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今回は佐賀大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における佐賀大学医学部と地域医療機関との連携
文責 : 佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センター 教授
佐賀大学医学部附属病院卒後臨床研修センター 准教授
佐賀大学医学部地域医療支援学講座 教授
佐賀大学医学部長
小田 康友 先生
江村  正 先生
杉岡  隆 先生
原  英夫 先生

佐賀大学の卒前卒後教育の特徴
 本学は、昭和53年(1978年)に佐賀医科大学として開講し、平成15年(2003年)に佐賀大学と統合して佐賀大学医学部となった。医学科は、地域医療を志向し、生涯にわたって主体的に問題に取り組み成長していくことのできる自己主導型学習者の養成を目指しており、地域医療機関と幅広く連携している。
 卒前の医学教育は、医学部地域医療科学教育研究センター地域包括医療教育部門を中心に行われている。医学科カリキュラムは、開学時より北米の先進的な教育システムを導入し、生涯を通じて「自己学習・自己評価」のできる医師、地域医療に貢献する医師、人間性豊かな倫理観の備わった医師の養成を目指している。医療人としての自覚を高め、深く豊かな人間性を陶冶する機会を与えるため、1〜2年次の「医療入門」では、地域医療、保健・福祉施設での見学実習を繰り返し、Early Exposure、Clinical Exposureなど、早い時期から保健医療福祉の現状に触れる「早期体験学習」を設けている。目新しいところでは、佐賀少年刑務所の見学を2年次に必修化したことがある。これは矯正医療を知るだけでなく、教養科目の弱体化によって失われた社会学的な視点を学生に持たせる有用な機会となっている。3〜4年次の「臨床入門」では、臨床実習に必要な基本的臨床能力の教育を、座学と並行して行っている。さらに臨床技能訓練では、地域住民のボランティアによる模擬患者団体によるコミュニケーショントレーニングを活発に行っている。5年次は附属病院でのClinical Clerkship(診療参加型臨床実習)が、6年次は地域中核病院だけでなく、100床規模の中小病院、診療所での実習を15年前から必修化してきた。学外実習については、国際標準に基づく分野別認証評価の受審に備え、診療参加型実習の実質化に向けて、プログラムの拡充、教育の目的や方法を共有するなど、実習機関との連携を深めている。その一方で、文部科学省からの運営交付金が年々縮減される中、実習謝金増額分の予算確保は難しく、実習単価の見直しを余儀なくされてはいるが、各実習機関には概ね好意的に対応していただいている。
 卒後の医学教育は附属病院卒後臨床研修センターを中心に行われている。「佐賀大学医学部附属病院関連初期臨床研修プログラム」は、開学以来地域に根差した医療を行ってきた本学の特徴を活かした「地域基盤型大学研修」であり、コミュニケーションスキル、全身管理能力、各診療科に共通する臨床技能の修得を柱に掲げている。佐賀大学の卒業生の一番の研修先であり、採用者の90%以上を自学出身が占める。研修先に佐賀大学を選んだ理由の調査を行ったところ、臨床実習の際に熱心な指導体制に触れ本学に残った、という声が多く、研修医確保の観点からは、自大学の出身者を出来るだけ多く残すことが、他から研修医を呼び込むことより、まず重要と考え、臨床実習の充実に力を注いでいる。卒後臨床研修センター内のスキルスステーションを、研修医教育のみならず、積極的に病棟実習時の医学生の技能実習の場に利用し、学生にとって身近な場所になるようこころがけている。卒後臨床研修センターの教員は、前述の地域包括医療教育部門の兼任でもあり、「医療入門」や「臨床入門」に関わるだけでなく、「臨床実習ワーキンググループ」の世話人もつとめている。大学病院連携型高度医療人養成推進事業への参加をきっかけに教員が増員され、卒後臨床研修センターでは初期臨床研修から専門医研修まで、若手医師の教育の管理が求められている。
 地域の医療機関との連携に関しては、卒前教育に関しては、臨床医学教育実習協力病院とともに、「佐賀大学医学部臨床医学教育実習協力病院等運営協議会」を立ち上げ、情報交換を定期的に行っている。卒後教育では、県内の研修病院と佐賀県医師会と共に、「佐賀県臨床研修運営協議会」を立ち上げ、県内の研修医合同でオリエンテーション、臨床研修指導医講習会等を行っている。県内の公的な医療機関を中心に、卒前の実習と卒後の研修に関連する教育施設(研修協力施設)を同じにし、地域での医学生の教育にも一貫性が保てるようにしている(表1) 。

