*第6回*  (H30.9.28 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は愛媛大学での取り組みについてご紹介します。

卒前卒後の医学教育における愛媛大学医学部と地域医療機関との連携
文責 :  愛媛大学
 愛媛大学
満田 憲昭 医学部長
上野 修一 医学部教授、統括教育コーディネーター、医学科教務委員長

はじめに
 愛媛大学では、大学憲章において「地域とともに輝く大学」の創造を目標としており、その第一の戦略は「地域の持続的発展を支える人材育成の推進」である。医学部においても、「社会的要請の高い人材の育成」を目指している。前回の「地域医療を支える国立大学医学部の役割」シリーズにおいて報告したように、本学では、地域医療支援センターを中心に、地域病院見学バスツアーなどの実地体験や、地域医療学講座を中心とした地域医療実習を通して、愛媛県の地域医療に貢献できる人材の育成を行ってきた。

 しかしながら、医学部設立45年となった今でも、地域医療を支えるための人材不足は解消されておらず、今後も地域医療機関との連携の下、学生に対して地域の魅力をさらに発信することにより、県内の医療を支える人材を育成し続ける事が必要である。


卒前から卒後へのシームレスな医学教育を目指した取組

1.愛媛シームレス地域医療人育成プログラム

 地域医療を貢献できる人材を育成するためには、医学的知識及び技能を教授するだけではなく、地域医療の必要性やそこで勤務するやりがいを学生時代に経験させることが有用である。本学では平成29年度より準正課教育の一つとして、低学年次の学生を対象に、地域の患者宅への往診に同伴し患者や家族の希望や医療への期待を聞いたり、地域医療を支える他職種の医療人との関わりを通して地域医療について考える機会を作っている。加えて、この取組では、看護学生など他の職種を目指す学生とも交流することによってチーム医療を疑似体験し、多職種で医療を行う意味を考える機会や座談会を通して地域住民と交流する機会も組み入れている。これらにより、地域に密着した保健医療活動の面白さや手応えを「目に見える」形で感じることができる。学生からは、「医療の必要性を現場で体験できる機会を得て、将来の方向性が見えてきた」などの感想をもらっている。

   


2.連携病院における臨床実習およびスムーズな卒後臨床研修への移行
 愛媛大学医学部では、設立当初から、愛媛県立中央病院および松山赤十字病院を教育協力病院に指定し、そこで、学生全員が地域医療の現場を経験できる機会を担保していた。実際、これら大学病院外の総合病院での経験が自分の将来の選択の決め手になったと話す卒業生も多い。その後、改訂された医学教育コアカリキュラムや医学教育国際認証評価では長期の臨床実習期間の確保が必要とされ、大学病院とこれら2つの教育協力病院だけでは実習期間を確保できなくなったこともあり、県内各地の医療機関(連携教育病院)に協力を依頼し、今では、すべての医学生が少なくとも1回は県内の連携教育病院での臨床実習を経験することを義務付けている。加えて、いわゆる2023年問題の対策として、臨床実習期間の更なる延長を目指して、連携教育病院で診療参加型臨床実習を行うプログラムを開発中であり、学生が地域医療への貢献について考える機会となればと考えている。
 また、愛媛大学では、平成20年度に県の寄附による地域医療学講座ができたのを皮切りに、現在では県内各地に、自治体のみでなく民間の助成を受けた11個の寄附講座を設置している。そこに配置した教員が学生実習を受け入れることにより、地域医療の現場と密に連携した医学教育を行っている。

   


3.卒後の医学教育
 今年度、愛媛大学医学部附属病院では、35名(定員56名)が臨床研修を行っている。マッチ率は、国立大学病院では全国19位であったが、過去、幾度となく上位10位以内に入っている。前述の地域医療支援センターは、愛媛大学生のみならず、将来愛媛にUターンもしくはIターンを希望する学生とも交流を持っている。県内には16の基幹型臨床研修病院があるが、このすべての病院が連携教育病院として愛媛大学医学部の学生に対する臨床実習を担当していただいている。16病院以外の連携教育病院も愛媛大学医学部附属病院の臨床研修プログラムに協力型臨床研修病院として参画していただいていることもあり、卒後臨床研修の教育担当者のほとんどが学生教育の担当者も兼務している。そこで、連携教育病院の卒後臨床研修および卒前臨床実習の担当者の出席による「ステークホルダー懇談会」を年に1回開催し、医学教育に関する意見交換を行っている。主なテーマは、「採用したい卒業生像および医学教育のあり方」である。

 その成果も徐々に出ており、愛媛県内で卒後臨床研修を行う新卒者は80名を越えた(2017年)。県の奨学金を受けた、いわゆる地域枠学生においては、県と相談の上、愛媛大学医学部附属病院のプログラムでの卒後臨床研修を行うことを義務付けており、その後、それぞれの希望の診療科を選択することとなるが、その場合においても、愛媛大学医学部附属病院の専攻医としての後期研修を可能とする他、積極的に大学院への進学を推奨し、地域を支える医師としてだけでなく、医学教育や研究に参加する医師としても活躍できるようなキャリアプランを作成している。