*第35回*  (2021.2.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は九州大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
文責 :   九州大学医学研究院
新納 宏昭 教授
 九州大学医学部は、医学に関する知識・技術の教育を通して、医の倫理に徹し、旺盛な探究心を有する医師および医科学研究者の育成を目的としている。また、九州大学病院は、高度先進医療を支える医学研究を推進しつつ、広域医療圏拠点としての連携体制を構築し、全人的医療を実践する医療人の養成に努めている。
 当大学医学部は、地域枠をもたないため、卒前から地域医療に対するマインドを醸成するための多くの積極的な取り組みを行っている。2年次では、地域医療福祉施設(重度心身障害児施設、回復リハビリテーション施設、ホスピス等)で見学・体験実習を行い、将来へのモチベーションを高める機会としている。また、3年前からこれらの地域医療福祉施設に5年生の臨床実習を受け入れている地域病院も加え、より早期から地域医療実習の現場を見学・体験することができるように変更した。2年から4年次では、救急医療、プライマリケア、老年医学、リハビリテーション医学、緩和ケア、インフォームドコンセント、周産期チーム医療、保育所実習、性差医学、国際英語などの講義・実習を通じて地域医療に関して必要な知識の習得を行っている。また、3年次では4週間の研究室配属を行い、学生に文献検索などを通じた事前学習にて在宅診療の問題点を抽出させ、その後2週間在宅診療の現場で見学・体験し、現場での経験を通じて問題点に関してデブリーフィングしてもらい、発表する実習を行っている。5〜6年次では、臨床実習中に各診療科関連の地域医療機関での実習を行うことで、大学病院と一般病院との違いなどについて学んでもらう。加えて、2012年九州大学医学部では、地域医療教育ユニットを設置し、医療に加え、介護や福祉も含めた卒前の地域医療実習の充実を図っている。現在は5年次に4日間の学外での地域医療実習を行い、13の地域病院と13の診療所・クリニックで医療面接ならびに身体診察、訪問診療、訪問看護、介護施設、緩和ケア病棟での実習などを行っている。実習期間として現状ではまだ多いとはいえないが、在宅診療を必ず体験できる形にしている。また年1回の指導医講習会や、指導医講習会に参加できなかったスタッフ向けに各施設で指導医講習会の内容を共有する取り組みも行いながら、学生がより主体的に参加することのできる臨床実習内容を検討している。6年次の4週間の選択臨床実習での地域医療実習では、5年次の実習内容に加え、保健所実習や健康講話の講師を担当するなど福岡県内の6つの地域病院でこれまで計36名が実習を行っている。5年次における診療参加型実習の充実の結果、6年次の選択臨床実習の希望者が次第に増えている。

 卒後については、初期臨床研修を当院と地域関連病院の各1年間ずつで行う “たすきがけプログラム”を以前から行っている。すなわち、当院では高度先端医療を充実した指導体制で学び、一方地域関連病院ではcommon disease、一次・二次救急医療、地域医療を学ぶこととなり、総合力ある研修医の育成が可能となる。現在、当院での初期研修医の2/3程度は他大学出身者であるが、自大学出身者を含めて、毎年大部分が上記たすきがけプログラムを希望している。また当院は、後期研修においても基本領域・サブスペシャリティ領域と幅広く研修プログラムをもつことから、基幹施設である当院を軸に、地域連携施設(県内・県外)とも密に連携をとりつつ質の高い研修内容になるように努めている。ただ現在の課題として、初期研修については、私がセンター長をつとめる臨床教育研修センターが中心となり地域医療機関の情報収集を随時行っているが、後期研修については診療科ベースでの情報収集の部分も多い。今後このような課題を解決すべく、センターとしての活動をさらに強化していく必要がある。また、こうした卒後教育の内容については、当院と地域関連病院との間での開催会議にて年2回ほどのペースで報告している。