生は60名の大所帯となりますが、主として低学年の学生が参加し、まずはへき地の現状を知る機会として活用されているものと認識しております。
 共用試験を終えてからの5~6年生については、今年度までは、総合診療の臨床実習で一部の学生が能登を含めた遠隔地で4日間の実習を行っていました。受入れ先病院には宿泊施設の提供などの負担をお願いしておりますが、一方で熱心に御指導を頂いている医師の方々からは、4日間という期間はやや短く、1週間単位で回っている地域病院において地域包括ケアのあり方を学ぶには少し物足りないのではないかとのご意見もありました。また、従来は一部の病院に負担が集中しないよう、金沢市内を含む多くの医療機関に実習をお願いしておりましたが、時々学生が実習に来るような状況では指導のノウハウの蓄積が生じにくく、「お客さん」のように見学だけになってしまう場合が少なくないようでした。
 分野別認証(国際認証)においては8週間にわたる総合診療の臨床実習が必要となることから、今後は地域医療機関が本格的な教育病院に脱皮して頂く必要があると認識しています。そこで次年度からの総合診療実習では、全実習期間にあたる7診療日(週末を挟むと9日間の実習となります)を通じて地域医療機関で学んでもらうことに変更を予定しています。学生を週末まで拘束することはできませんが、地域医療機関には週末を通じた宿泊の提供をお願いしており、学生が週末に地域を回って、地域の人びとの生活に触れる機会も提供したいと考えています。さらに、同時期に総合診療実習に参加する学生が8名で(一部7名の場合も)あることから、実習先病院を8医療機関に絞り込み、1医療機関あたりでは1年間で学生が7日間×15名実習に訪れるという形とし、教育のノウハウと人材を蓄積して頂きたいと考えています。総合診療の臨床実習が8週間となりますと、さらに受入れ先医療機関を増やす必要がありますが、その際には今回の経験が活きるものと期待しています。
 卒後においては、総合診療専門研修制度の開始を念頭に、金沢医科大学総合内科ならびに石川県健康福祉部地域医療推進室の先生方とご相談し、「北陸総合診療コンソーシアム(Hokuriku General Practice Consortium, HGPC)」(画像1)を立ち上げました。HGPCは、専攻医のさまざまなニーズに応えたテーラーメイドの総合診療専門研修を提供し、これからの北陸のプライマリ・ケアを担う若い人材を育成するために、国公私立、大学・研修病院・診療所などのあらゆる壁を越えて、石川県を中心とする北陸の8つの基幹病院と29の連携施設により策定された極めて画期的な連携プロジェクトです(画像2)。専攻医は、総合診療医としての基礎を身につけることはもちろん、家庭医療、病院総合診療、医学教育や臨床疫学研究など、自分の描く将来像にマッチした特色ある育成目標を掲げる基幹病院を選択することができると同時に、どの基幹施設を選択しても、働いてみたい他の基幹施設や連携施設でも一定期間研修し、新たな経験を積み、人脈を拡げ、将来の活躍の基盤を作り上げることができます。また、HGPCの基本理念として本コンソーシアムに参加する基幹病院は、他の基幹病院に所属する専攻医であっても、たとえ自分の施設では研修する予定のない専攻医であっても、将来の北陸の医療を担う大切な仲間として別け隔てなく支援することに同意しています。
 
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 以上ご紹介させて頂きましたように、本学における地域医療教育は変化の過程にあります。「変化はコントロールできない。できることは、その先頭にたつことだけである」とはドラッカーの言葉だそうですが、金沢大学医学類は北陸最古の医学部として地域に対する責任を果たすため、今後も地域医療革命の先頭に立って精進して参りたいと存じます。御支援を賜りますれば幸いです。