*第21回*  (2019.12.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は高知大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :  高知大学医学部
菅沼 成文 医学部長
 高知大学医学部は、地域医療を重要な使命としており、高知県の寄付講座である家庭医療学講座(阿波谷教授)を中心に卒前教育を行っており、特徴的な取り組みとして、家庭医道場があります。高知県の奨学金を給付される地域枠入学の学生は、現在25名となっており、地域枠学生については、年に一回の家庭医道場への参加が義務付けられており、6年間の医学教育を通じて、地域医療について考えを深めていく機会が用意されています。地域枠学生に対しては、奨学金を給付している高知県知事や医学部を統率する医学部長との面談の機会があり、高知県の医療を支える精鋭部隊として、最も手厚い支援体制を作って育てています。
 地域医療という言葉は、へき地での総合診療医としての診療をイメージさせますが、高知県の地域枠学生は、高知県のご理解によって基本診療科の研修はすべて実施可能な環境が整えられています。医療の供給体制を考えるならば、総合診療医と他の専門医との関係は日本の現状のまま進むことは問題があるように見えます。専門医としての勤務から総合診療的な働き方に変わっていく医師も多くいることを考えるとこのような医師の総合診療医としての再教育を含めて高知県全体の医療体制を構築していくことが必要になると思われます。
 地域枠学生が優先的に参加できる家庭医道場は高知大学医学部の代名詞と言えるほど、受験生に広く知られ、メディアにも取り上げられています。春には安芸郡馬路村、冬には高岡郡梼原町で開催され、1泊2日で訪問して、地域の人々とも交流しながら地域医療について考える合宿です。学生実行委員がテーマを決めて現地の方々とも相談しながらプログラムを作り上げていくのも大きな特徴です。

高知県から事業を委託されている「高知地域医療支援センター」
 高知地域医療支援センターは高知県の委託により高知大学医学部内に設置されており、高知県、高知医療再生機構、高知大学医学部が情報交換を密に行い、高知県内の医師需給状況を分析し、次代の医療を支える人材をALL高知で育てるべく、キャリア形成支援を行っています。サポート体制のためにYoung Medical Doctors Platform(YMDP)を若手医師のための相談窓口として開設しています。人口当たりの医師数は全国でも上位に挙げられる高知県ですが、県内でも地域による医師数の格差が大きく、中心部にある高知市以外は医師不足の状況が続いています。そうした状況を学部学生のうちから知ってもらおうと、幡多地域医療道場(毎年8月)、安芸地域医療道場(来年3月に第1回を開催)を奨学金受給学生対象の地域医療実習として開催しています。また、地域枠の学生に対しては、センター長をはじめ、センター専任医師、特命医師、事務職員が面談を行い、研修の様子、困っていること、将来の希望などを聞いています。また、高知医療再生機構の助成金、キャリア形成プログラムなど、進路についてのアドバイスを行っています。

ALL高知で若い医師を育てる仕組み
 高知県臨床研修連絡協議会(法に基づき設置が義務付けられている会議。年3回程度、高知医療再生機構が事務局)には、県内臨床研修病院、高知県、県医師会、高知医療再生機構、医学科学生、各病院の研修医が参加しており、研修医の確保、県全体の初期研修の質向上、研修環境の整備のために協力しています。研修医合同オリエンテーション、県内全研修医に対するBLSコース・ICLSコース、指導医養成講習会等、ガイドブック作成、県内合同説明会、県外の合同セミナー出席などを開催しています。コーチレジは全国的にも珍しい研修医自身が立ち上げた研修医の自主活動組織ですが、彼らが企画する事業への支援・補助も高知県臨床研修連絡協議会が行っています。
 一方、初期研修を終えた研修医のさらなるキャリアパスを導くのが高知県専門研修連絡協議会(高知地域医療支援センターが事務局)です。専門研修プログラム基幹施設、県医師会、高知医療再生機構、高知県、高知地域医療支援センター、高知県臨床研修連絡協議会、コーチレジ、各病院専攻医などが参加しています。県内の専攻医の確保、専門研修の質の向上、プログラム間の調整などを行います。今年度は、高知県専門研修ガイドブックを作成し、県内合同の専門研修プログラム説明会(4月)を実施しました。
 こうして育っていった医師たちが総合診療医として、また、それぞれの専門医として、県内の様々な地域に送り出され、高知大学医学部附属病院や高知市中心部の拠点病院は固より、高知県の東西における要である幡多けんみん病院、あき総合病院の中心となって高知の医療を支えています。40年の歴史を経て、高知大学医学部の卒業生たちは高知の医療に欠かせない人材として育っています。