*第13回*  (2019.4.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は秋田大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携の目的
―All for patients :理想的な卒前卒後教育~生涯教育による医療充実のために―
文責 :  秋田大学大学院医学系研究科 医学教育学講座 長谷川 仁志 教授
はじめに
 医学生は、卒業後ほとんどが医師免許を取得し、人間の生命と健康を左右する判断や治療を担うことが許可される。それゆえ卒前教育には、将来、どのような分野に進んでも修得しておくべき基本的な診療能力(臨床推論・一般的な対応)を卒業生全員に実践レベルで修得させる責務がある。それには、様々な場面を想定した患者、家族、医療従事者との円滑なコミュニケーションのために必要とされる豊かな人間性、プロフェッショナリズム、医師の医療行動科学実践力の育成も含まれる。
 また、医師としてどのような医療機関で勤務しようとも、目の前の患者は、それぞれの医療機関の特性を生かした医療を受け、他の機関と連携してケアされることになる。そこで患者・家族に医療の不連続感やそれに伴う不安感を抱かせてはならず、安心して医療連携が行われ継続感を持っていただくことが理想である。それゆえ、特に高齢社会における医師には、分野に関わらずその時点で勤務している医療機関の役割に応じた医療連携力も重要となる。
 これら将来の分野に関わらず医師として必須とされる幅の広い臨床能力とコミュニケーション力、地域医療(医療連携)実践力を身につける卒前教育の目標を十分に達成して医師免許の質を保証するためには、紹介型の高度医療機関である大学医学部の教育や実習のみでは不十分であり、様々な役割を持つ地域医療機関とこれまで以上に連携していく必要がある。このことは諸外国のみならず日本でも40年以上前から繰り返し強調されてきたが、国際的な分野別認証評価時代を迎え、近年急速にその重要性が再認識されてきた。

1.本学における地域医療実習の歴史
 戦後初の国立大学医学部として1970年に創設された秋田大学医学部では、1期生が5年生の時に、地域医療機関における地域医療実習を開始した。前述の専門性に偏りすぎない理想的な卒前医学教育のためには、医学部から地域医療機関へ教育現場を移すべきという当時の米国の最先端の医学教育の流れを参考にしたものであった。当時、国内では、あまり前例がなかったようで、地域医療機関の先生を非常勤講師として指導医と認定するための手続きや、事前に文科省からの視察を受けて許可を得るなど、その準備は大変なものであったようである。その後、徐々に、地域医療機関における学生実習体制が整備されていった。

2.本学における地域医療機関と連携した卒前教育充実のための取り組み
1)1年次2学期の地域医療実習を充実するための医療面接演習とOSCE
 本学では、1年次の2学期に、学内と県内医療機関における地域医療実習を3日間行っている。その際、患者とのコミュニケーションを向上するために、2011年1学期の4月から毎週火曜日4コマの医学科初年次ゼミとして、胸痛の臨床推論、医療面接演習を開始した。学生自らが胸痛を来す循環器・消化器・呼吸器・整形外科・皮膚科・精神科疾患について、担当した疾患の概要と医療面接の観点からの病歴シナリオを作成し、クラス全員にプレゼンテーション後、患者役、医師役を演じて医療面接のロールプレイを行う。評価として、7月に胸痛の模擬患者への医療面接OSCE(日本語5分/英語5分)を実施して、2学期からの地域医療実習における患者とのコミュニケーションや身なり・態度の向上を図っている。1年次から模擬患者によるOSCEや地域医療実習を経験することにより、医学生としてのプロ意識や6年間の学習意欲が向上することが期待される。
   
  写真:1年次医療面接OSCEの様子
1年次の7月と12月に模擬患者を相手に医療面接OSCEを実施している
 


2)4、5、6年次の診療参加型臨床実習における地域医療機関とのかかわり
 本学の新カリキュラムにおける臨床実習は4年次の10月に始まり、1年目はクリニカルクラークシップ(CC)1として1~2週間づつほとんどの診療科を実習する。その後、5年次の秋からはCC2として選択で4~5週間づつ1年間で7セクションの実習を行う。その間、学内で2学年が重なってしまい適正な人数での臨床実習が困難になるので、特にCC2では、下記①~③の地域医療機関への実習プログラムを作成して人数調整を図っている。

①秋田県卒後臨床研修病院実習(3週間、5年次秋)

