*第11回*  (H31.2.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は東京大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における東京大学医学部の地域医療機関との連携
文責 :  東京大学大学院医学系研究科・医学部
  附属 医学教育国際研究センター 
  在宅医療学寄附講座
  附属病院 総合研修センター

江頭 正人 教授

山中  崇 特任准教授
木村 光利 講師

はじめに
 超高齢社会を迎えた日本では、治し支える医療としての地域医療、在宅医療の必要性が高くなっている。将来、地域医療に従事する学生、研修医だけではなく、医学研究者や各臓器の専門医を志す学生、研修医にとっても、社会と医療の関係を理解し、在宅医療を含む地域医療について学習、経験することは必須といえる。以下に東京大学の卒前教育、卒後臨床研修における具体的な取り組みについて述べる。

卒前教育
 現代の日本では、急性期医療から在宅医療まで、あらゆる医療の現場で多職種協働が不可欠になっている。そのため、東京大学医学部では、医学科2年生(M0)、医学科4年生(M2)を対象に、健康総合科学科学生(看護科学専修の学生を含む)、薬学部学生と合同で多職種連携教育を実施している。このプログラムにおいては、人の健康に関わる多様な価値観を複数の専門職の視点で理解し、将来、医師以外の職種と協働して医療を実践するための礎を築くことを目指している。
 また、医学科5年生(M3)を対象に公衆衛生学実習を実施している。実習は少人数の班に分かれて行い、地域の診療所で主にがん患者を対象とする訪問診療に同行するプログラムもある。治療・ケアの方法を学ぶだけではなく、人の生き方や人生の最終段階の医療のあり方を考える機会になっている。また、同学年を対象とするクリニカルクラークシップⅠ期のなかで、救急外来患者を対象とした総合診療実習を行っている。

 

 さらに、医学科6年生(M4)を対象に、在宅医療を中心とする2週間の地域医療学実習を行っている。本実習は、2013年度に半数の学生を対象とする選択必修として開始し、2016年度から必修化している。地域医療の教育・研究は地域の実践現場(医師会、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所)と連携して実施する必要があり、大学-地域間連携を重視して教育に取り組んでいる。本実習を開始するにあたり、千葉県柏市医師会、柏市訪問看護連絡協議会、柏市居宅介護支援事業所連絡会と密に連携を図り、実習プログラムを作成した。現在は、実習前に学生に対しアンケート調査を実施し、各学生に最も効果的と考えられるプログラムを作成している。2018年は115名の学生が東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県にある72施設で実習した。最終日には2週間の実習で学んだこと、課題と感じたことなどについて全員が発表し、実習の経験をグループで共有している。本実習により、在宅医療、地域医療に対する学生の理解が深まり、コミュニケーションの大切さや地域ごとに異なる社会の状況を認識することができている。大学の教員は、医師会の会議に参加するなど、地域の実習指導者と交流しながら学生をフォローアップし、診療参加型実習になるように努めている。


卒後臨床教育
 東京大学医学部附属病院では研修医に対する地域医療研修として、東京都内、近郊の医療機関に限らず、東北地方から九州地方まで国内の様々な地域の医療施設での研修機会を提供している。二次・三次医療圏の枠を超えた医療施設との連携もあり、毎年50名前後の研修医がへき地医療での研修を経験している。実際に、岩手、秋田、新潟、石川、三重、和歌山、愛媛、高知、長崎のへき地医療拠点病院をはじめとする医療施設との提携のもと、研修医はこれらの医療施設での研修を通してへき地医療の現状や地元住民と医療施設の繋がりについて学んでいる。
 一方で、東京都・千葉県の診療所等とも連携し、これらの医療施設における研修を通して、研修医は特定機能病院である附属病院では経験することが難しいプライマリ・ケアの実際について経験することができている。
 各地域医療施設との連絡・調整は、附属病院総合研修センターが行っている。研修施設の数が多く国内に広く施設が存在するが、研修における問題点等について緊密な連携をとる目的で総合研修センターの教職員が地域医療研修施設を訪問し、各施設の実情や研修内容について話し合う取り組みをおこなっている。今後、より良い研修プログラムを築く目的で、こうした地域医療施設との交流や意見交換をさらに密にしていく予定である。

おわりに
 東京大学は、未来の医学・医療を切り開くリーダーとなりうる医師、医学研究者の養成を目指しているが、同時に、東京のみならず全国の地域医療施設との密接な連携のもと充実した地域医療教育をおこなうことで、超高齢社会をささえる人材の育成にも取り組んでいる。