*第38回*  (2021.5.24 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は浜松医科大学での取り組みについてご紹介します。

「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」
文責 :   浜松医科大学
今野 弘之 学長
●はじめに
 浜松医科大学は、人口370万を有する静岡県における唯一の医師、看護師等を育成する医科大学である。建学の理念にも謳われている「第3に地域医療を中核として担う」ことを使命の一つとしている。本学は卒後の地元定着率が極めて高く、直近では医学科卒業生の64%、70名以上が県内で種々の職に就いており、既に県内勤務医の3割以上を、浜松医大卒業生等、医局関係者で占めている。その結果、都道府県で当初最下位であった静岡県の対人口比での医師数は現在では39位にまで改善しているが、東西に長いという地理的特徴を有する静岡県において、県東部における医師不足は行政課題と見なされている。本学は東部を含めた県全体の医療体制構築のために、地域に合った診療科の特定や集約化等、行政と共に持続可能で質の高い医療の実現を目指している。
 新専門医制度においては、本学は県内で唯一19領域全てのプログラムを提供する基幹施設であり、県内プログラムに参加している全専攻医の60%以上が本学のプログラムに所属している。このような背景から、本学では平成28年に初期研修から専門医取得まで一貫した支援を行うために卒後教育センターを開設し、地域医療に貢献する医師の総合的な卒後支援体制を確立している。

●総合診療医の育成
 本学は総合診療専門医制度の開始前から、地域医療を担当する医師の育成に力を入れてきた。平成22年より、静岡県中東遠地域の3市1町(磐田市、菊川市、森町、御前崎市)からなる静岡家庭医養成協議会と連携し、総合診療医の育成に努めてきた。また、静岡県の支援により平成25年に開設した地域家庭医療学講座は、静岡県内の地域医療の充実に貢献することを目的とし、学部学生に実習を通して総合診療の魅力を伝えてきた。学生の人気も高く、学部教育の充実に資すると同時に担当教授らの尽力により卒後教育として総合診療、特にプライマリ・ケアや家庭医療に関する研究体制も構築している。
 さらに、新専門医制度に合わせて、総合診療教育研究センターを設置し、学部から卒後まで切れ目のない地域医療を担う医師の支援体制を構築している。これらの取り組みにより、静岡県内の地域医療の充実のみならず、研究活動も含めた質の高い総合診療専門医の育成が可能となっており、毎年数名の専攻希望者がある。整形、産婦人科から総合診療専門医を目指すダブルボード希望者も少なくなく、今後の地域医療のニーズにマッチした貴重な担い手として期待している。
 加えて、新たな静岡県の寄附講座として平成30年に開設された地域医療支援学講座では、静岡県で医療行政を主導していた本学出身者が着任し、県全体の各医療圏の疾患や診療内容を調査・分析し、必要な専門医を試算した上で、県の医療担当部署と連絡を密に取り合いながら、県の医療構想の立案、実施に関与している。

●地域医療機関・行政との連携の今後の取り組み
 静岡県には大・小約120の病院がある。今回のコロナ禍で課題が露呈したが、大規模感染症や災害時などでは大学附属病院など大規模公的病院と準公的病院及び私的病院との連携の構築が急務である。本学では静岡県病院協会及び県と定期的な会合を持ち、県の医療体制について忌憚のない意見交換を行っている。
 本県においても、静岡や浜松など政令都市がある二次医療圏では、医師数が充足しているが、東部など一部の二次医療圏では厚労省の指定する「医師不足地域」に該当する地域や「医師少数スポット」が存在する。これらの医師不足地域の医療を充実するためには、単に医師の配置だけではなく、その地域の医療にマッチした診療科の専門医派遣が重要である。このためには、地域医療機関と行政及び大学附属病院との連携は不可欠であり、将来の人口減や高齢化率等の確度の高い予測データを基にした医療体制の構築が必須である。対象地域毎の専門医の偏在(各医療圏のニーズと専門医のミスマッチ)解消や、ニーズ調査や分析を通して、必要な専門医を育成し、各医療圏で必要とする拠点を整備し、地域における研修体制の充実を図るとともに行政と連携してネットワークを確立したい。
 本学は、学長、附属病院長が県の地域医療構想を練る主要な会議のコアメンバーとして、実際に種々の提案をするなど、積極的に地域医療構想の策定に関与している。行政と大学が一体となり、支援する各地域の現状・課題及び将来の医療需要の予測等を踏まえつつ、将来のあるべき医療提供体制の方向性を決定していくことで、ニーズに応じた地域医療支援が行えると考えている。
 また、総合診療医に関しては、地域でのプライマリ・ケアができる医師を育成し確保するため、自治体と連携して、学部低学年、高学年、初期研修、専門研修、大学院までの一貫した教育研究体制を整備し、新しい総合診療医育成モデルの構築を目指している。
 今後は、静岡県の地域医療と臨床教育の中心的役割を担うべき大学として、地域との連携をさらに深め、スタッフや施設設備を充実させるなど機能強化を図り、より一層地域に貢献していきたい。