*第26回*  (2020.5.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は山形大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における山形大学医学部と蔵王協議会の連携
文責 :   山形大学医学部
 
上野 義之 医学部長

 山形大学医学部には、医学科と看護学科の2学科があります。
 医学科は、新設医学部・医科大学の一期校として昭和48年に地域医療の中核として設立され、以来、「広い視野を持ち、自ら学び、考え、創造し、それらを生涯にわたって発展させることのできる医師及び医学研究者を養成する」という建学の精神に基づき、すでに4,401人(令和元年度末)の卒業生を世に送り出しています。看護学科は、平成5年に東北・北海道地区ではじめての国立4年制大学として設立されました。時代の要請に柔軟に対応できる知識・技術と豊かな人間性を備えた看護職者を養成し、すでに1,576人(令和元年度末)の卒業生を医療人及び専門的研究者として世に送り出しています。

 今回は、卒前卒後の医学教育を一貫して実施する仕組みとして、山形大学医学部と蔵王協議会の連携について述べたいと思います。

 蔵王協議会(図1)は、山形大学並びに関連医療施設の医学・医療の充実と発展を図り、人材養成と地域医療の向上に寄与することを目的として、嘉山孝正現国立大学医学部長会議相談役が山形大学医学部附属病院長時代の平成14年に設立された組織です。現在会員は医学部教授会、医学部関連病院会(県内69施設、県外15施設)及び医学部教室員会の構成員(准教授以下)並びに山形県健康福祉部、山形県医師会、山形県歯科医師会、山形県看護協会、山形県助産師会、山形県薬剤師会の代表といった山形県の医療に関するステークホルダーで構成され、具体的な事業としては、1)卒後臨床研修体制整備、2)関連医療施設との連携、3)地域の医師の適正配置、4)医療事故調査制度への対応、等を行っています。

  図1 蔵王協議会
   


 山形県における医療人の育成と地域医療の向上においては、山形大学医学部と蔵王協議会の連携が大きな役割を果たしており、卒前卒後の医学教育に一貫して関与する仕組みが構築されています。山形大学医学部では、全国に先駆けてスチューデント・ドクター制度を導入し、医学生は長期間(74週)臨床の現場でチーム医療の一員として実践的な医師育成を目指す教育を受けています。臨床実習は、山形大学医学部附属病院に加えて蔵王協議会に加盟する山形県内の関連病院並びに診療所で行うことができ、高度で実践的な臨床能力をもつ医師を育成できるシステムとなっています。卒後教育においても、卒後の医師育成プロセス(初期臨床研修、後期研修(専門研修)、生涯教育)を総合的に行うため、蔵王協議会、山形大学医学部附属病院卒後臨床研修センター、山形大学医学部総合医学教育センターが連携し、多様な医師育成プログラムを整備しています。初期臨床研修においては、最長12ヵ月の市中病院での研修を選択できる「たすきがけ方式」を採用しており、希望に応じて、大学病院に加え複数の市中病院で幅広い経験を積むことができます。また、後期研修(専門研修)においても、大学病院と関連病院が有機的に結びついた研修が可能で、我が国の医学部で最初に導入した大学院社会人選抜を最大限に利用することにより、市中病院に勤務しながら大学院生として専門医取得のための研修や博士号取得のための研究を行うことができます。

 その他、地域医療を支える山形大学医学部と蔵王協議会の取り組みとして、地域の医療状況の分析、地域医療構想への対応を審議する「山形地域医療構想委員会」、地域における医師の適正配置を審議する「山形医師適正配置委員会」を紹介したいと思います。

 行政が地域医療構想など様々な計画・構想の策定やその具体化に取り組む場合、首長の方針等が大きく影響し、必ずしも科学的な医療需要と供給の解析データに基づいたものに成り難いといった問題点が県内の医療関係者から指摘されていました。こうした状況を受け、蔵王協議会では、医師確保計画の策定や現在進められている地域医療構想調整会議における協議等、医療提供体制に関する各種検討を行うにあたり、「医師会や関連病院などの医療現場の声を汲み取った上で、県が住民・患者目線での計画を策定できるようにするため」の提言を行うことを目的として、「山形地域医療構想委員会」を平成30年に設置しています。これにより、科学的なデータに基づき「医療現場の声」と「住民・患者目線」が両立した地域医療構想を実現するための基盤が整備されました。

 また、医師の配置については、山形県全体の医師需給を踏まえた検討が必要として、それぞれの地域(病院)における常勤医師数、入院・外来患者数、手術件数及び病床稼働率等の推移、地域(病院)を取り巻く現状や課題等、全県域的な医療提供体制を把握した上で、医師の適正配置を審議することを目的として「山形医師適正配置委員会」を平成30年に設置しています。これにより、従前の医局と各病院との関係のみで決まるのではない、公平性や合理性が担保された科学的なデータに基づく医師の適正配置が可能となりました。


 山形大学医学部では、今後も蔵王協議会と連携し、卒前卒後の一貫した医学教育及び地域医療の向上に貢献していきたいと考えています。