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今回は広島大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育:広島大学
文責 : 広島大学医系科学研究科地域医療システム学
広島大学医学部
松本 正俊 教授
粟井 和夫 医学部長

 広島大学は広島県に所在する唯一の医育機関である。したがって広島県の地域医療は広島大学と広島県とが密に連携しながら支えている。広島県地域医療構想においては、①病床の機能の分化及び連携の促進、②地域包括ケアシステムの確立、③医療・福祉・介護人材の確保・育成、以上の3つが目標として掲げられており、これらすべての目標に広島大学は関わっているが、とりわけ③の医療人材の確保・育成において大きな役割が期待されている。

 広島県の単位人口あたりの年間医師養成数は47都道府県中41位と低く、しかもこの指標が広島県より下位の県はほとんどが東京都あるいは大阪府に隣接しておりこれら大都市圏の医療に依存可能であることを考慮すると、実質的に全国で最も厳しい状況に置かれている県と言える。その意味で広島大学の医師供給力、とりわけ広島県内に定着する医師の供給力が問題となる。そこで広島大学では平成21年度より地域枠である「ふるさと枠」を設け、県内高等学校を対象とした推薦入試によって地域医療に貢献する人材を選抜している。このふるさと枠の定員は現在18名であり、医学科全入学者の15%を占めている。ふるさと枠も含めた医学科全入学者のうち広島県の高等学校出身者の占める割合はおおむね55%前後である。

 ふるさと枠入学者には卒前6年間広島県から奨学金が貸与される。また一般入学者と同様の医学教育を受けるが、それに加えて独自の教育も提供される。1から4年生は毎週水曜日に「ふるさとセミナー」があり、昼食をとりながら講演やグループワークなどを行っている。また、夏期、冬期、春期の長期休暇中は「地域医療セミナー」という宿泊を伴う現地実習あるいは合宿に全員が参加する。このような教育を通してふるさと枠学生同士の一体感醸成、および地域医療マインドの向上・維持を目指している。

 卒業後は9年間広島県内の公的医療機関で就業し、そのうち4年間を知事の指定する中山間地(いわゆる医療過疎地)あるいは知事の指定する診療科(現在病理診断科および産婦人科)に従事することが義務となっている。令和3年度時点で合計101名の卒業生がおり、うち68名が卒後3年目以上9年目以下であり、うち26名が中山間地医療機関に、10名が知事指定診療科に従事している。奨学金返還者は0名である。第一期卒業生からの累積医師国家試験合格率は98.0%であり、これは広島大学に一般入試で入学した者の累積合格率88.8%よりも有意に高い。卒後3年目以降に進む診療科は消化器内科10名、循環器内科8名、産婦人科8名などを筆頭に、21診療科に渡っており、ほぼ全員が広島大学の医局に入局している。推計では令和9年度には卒後3年目以上9年目以下のふるさと枠卒業生は126名となり、うち中山間地あるいは知事指定診療科従事者は72名以上となる予定である。

 このように広島大学医学部は、広島県の医師養成キャパシティが限られているなか、県内唯一の医学部として、従来の医局人事に加えて、このふるさと枠制度を通して地域医療人材の輩出を行っている。そしてこれにより広島県地域医療構想の核である「医療人材の確保・育成」の実現を目指している。


本取り組みに関するURL https://cbms.hiroshima-u.ac.jp/general.html