*第23回*  (2020.2.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は旭川医科大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :  旭川医科大学医育統合センター
 旭川医科大学
牧野 雄一 教授
吉田 晃敏 学長
はじめに
 旭川医科大学は、建学の理念に基づき、地域医療に根ざした医療・福祉の向上に貢献する医師・研究者の養成、教育・研究・医療活動を通じて国際社会の発展に寄与する医療者の養成に努めている。
 本学は、現在そして近い将来の北海道が直面する人口減少と高齢化、医師の偏在などの問題と対峙し、「地元定着率の高い医療者の養成」、「地域の医療提供体制改革の推進と共生する医学教育の実践」を骨子とした地域医療機関との連携を推進する。

北海道の地域医療の現状
 国立社会保障・人口問題研究所の最新の推計では、2040年には北海道の人口は428万人と予測され、ピークの1998年( 569 万 )から 24.8 %減少し、65歳人口は40.9%を占めることが示されている。また、世帯数の将来推計によると、世帯主が65歳以上の高齢世帯が47.8%となる見通しであり、さらには 3,000人未満の自治体が北海道全体の38%強にあたる69自治体(2010 年 24 自治体)になるとの推計も出されている。今後も、北海道における少子高齢化・過疎化は全国を上回る速さで進行していくと予想され、すでに北海道では患者の医療動向にも大きな変化が起きつつある。2019年9月、厚生労働省が公表した地域医療構想の実現に向けて具体的対応方針の再検証が必要とされる公立・公的病院のリストには、北海道の54施設が含まれていた。
 一方、北海道の人口10万人あたりの医師数は全国平均に近い水準となっているが、二次医療圏毎の人口10万人あたりの医師数を比較すると、2圏域を除く19圏域で全国平均値を下回り、そのうち全道平均値(≒全国平均値)の70%未満となる圏域が10圏域、50%未満となる圏域が5圏域あるなど、医師の偏在による医師不足が深刻化している。

地元定着率の高い医療者の養成をめざした地域医療機関との連携
 このような北海道の医療事情を鑑み、本学は、より地元定着率の高い医療者を適正な数で養成することが重要であると考えている。本学では、独自の入試改革(2008年度から推薦入試、2年次編入合わせて15名、2009年度からAO入試35名を加え50名の地域枠)を実施するとともに入学定員を弾力的に見直し、今では在学生の60%が北海道出身者となっている。
 地域医療に対する強い意欲・使命感を持った入学志願者を確保するため、「高大病連携によるふるさと医療人育成の取組み」として、地域の高等学校や医療機関と連携し、高校生の地域医療機関での体験実習などを実施している。また、入学者選抜に地域社会の要請を反映させるために、地域医療機関の協力のもと、学外面接員を導入した選抜を本年度初めて実施した。入学後は、1年次、2年次に、地域医療機関ならびに介護・福祉施設や地域保健行政との連携による「早期体験実習I, II」を、5年次の参加型臨床実習においては地域医療機関との連携による「基幹病院実習」「地域医療実習」を展開している。
 一方、グループ担任制度、メンター制度などによる地域枠学生のキャリアプラン支援を通じても学生の地元定着率の向上を図っており、本年度の医師臨床研修マッチングでは56名の自大学出身者(全国1位)を母校に残すことができた【図】。本学の臨床研修プログラムでは、道内全域に配置された約130の協力型臨床研修病院、臨床研修協力施設との連携により、地域医療研修を含め充実した実地臨床研修が行われている。また、初期臨床研修プログラムと連動した専門医研修プログラムでは、地域医療教育の充実とともに医師偏在を助長しない専門医研修体制を整えている。
 さらに、入学から卒前卒後教育、専門医育成までにいたる教育指導に関わる学内各部門の連携、地域医療機関との連携の強化を図るため、医育統合センターを令和元年度に設置した。今後、本センターを中心に、より一貫した医学教育、地域医療連携を展開していく。また、教学IRの手法により、卒後の就業状況等の追跡調査を地域社会と緊密な連携をとって実施し、本学の地域枠制度のアウトカムの分析・評価をすすめるとともに、実効性のある医師偏在対策への活用を目指している。

   

地域の医療提供体制改革の推進と医学教育
 前述のように、北海道においては、「地域医療構想の実現」「医師偏在の解消」「医師・医療従事者の働き方の改革」の三位一体による医療提供体制改革の推進にむけて克服すべき課題は多い。本学は人材や技術などの医療資源の提供をはじめとする地域医療支援を医療圏域を超えて行い、地域医療構想の推進を加速化させるとともに、医学教育の充実を図るシステムモデルの構築を開始した。
 例えば、多数の市立病院が存在する医療圏域では、病院の診療所転換、回復期・慢性期型病院への転換、急性期病床を集約した広域基幹病院を設立するなど医療の効率化を促進するために、ニーズの高い診療科の医師を基幹病院に派遣し診療体制の充実を図る。同時に、臨床教育を実践する基幹病院としての機能を充実させ、本学が展開する一貫した卒前卒後教育を実施する中心的学外施設の一つとする。一方、在宅医療実績のある公立病院においては、本学の遠隔医療システムとデバイス、クラウド医療システムなどを活用するとともに、在宅看護学、高齢者看護学を中心とする看護教育支援、看護実践支援を導入し、地域包括ケアシステムの充実を図りながら、地域包括医療教育の拠点として整備することなどを目指して行く。

 本学の卒業生が活躍する地域医療機関との連携を通じて「近未来の地域医療と共生する医学教育旭川モデル」を構築し、各市町村、医療機関、地域の患者と家族、そして医育機関である本学、の全てにとって有益性の高い社会づくりに貢献して行きたい。