*第6回*  (R4.3.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は愛媛大学での取り組みについてご紹介します。

地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育
文責 :  愛媛大学医学部附属病院総合臨床研修センター  熊木 天児 センター長・教授

概要
 国立大学医学部長会議「地域医療・医療人育成に関する小委員会」の企画・監修による本シリーズは「地域医療を支える国立大学医学部の役割」、「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」に続き、現在は「地域医療構想を踏まえたこれからの医学教育」がテーマとして取り上げられている。いずれも重要なテーマであるため前者2つのテーマも交えながら、愛媛大学および愛媛県の取り組みを振り返りながら紹介したい。

特色
 愛媛大学は愛媛県に所在する唯一の医師養成機関であり、全国の地方大学と同様にまさにこのことが「地域医療を支える国立大学医学部の役割」と言えよう。その点、愛媛大学の医学教育関連講座・各診療科・部署(とりわけ地域医療学講座および地域医療支援センター)が、愛媛県および県内自治体との緊密な連携を図りながら地域医療を支える医療人の育成に取り組んでいる(図1)。

図1:各講座との連携図 

 幸い愛媛大学には多くの地域医療関連寄附講座があり、「卒前卒後の医学教育における国立大学医学部と地域医療機関との連携」で大きな役割を果たしている。大学病院では専門診療にあたる医師であっても連携する医療機関での診療支援のみならず、実習中の医学生や研修中の研修医に地域医療支援に関わっている姿を見せながら、指導していることがあげられる(図2)

図2:地域医療関連寄附講座との連携図 

現状および問題点
 卒前教育においては1年生全員に対する早期医療体験実習を皮切りに地域病院見学バスツアーなども企画してきた(https://www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/community.support/activities/kengakubus)。しかし、地域枠医学生に特化した取り組みは不十分と考えられ、継続性を持った地域医療マインドを涵養するためにも、指導する側のマンパワー不足を克服しなければならない。そのためにも、地域医療マインドは「地域枠」の学生や卒業生だけに浸透させて任せるのではなく、愛媛大学および県内で勤務する医療スタッフの医療人育成に対する理解が不可欠である。
 臨床研修制度が導入され、地域偏在や診療科偏在という言葉が聞かれるようになってから久しいが、新専門医制度の導入によるその加速が懸念されていた。専門研修が開始されてからまだ4年しか経過していないが、その間に愛媛県内では326人が臨床研修を修了し、313人(96.0%)が専門研修移行しており、若者の都会志向を考えると決して悪い数値ではない。医師国家試験合格者数が9,000人程度と考えると、何かと「1%県」と称される愛媛県としては毎年90人程度の研修医を迎え入れたいところではあるが、残念ながら到達できていない。さらに、松山市以外の地域における医療機関では医師数や診療科の偏在のみならず、医師の高齢化が深刻であることが懸念事項としてあげられる。
 地域枠卒業生の配置に関しては、県内の医療圏域ごとに試算されている医師不足となっている診療科の人数に基づき、本人、愛媛県医療対策課および所属先の医局と協議しながら、地域医療支援センターがコーディネートしている。令和3年度現在、地域枠卒業生の医師は104人であり、そのうち37人が初期臨床研修中、その他大学院への進学等を理由とする義務中断中の者を除き、48人が県内の医療機関で義務従事している。なお、本県の地域枠医師には診療科選択の制限は設けていないが、地域枠以外の医師に比べると救急系の診療に従事する機会の多い診療科(内科、外科、産婦人科、小児科、整形外科など)を専攻する者が多く(P<0.05)、地域のニーズにマッチしている。

改善策
 現状では、県内の地域医療機関への医師の配置は少しずつ進んでいるが、一部の地域中核病院*に配置が集中する傾向があり、地方拠点病院*への配置は決して十分とは言えない。しかし、今後の地域医療構想を考えると、地方拠点病院やへき地診療所は必ずしも常勤医を必要としない診療科もある。その様な医療機関へは、県中核病院*または地域中核病院からのスポット派遣でも対応できる可能性があり、地域枠制度を活用してこのような形で地域医療を支援する仕組みの構築に向けても、検討を開始したところである(図3)。さらには、新型コロナウイルスをきっかけに急速に進化したICTおよびオンラインを活用した取り組みも考えていきたい。
 また、専門研修については愛媛県および自治医科大学OBとも連携し、自治医科大学卒業生のキャリア形成を意識した専門研修プログラム**が作成され、大きな進歩を遂げたと考えている。

*県中核病院、地域中核病院、地方拠点病院については、愛媛大学医学部附属病院地域医療支援センター(https://www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/community.support/)内の「活動内容」→「キャリアプログラム」→「対象者別事項」→「地域枠医師」→「機能別医療機関群」を参照されたい。
**自治医科大学卒業生向けの専門研修プログラムについては、「活動内容」→「キャリアプログラム」→「対象者別事項」→「自治医科大学卒業医師」を参照されたい。

図3:地域中核病院から地方拠点病院等にスポット支援を行う体制の構築