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地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は長崎大学での取り組みについてご紹介します。

長崎大学医学部の地域医療人育成の取組について
文責 : 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 地域医療学分野教授 前田 隆浩 先生

 長崎大学医学部は、長崎県が昭和45年に創設した医学修学資金貸与制度とも連動しつつ、長年にわたって地域医療を担う人材を輩出してきました。平成20年度には地域枠入学制度を導入し、平成23年度からは医学部入学定員121人中25人を地域枠に割り当てています。平成24年4月時点で72人(1年生〜5年生)の地域枠学生が在籍しています。
 長崎県は全国一離島の多い県であり、54の有人離島に県人口の約10.5%にあたる155,614人が暮らしています(平成17年国勢調査)。こうした離島では、プライマリ・ケアから専門医療に至る多彩な医療が機能しており、保健・医療・福祉・介護の連携がコンパクトで見渡しやすいことから、地域包括医療を学ぶには格好の教育フィールドと言えます。長崎大学では、1年次、3年次、4年次の地域保健・地域医療の講義と実習に加え、近年、離島(五島列島、対馬島など)をフィールドとした地域医療教育に力を入れています。
 地域医療教育を強化するにあたって、まず平成16年5月に長崎県と五島市による寄附講座「離島・へき地医療学講座」を開講しました。開講と同時に離島での活動拠点として長崎県五島中央病院内に離島医療研究所を開設し、3名(開設当時は2名)の大学教員が常駐して、離島・へき地医療に関する教育と研究、そして診療支援に取り組んでいます。また、平成17年度には、長崎大学病院にへき地病院再生支援・教育機構を設置し、県北の平戸市民病院を拠点として、主に卒後の地域医療教育の充実を目指した取組を始めました。平成22年度には、長崎大学歯学部が五島市に離島歯科保健医療研究所を設置し、離島医療研究所と連携しながら歯学部生の地域医療教育を行っています。さらに、長期的・広域的な地域医療の教育と研究を追究するため、平成24年7月、大学院医歯薬学総合研究科に地域医療学分野を設置しました。

 長崎大学医学部では、公衆衛生学教室が担当していた社会医学実習と総合診療科の臨床実習の一部を平成16年に統合し、離島医療・保健実習として臨床実習に組み込みました。この結果、医学部5年生全員が離島に1週間滞在して、保健・医療・福祉・介護の現場をローテーションしながら地域医療と地域保健を学ぶ実習を行うことになりました。医療分野の実習は、地域中核病院とへき地医療機関をセットで訪問するスケジュールとなっており、この実習全体を離島・へき地医療学講座がマネジメントしています。

 平成17年度からは医学部6年生の希望者を対象として、離島の中核病院で学ぶ4〜5週間の地域医療実習(高次臨床実習)を開始し、平成18年度からは他大学の医学生を受入れ始めました。さらに、平成19年度からは薬学部と歯学部の学生との共修(専門職連携教育)を開始し、平成20年度からは医学部の地域枠入学生(1年〜3年)を対象として、地域医療の短期集中ゼミ(3泊4日)を離島で開始しました。このように平成16年度に五島市で始めた地域医療教育の取組は、徐々に対象と実施地域を拡大し、今では大学と学部を超えた地域医療の一貫教育へと発展しています。この一連の取組は平成16年度の文科省企画「特色ある大学教育支援プログラム」と平成20年度の「質の高い大学教育推進プログラム」に採択されており、これまでに1,800人を超す医療系学部学生に対して地域医療実習を行ってきました。この地域医療教育を受けた学生の中から、毎年、離島の研修指定病院に研修医が誕生しており、卒前と卒後の地域医療教育が連動しています。

 地域包括医療やへき地医療の教育に主眼を置いた離島での実習プログラムに加え、地域中核病院で学ぶ実習プログラムを平成24年度から導入し、大学周辺の4つの中核病院で1週間の地域病院実習を開始しました。医学部5年生全員が対象で、この実習も臨床実習の一環として位置付けられています。都市部中核病院で学ぶ地域医療教育(Step 1、1週間)と、離島で学ぶ地域包括医療教育(Step2、1週間)の2つのプログラムによって、実践的な地域医療教育がさらに充実することになりました。今後は地域枠入学生に対する地域医療教育を充実させ、実習施設を県央や県北などに拡大していく予定です。

 高齢化が進み、医療に対するニーズが多様化する中、地域の様々な社会資源を活用し、住民ニーズに応えることのできる実践スキルが求められています。こうした実践的な地域医療教育はこれまであまりなされてきませんでしたし、触れる機会も乏しかったのが実情です。これからは、地域医療にかかわる多職種の方々や地域住民(NPO法人)、そして他大学と連携しながら、体系的・実践的な地域医療教育とチーム医療教育を推進していきたいと考えています。また、地域医療の充実を長期的な視点で捉え、地域医療人を育成する一方で、地域医療に従事する医師のキャリア支援についても具体策を検討していく必要があります。

 
【写真1】 
人口約3,000人の小値賀島の診療所では、スタッフが定期的に人口数十人の小離島を巡回して診療を行っています。学生がこの巡回診療に同行し、診療参加型の臨床実習を通してへき地医療への理解を深めます。 

 
【写真2】 
ドクターヘリによる救急患者搬送の体験実習をすることもあります。 

 
 【図1】
長崎大学医学部では、入学直後の早期体験実習から、3年次の診療所や社会福祉施設での実習、4年次の地域医療・地域保健の講義、そして5~6年次の地域医療実習に至るまで、実践的な地域医療教育に力を入れています。


 【取組に関するHP】
http://ritouken.net/ritouken/index.html