これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第24回*  (H26.7.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は順天堂大学医学部医学科4年 池田 恒基さんです。
   「研究室との出逢い
                         順天堂大学医学部医学科4年 池田 恒基
   

自己紹介
 順天堂大学医学部医学科四年生の池田恒基と申します。基礎研究医養成プログラムに所属し、医学部の講義・実習に加えて、生化学第一講座で研究活動を行っています。
 三年生の春に生化学第一講座にデスクを頂いてそろそろ丸一年。放課後が主ですが、日々実験に励んでいます。
 ここでは、生化学第一講座との出会いや現在の研究内容、将来のことについてお伝えしたいと思います。

研究室に入ったきっかけ
 小さな頃から理科が好きで、小学生向けの理科雑誌や自由研究なども好きでした。高校生になったころは、将来は理科の先生や研究者として生きていきたいと漠然と考えていました。しかし、縁があって医学部へ入学することになりました。そのまま専門教育に突入し、そのまま臨床医になるのか、と思っていた時、医学部二年生の生化学実習中に運命的な出会いをしました。
 生化学第一講座の教授である横溝岳彦先生との出会いです。なんと、横溝先生は私が中学生の頃に転校していった同級生のお父様だったのです。大学生になっても実験が好きだった私は、これ幸いと実習中にも関わらず、横溝研究室への出入りを希望しました。
 横溝教授はいきなりのお願いにもかかわらず快諾してくださり、
「もうすぐ順天堂のラボが完成するから、それからラボに来なさい」
と言って下さいました。
 そして、春休みのある朝、教授から電話を頂きました。
「ラボへの荷物搬入があるから、手伝わないか?」
その日から私の研究生活が始まりました。
 以降、私はほぼ毎日、研究室に通い、一つのテーマ(研究内容で説明します)を頂くことになりました。

研究内容
 ここでは、私が行っている研究内容とその背景についてお話します。

背景
 生化学第一講座ではロイコトリエンB4と呼ばれる白血球走化性因子の高親和性受容体であるBLT1の遺伝子を同定し、その生理作用について研究を行っています。
 BLT1はGPCR(Gタンパク質共役型受容体)ですが、一般的にGPCRに対する抗体の作製は困難とされています。そこで、BLT1過剰発現細胞をマウスに免疫することで、マウスBLT1を認識する7A8という単クローン抗体を樹立することに成功しました。7A8は内在性に発現するBLT1を認識できる高感度の抗体です。しかし、組織を免疫染色した際には様々な問題が生じ、特に、免疫染色でのバックグラウンドの高さが問題になります。
 7A8はマウスで作製された抗体であるため、マウスのマクロファージや樹状細胞に存在するFc受容体に結合してしまいます。また、この抗体の検出に用いる二次抗体がマウスの臓器に存在するIgGやビオチン活性を持つ物質に結合するためにバックグラウンドが上昇してしまうのです。

私の実験
 これらの問題を解決するために、私は抗体の抗原認識を保ったままその大部分をしめるFc部分をヒト化したキメラ抗体を作製することになりました。7A8産生ハイブリドーマを材料に5’RACE法により、7A8抗体の重鎖と軽鎖のcDNAを得ました。
 その後、それぞれのcDNAの抗原認識部位をコードするcDNA断片をヒト化ベクターに組み込むことで、Fc部分がヒトIgGとなる重鎖(Hc)と軽鎖(Lc)の発現ベクターを作製しました。さらにHcとLcの発現ベクターをCHO細胞に同時に遺伝子導入し、2つの薬剤を用いた組換え細胞の選択を行うことで、安定発現細胞を得ました。
 薬剤耐性となった細胞を用いて限界希釈を行い、約800個のクローンから、薬剤耐性株72クローンを得ました。各クローンの培養上清を用いてFACS解析を行った結果、BLT1を認識する抗体を産生するクローンを9つ得ることができました。
 FACSによるシフトと抗体の産生量を勘案し、最終候補となるクローンを1クローン選択しその培養上清を用いて、マウス臓器の免疫染色を行いました。マウスの脾臓を染色した場合、マクロファージや樹状細胞と思われるBLT1発現細胞の細胞膜が染色されており、これが陰性コントロールの染色ではほとんど検出されなかったことから、マウスの組織染色に使用出来るレベルの7A8抗体が作製できたと考えました。
 しかしながら、解決すべきいくつかの問題が残っています。まず、培養に用いるウシ胎児血清(FCS)に由来するウシIgGが、プロテインGを用いた抗体精製で混入してきてしまうこと、また、キメラ抗体の産生量が十分ではないということが問題点として挙げられます。そこで、現在培養に用いるFCSの量を減らし、ウシIgGの混入を減らすことを試みています。

実験結果を携え学会へ
 2013年8月4日(日)~9日(金)に行われたFASEB Science Research Conference(米国実験生物学会連合 科学研究会議)に参加し、私の研究成果をポスター発表しました。私にとって、初の参加学会が国際学会という大舞台でした。ポスター作成期限ぎりぎりまで実験するというハードスケジュールを乗り越え、良いデータを出すことができました。また想定質問などの練習をして頂き、なんとか学会発表の形にすることができました。会場では、国内外の第一線級のお仕事をされている先生方の講演を聞き、ディスカッションにも参加しました。また、各方面の先生から
「実験頑張れよ」と激励のお言葉も頂きました。
 初めての学会、初めてのポスター発表でしたが、とても刺激的で有意義な時間を過ごすことが出来ました。

韓国への短期留学
 2014年3月10日〜25日まで韓国の国立ウルサン大学UNIST(Ulsan National Institute of Science and Technology)での短期留学に参加しました。現地ではwhite adipocyte, brown adipocyte, beige adipocyte についての実験を行いました。具体的な手技としてはRNAの抽出、DNAの抽出、RT-PCR、細胞培養(3T3-L1)、ウェスタンブロッティングなどです。
 経験のある細胞培養も日本で私が培養している細胞とは別の細胞を別の目的で培養しているため、気を付けるべき所が異なり、勉強になりました。初めての手技も経験でき、UNISTに短いながらも来られたことを大変嬉しく思います。
 また海外の学生と夕食を共にしながら実験の話だけではなく、自分たちの将来の話もすることが出来、大変充実した春休みを過ごせました。さらに英語での意思疎通が出来たことがこれからにおいても大変自信につながりました。


考えたこと
 冒頭にも書きましたが、とどのつまり、私は手を動かすこと(=実験)が好きなようです。好きなことを今でも続けていられることを大変幸運に思います。そして、それを後押ししてくれる大学に入学し、私が実験を始めた頃に始まった基礎研究医養成プログラムにも運命を感じずにはいられません。
 後輩をはじめとして研究を志している医学生の方から「どうして研究室生活を選んだのですか?」とよく質問を頂きます。私の答えはいつも同じです。
「それが好きでやりたかったから」です。それに「何もせずに医学部6年間を過ごすよりも、何かを残して6年間を終えたい。」と付け加えます。
 将来のことはまだわかりません。しかし、この厳しくも楽しい研究の世界で生きていければ、これほど嬉しいことはありません。