 学内における1年間の診療参加型臨床実習(CC1)が終了した直後、すなわち医学教育の集大成となるCC2のはじめに、秋田県内の卒後臨床研修病院を中心とした実習協力病院で 3 週間の地域実習を 5 年生全員が同時に行う。CC1の経験を生かし、上級医の指導の下で研修医とともに主治医チームの一員として診療に参加して積極的に入院あるいは外来診療を経験し、総合的な診療能力および患者や各医療従事者とのコミュニケーション力をさらに向上させる。また、この時期に、各医療機関における卒後臨床研修を経験することにより、その後のCC2期間における診療参加型臨床実習に取り組むモチベーションを上げる。

②内科系CC2 実習(4~5週間、通年、内容選択)
 内科系実習の分担としての秋田市内実習協力病院における選択実習で、内科系の専門研修の現場で実習する。

③外科系CC2 (4~5週間、通年、内容選択)
 外科系実習の分担としての秋田市内実習協力病院における選択実習で、外科系の専門研修の現場で実習する。

④地域医療CC2(4~5週間、通年、内容選択)
 これからの高齢社会では、どのような分野の医師にとっても、診療を行う各地域における地域包括ケア・医療連携を考慮した全人的医療が必須となる。本プログラムでは、①終了後にCC2通年1~2名単位で県内2次医療圏の各地域医療機関における診療参加型臨床実習を行う。これにより基本的な診療能力をさらに向上するとともに、地域包括ケアシステムと多職種連携の重要性を理解し、将来、各分野医師として様々な形で地域医療連携に関わっていくための実践力を修得することを目的とする。
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  地域医療機関による診療参加型臨床実習のコンピテンシー例   
    重要な症候や病態に対して十分な医療面接、身体診察による臨床推論ができる。
    系統だった臨床検査、画像検査が適切に提案できる。 
    正確で系統だった症例提示とカルテ記載ができる。 
    一般的な急性・慢性疾患や病態に対して治療方針の提案など適切に対応できる。 
    EBM の意義を正確に理解して問題解決のために実践できる。 
    患者さんとラポールを形成するような人間関係が構築できる。 
    広義のチーム医療、多職種連携の重要性を理解し実践できる。 
    地域医療連携、地域包括ケア、予防医学に関する知識があり実践できる。 
      介護保険等の一般的な書類を記載し、指導医に提案できる。 
      各分野医師として様々な形で地域医療連携に関わっていくための実践力を修得する。 

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3)卒業時の臨床実習終了時(PCC-)OSCEへの県内地域医療機関の指導医参加
 卒業時の最終教育目標の達成度評価を共有することで、各病院における実習内容を振り返り、翌年の実習に生かしていただくために、2012年から地域医療機関の指導医に依頼して、PCC-OSCEとその直後の反省会の見学に来ていただいてきた。PCC-OSCEの見学により、「臨床実習における教育内容のポイントを認識することができた。」とする各医療機関の指導医からの感想が多く、有意義な取り組みであると感じている。(2年前から共用試験機構のPCC-OSCEトライアルが始まり、現在、この取り組みは中止している。)


3.卒後臨床研修と地域医療機関の医学教育力
 平成3年から卒後臨床研修制度がはじまり、研修病院における教育力の重要性が認識されるようになった。これにより、それまで医師があまり学習したことがない医学教育を学ぶために、全国で指導医講習会が年数回以上開催されるようになった。この動きは現在も継続されており、大学のみならず研修病院の医学教育力は以前に比べて格段に上がっているところが多くなっている。この研修医教育の充実が、現在の大学と地域医療機関が統合した卒前教育改革につながってきており、今後の展開が期待される。

4.新専門医制度・生涯教育による地域医療への貢献
 平成30年からの新専門医制度では、これまで以上に指導の質や大学と地域医療機関が連携して研修を充実することが強調され、さらにそれによる地域医療への貢献が求められている。実際に、各分野のプログラムともこの付近を定期的に確認して向上していくために、年数回の研修管理委員会が義務付けられている。
 さらに日本医師会の生涯教育においても、卒前教育からの継続した教育充実を目指して改革が進んできている。次世代に向けた今後の展開では、e-ラーニングによる効果的・効率的な教育教材や単位認定評価法の開発、シミュレーションセンターを活用した多職種連携教育の充実や各種診療実践力の質保証など、様々な部分で卒前教育から生涯教育までシームレスに大学と地域医療機関が連携する動きも重要視されてきている。

 以上、述べてきたように、医学教育における地域医療機関との連携は、卒前教育から卒後臨床研修、新専門医制度、生涯教育の充実へとつながってきている。各場面における大学や地域医療機関の教育力向上は、その地域のみならず日本全体のより高い医療レベル向上につながる要素であり、これまで以上に重要視していく必要がある。