*第25回*  (2020.4.23 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は弘前大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における弘前大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :   弘前大学大学院医学研究科・医学部
 
廣田 和美 医学研究科長・医学部長

 弘前大学医学部は、1944年(昭和19年)の青森医学専門学校が前身であり、東北地方では東北大学医学部に次いで二番目に設立された歴史のある医学部です。弘前大学の基本方針は「世界に発信し、地域と共に創造する」ですので、医学部もそれに則った形で、青森県を中心に、秋田県北、道南も含めた地域医療を支えるとともに地域に根差した医学教育並びに研究を行ってきました。
 今回は、地域医療を支える人材を確保するための入試制度、地域医療に関する教育、自治体や教育委員会との連携、地域医療に根差した研究の4点について述べたいと思います。

 入試に関しては、平成18年度入学者(定員100名)から地域定着枠(15名)を設けました。その後、入学定員と地域定着枠の数はともに増えて、令和3年度入試では132名のうち最大82名が地域定着枠となる予定です。地域定着枠は、総合型選抜II(旧AO)で47名(青森県内枠27名)、一般選抜で15名で、卒業後に本学医学部またはその関連施設で支援期間の1.5倍(通常9年)以上の年数を勤務することを確約できる者としています。また、学士編入学20名は、卒業後に本学医学部附属病院において臨床研修を行うことを必須としています。

 地域医療に関する教育としては、早期臨床体験実習(1年次)、地域医療入門(2年次)、社会医学実習(3年次)、臨床実習入門(4年次)、地域(へき地)医療実習(6年次)があります。早期臨床体験実習では、附属病院に加え、津軽地域の学外実習施設(障がい者支援施設、児童発達支援センター、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)で、患者や入所者と接しながら実習を行います。社会医学実習では、弘前市岩木地区で10年以上にわたって実施している大規模な健診事業「岩木健康増進プロジェクト」に参加し、住民と接しながら地域保健活動の実際を学びます。地域医療入門並びに臨床医学入門の授業では、青森県の保健医療システムや疾病構造、地域における災害医療、自殺対策、国際医療について学び、将来医師として取り組むべき地域医療の課題と進むべき方向性について考えます。クリニカルクラークシップIIでは、4週間の地域(へき地)医療実習が義務付けられ、13のへき地医療実習病院のうちから一つを選んで実習をします。このうち、大間病院(大間町)、六ケ所村医療センター(六ヶ所村)とはインターネット回線で附属病院とを結び、双方向型の実習報告会を開催しています。これらの教育を通して、地域に根差した医療を理解し、郷土愛を持った医師の育成を目指しています。また、弘前市内の中学に在学している将来医療職を目指す中学生を対象とした附属病院で働く医師との交流プログラム(写真1)を弘前市教育委員会と連携して毎年行っています。内容は血圧測定などの実習体験、ヘリポート見学、意見交換などです。また、県内の高校生を対象とした外科手術体験セミナー(写真2)も青森県との共催で毎年行っています。中高生の内から医療に興味を持って貰い、近い将来、地域の医療を担う人材となることを期待して、これらの活動を継続しています。

 
  写真1. 医師との交流プログラム 
 
  写真2. 外科手術体験セミナー 

 地域医療に加え、地域における保健活動の推進のためには、自治体や地域の医療機関などとの連携も必要です。これまで、弘前大学大学院医学研究科には青森県や県内の市町村、秋田県大館市等の自治体、地域の医療機関の支援により以下の12寄附講座が設置され、多くは現在も継続中です。
・地域医療学講座(つがる西北五広域連合からの寄附構座、平成22年度~)

・地域健康増進学講座(弘前市から、平成24~平成29年度)
・地域がん疫学講座(青森県から、平成25~27年度)
・大館・北秋田地域医療推進学講座(秋田県大館市から、平成25年度~)
・地域総合診療医学推進学講座(三沢市から、平成26~30年度)
・地域救急医療学講座(弘前市から、平成28年度~)
・総合地域医療推進学講座(青森県から、平成28年度~)
・むつ下北地域医療学講座(一部事務組合下北医療センター、平成31年度~)
・先進移植再生医学講座(財団法人鷹揚郷から、平成22年度~)
・高血圧・脳卒中内科学講座(一般財団法人黎明郷から、平成25~30年度)
・脳卒中・血管内科学講座(一般財団法人黎明郷から、平成30年度~)
・地域医療支援学講座(三沢市から、平成31年度~)
 これらの寄附講座は、地域で活躍する人材の育成、地域住民の健康福祉の向上に役立っています。
 さらに、医学研究科では平成26年4月に「子どものこころの発達研究センター」を設置するとともに、弘前市や周辺市町村の教育委員会と協定を締結し、連携しながら活動をしています。活動としては、子どもに対する健康教育、子どものこころの問題に関する医療的支援や教育・研究活動、将来医学生となるべき人材の発掘などです。それに伴い、令和2年4月より「心理支援科学科」を設置しました。そしてさらには、令和6年4月の設置を目指して、大学院保健学研究科(博士前期課程)に心理支援科学専攻(仮称)を追加設置予定です。このことにより、公認心理師法に基づく公認心理師の国家試験受験資格が取得可能となる予定です。

 地域医療に根差した研究としては、弘前市岩木地区住民(平均寿命:男性が全国約3400自治体中下から10 番目、女性が46番目)の生活習慣病予防と健康の維持・増進、寿命の延長を目指して2005年に始まった「岩木健康増進プロジェクト」で得られた2000項目にわたる超多項目健康ビッグデータを解析し、認知症・生活習慣病などの早期発見並びに予防方法の研究がなされています。平成25年には、文部科学省から革新的イノベーション創出プログラム「COI STREAM」の採択を受けました。その結果、15の企業等からの資金提供で14の共同研究講座が立ち上がり、出資企業と共通の課題について共同研究を行っています。本事業は青森県の短命県返上に向けた取り組みであると同時に、社会実装をも目指す大きな事業です。