  表1 
   

佐賀県等との連携事業、寄付講座等について
-地域医療支援学講座等での卒前・卒後教育を中心に-
 「地域医療支援学講座」は、「佐賀県地域医療再生計画」に基づき、地域医療に必要な医師を育成し、地域の医師不足や複数疾患を有する高齢者増加への対応のため、佐賀県では「幅広く対応できる総合医の育成」を目的として平成22年(2010年)に創設され、「総合医育成プログラム」を継続している。その診療・教育の拠点として、平成24年(2012年)に佐賀市立富士大和温泉病院内に、平成28年(2016年)に国立病院機構嬉野医療センター内に「佐賀大学地域総合診療センター」が開設された。両センターにおいて、専攻医は現場の指導医の指導の下で診療を実践しつつ研鑽を積む。通常の診療に加え、各種検診や健康教育等、今後ますます重要となる予防医療も併せて実践し研修している。本プログラムの特徴として、佐賀大学からも総合診療部や地域医療支援学講座の教授や講師クラスの医師が定期的に訪問、回診やディスカッションを共に行い、文献抄読や研究の指導も行っている(visit teaching)。同センターには大学病院と直結する電子カルテなどのIT関連のインフラも整備し、双方向で情報共有ができることに加え、大学病院と地域病院との医療連携モデルとして互いの役割分担を促進、効率的な医療配分にも貢献している。これまで8年間で18名の専攻医が本プログラムによる研修を受けている。本プログラムでは、総合医として必要な幅広いスキル取得はもちろん、どのような症例であってもまずは断らずに対応するという、総合医としてのマインドを醸成することを大切にしており、各々が将来そのスキルとマインドを持って地域の病院で活躍することによって、今後の地域医療を大きく下支えしていくことが、本プログラムの最終目標となる。
http://www.saga-cgmc.med.saga-u.ac.jp/index.html
 「地域医療支援学講座」は、地域枠入学生に対する教育プログラムと地域医療実習に関わっている。前者では、1年次地域枠入学生に、「特別プログラム」として、「佐賀県内基幹病院・中核病院実習」を行っている。後者に関しては、6年次に2週間行われている。現在、実習に関わる地域の診療所と中核病院は県内に、合わせて22施設であり、それらと関係した介護・福祉施設等の協力も仰ぎながら実習が行われている。

   
   

地域と連携した臨床研究の紹介
 本学神経内科では、本学の関連病院の一つで、医学生、研修医、専門研修医の修練先である祐愛会織田病院(佐賀県鹿島市)と協力し、脳ドック受診者のデータベースを活用した脳MRI研究を行っている。一連の研究はthe Kashima Scan Studyとして認められるにいたった。このように大学と関連病院との連携で得られる研究内容を世界へ発信していくことも、地域医療連携の醍醐味である。

終わりに
 佐賀大学の地域枠の中で多数を占める、「佐賀県枠」のいわゆる一期生20名が、来春卒業となる。しかし、これだけでは、佐賀県の地域医療を担っていく数として十分ではない。佐賀大学では、他都道府県の出身者を自大学に残し、地域に定着させたい。地域枠に限らず、入学者の多くが、「卒業後も自学に残りたい」と思えるようになるためには、「卒前・卒後のシームレスな医学教育の更なる充実」にほかならない。佐賀大学に入学したすべての医学生を“地域枠”の学生と考え、地域全体で育てていく発想の元、県内の診療施設の協力を得ながら、入学早期からの体験(見学や実習)を行なっていくことが、もっとも重要なことではないかと考えている。
 臨床医学教育の学修方略は、On the job training(実地での修練)である。医学生にとって最も良い指導者は、教授や施設長のように、既にできあがった臨床医ではなく、年齢も近い研修医や上級医(大学病院では医員)である。今まさに研鑽中の若手医師と共に働き、共に学ぶことがもっとも良い方法である。しかし、現在の予算不足は、この若い指導者の人員削減にまでおよんでいる。佐賀県の地域医療再生基金で一時的に増加した医師も、予算の終了により、継続して雇用できなくなった。これらは、On the job trainingを核とした、臨床医学教育に破壊的な悪影響を及ぼしており、その結果、臨床実習の指導の減少、ひいては、卒後臨床研修の応募減少という、負の循環の要因となっている。予算が増加しない現状では、地域医療機関や自治体との協力による連携講座や寄附講座の設置を、新たに模索していかざるを得ないと思われる。