これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第15回*  (H25.2.8 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は岡山大学医学部(大学院医歯薬学総合研究科)細胞生理学教室 藤村篤史さんです。
   「ARTプログラムを通してみえてきたこと」
           岡山大学医学部(大学院医歯薬学総合研究科)細胞生理学教室 藤村篤史
     

 はじめまして、藤村篤史と申します。私は岡山大学医学部を平成21年に卒業し、現在は基礎研究医としての研鑽を積んでおります。本コーナーでは研究医養成コースに参加する学部学生がその取り組みを紹介するということが主目的であるようですが、私は岡山大学が全国に先駆けて開始したARTプログラムの第1期生であるということから、この度執筆の機会を頂戴することとなりました。そこで、本稿においては基礎研究を志すようになったきっかけから、ARTプログラムで学んだこと、さらにそれらをもとに学部学生のみなさんにお伝えしたいことなどを記載したいと思います。

研究を始めたきっかけ
 私は今でこそ研究に没入していますが、医学部に入学してから2年間は全くと言って良いほど「無気力」な学生であったように思います。正確には、入学したての4〜5月ごろは「何かわからないけど、何かやるぞ!」というような曖昧な気概があったように記憶していますが、部活やら講義やらに忙殺されるうちにただただ日々の生活が流れるままとなっていました。そんな受け身の学生生活に大きな変化が訪れたのは、3年次にあった教室配属(医学研究インターンシップ)で細胞生理学教室にて初めて基礎研究にふれたときです。そのときは「Cdk5/p25による神経細胞死のメカニズム」に関する研究の一端としてアデノウイルスベクター作成や初代神経細胞培養などの手技を学びましたが、御指導下さった先生方の研究に打ち込む姿を見て、研究に対する漠然とした憧れが確固とした目標となりました。私たちの大学では3ヶ月ほどで教室配属は終了しますが、その後も早朝・放課後・深夜などの時間を利用して研究室で研究を継続しました。その理由としては、新しい事象を発見するという過程が面白かったということと、教授をはじめ先生方が私に対して、基礎研究者として必要なノウハウや考え方を技術面以外にも総合的に指導してくださったことが大きいと思います。さらに研究室内に机と実験ベンチを確保して下さり、いつでも実験研究をしてよいという有り難い環境を与えて下さったため、研究室の居心地が非常に良かった事も大きな要因でした。

ARTプログラムだからこそわかった基礎研究の必要性
 その後医師国家試験の直前まで研究を継続していましたが、無事に医師免許を取得し、ARTプログラムという岡山大学で新たに始まったプログラムで初期研修を開始しました。ARTプログラムは「大学病院での研究と大学院教育を並行して両立すること」を主目的としていますが、正直に申しまして実際に研修が始まった直後は両方の環境になれるまでに少し時間がかかりました。特に実験が遅々として進まないことは強いストレスとなりました。しかしながら、初期臨床研修で得られた知識や経験は何事にも変えられない大変意義深いもので、現在取り組んでいる基礎研究のモチーフとなっています。私が研修を通して痛感したのは「治らない病気がいかに多いことか!」ということでした。初期研修の主目的が医師として働くためのノウハウ取得であることは言うまでもありませんが、そのときすでに基礎研究医となりたいと考えていた私にとっては、こうした「不治の病」を真正面から見据えることで「臨床に還元できる基礎研究を一歩でも進めたい」というモチベーションを高める意味もあったと思います。

基礎研究医は貧乏???
 先述の通りARTプログラム第1期生であったという経緯から、同様のプログラムを新たに立ち上げた大学で開催されるセミナーでなどお話をする機会があるのですが、その質疑応答の際に必ずといっていいほど学部学生の方が質問されることがあります。「基礎研究に興味あるのですが、お金のことが心配です」「同期の方と比べられて、給料は遜色ないでしょうか」これらは実際にセミナーに集まった学部学生から尋ねられたものです。これほどまでに「お金」が基礎研究志向に影響するものかと考えると残念ではありますが、現実的には全く困りません(実際に基礎研究医の先生をみればわかりますし、上をみればきりがありませんし)。「研究者は清貧たるべし」とは決して思いません。もし学部学生のみなさんの中でそういった心配を抱く方がおられましたら、身の回りの基礎研究医の先生に尋ねてみるのが一番よいと思います。人それぞれ考え方は違うと思いますが、私はやりたいことを最優先に人生設計するべきだと思います。


将来への抱負
 私はJSPS(日本学術振興会)の海外特別研究員のグラントをいただいて、今春よりポスドクとしてイタリアのPadova大学Stefano Piccolo研究室に留学する予定であり、現在はその準備を行っているところです。留学から帰った際には、やはり臨床に応用できる基礎研究に従事したいと考えています。同時に、より多くの医学部学生が基礎研究医を志すよう医学教育にも従事できたらいいなと思ってもいます。ちょうどARTプログラムの存在が「私の歩みたい道の案内人」となり、また、お世話になった先生方が背中を押してくださったように、日本の医学研究の推進に少しでも貢献したいと考えております。


学部学生のみなさんへ
 一口に基礎研究医といっても、純粋に生命の根幹を探求する研究に従事される方もおられますし、臨床に還元できるような研究に取り組んでいる方もおられます。動機がどういうものであれ、皆さんが医学部に進学されたということは「人々の健康のために何らかの貢献をしたい」と考えてのことだと思います。アプローチの仕方は様々ですが、基礎研究の充実が将来の医療に貢献できるかもしれないと考えれば、大変やりがいのあるものだと思います。
 
私が学部学生・博士課程でお世話になった細胞生理学教室のバルコニーからは附属病院が見えます。夜、息抜きにバルコニーから見える病棟の灯りは私にとって研究を継続する動機であり叱咤激励であります。