これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第26回*  (H26.12.15 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は信州大学医学部医学科3年 山崎 愛子さんです。
 研究医を知るために
                        信州大学医学部医学科3年 山崎 愛子
   

医者が研究するんですか?
 「研究を行う医師がいる」ことを初めて聞いたのは、医学部に入学した春の授業でした。医療関係者も理系研究者も身近におらず、医師という仕事について深く調べたこともなかった私は、恥ずかしながら、自分が診てもらったことのある「臨床医」だけが医師だと思っていたのです。
 「医師の使命は、目の前の患者さんはもちろんのこと、世界中の、そして未来の人々をも救うことであり、そのために医学研究が必要である」と語る授業は、しっくりと腑に落ちました。その後も、様々な授業で多くの先生方が、研究の必要性や楽しさを熱心に語ってくださり、基礎医学研究を知るための授業も行われ、私も研究に興味を持ちました。
 しかし、そこですんなりと「じゃあ研究やろうかな」とは思えませんでした。実際に体験してみないと納得できないところのある私は、「研究医は実際、どんなところで、どんなことをして、どんな生活を送っているのか?」ということが分からず、気になっていたからです。


やってみなくちゃ、わからない
 気になりつつも足踏みしていましたが、頭で考えていても仕方がないし、このあたりで一度飛び込んでみるのもいいかな、と思い立ちました。授業で特に熱心に研究の良さを語っておられ、私が興味を持っていた分野に近い研究をされている先生に思い切ってお願いしてみたところ、とても歓迎してくださり、研究室に通いはじめました。「こういうことがしたい!学びたい!」といった強い希望もなければ、研究に必要な知識もかなり不足しているお粗末な学生でしたが、正直に「研究医の実情が知りたい」と伝えたところ、快く私の「観察」を受け入れてくださいました。お仕事の合間には、今進めている研究の説明や、研究医という仕事についてなど、じっくり時間をかけて話してくださいました。「実際に手を動かすのが大事だから」と、実験もさせていただくようになりました。
 同じ時期に、自主研究演習(研究室配属)も行われ、あえて別の研究室を配属先に選びました。研究室が変わると、様々な違いがあることを知りました。2か月弱、研究室に通いつめ、実験漬けの生活を送りました。失敗続きだったこともあり、実験の難しさと知識不足を身に染みて感じました。一方で、作業に慣れてくると、自分の手で何かを形にすることの楽しさも実感しました。
 実際に研究室で、研究医の働く姿を見ながら手を動かしてみましたが、将来研究医になったときの自分の姿をイメージするためには、とても貴重で重要な経験でした。


少しだけ先の未来
 多少、研究医のことが分かってきたところで、ふと思いました。
 「実際に私がこれから研究医になるとしたら、どのように進めばいいのだろう?どうやら大学院に行くようだけれど、どんなところなのか?どんな人が、どんなことをしているのだろうか?」
 そうやってまた足踏みしていたところへ、信州大学で「eMED」というプログラムが始まる話が舞い込みました。研究医を志す学部生が、前倒しで大学院博士課程の授業を受けられるというものです。大学院の授業を、院生のみなさんに交じって受けられて、しかもちゃんと単位がもらえると聞いて、「なんだかおもしろそうだし、お得だな」と、早速申し込みました。
 4科目受講しましたが、学部の授業に似ているところもある一方で、深めるポイントが独特に感じられ、具体的な研究手法の話もあり、「大学院は研究をするところ」なのだと遅ればせながら納得しました。
 しかし最大の成果は、「臨床で働きながら大学院に在籍している医師」の姿が見られたことでした。博士課程医学系研究科の院生のほとんどは医師のようでした。病院から忙しそうに駆けつけてくる白衣の医師たちを見て、1年生の春、授業で「臨床医になったとしても、未解決の問題が出てきたならば、すすんで研究を行う必要がある」と言われたことを思い出しました。さらには、その院生の医師に交じってグループディスカッションを行う科目もあり、医療倫理について語り合いながら、現役医師である院生の方々の考えに触れ、自分の「少しだけ先の未来」をイメージしたりもしました。


おわりに
 改めて医学部生活の3年間を振り返って書いてみると、何かに迷い、求めたときに、しっかりした機会を提供してもらえてきたのは、本当にありがたいことだなと感じます。

 基礎医学研究も、臨床医として行う研究も、目の前の患者さんに相対する臨床の医学とは少し違った形ではありますが、患者さんの幸せのため、ひいては多くの人々のためという医師としての思いは同じはずです。これから医学生として、医師として過ごしていく中で、自分が「どのような医師になるか」「どのような形で貢献するのが向いているか」ということは、まだまだ考え続けることになると思います。知識がまったくないところからのスタートでしたが、研究室での体験やeMED受講で、自分なりに研究に対して納得できましたし、「患者さんの幸せ」という目的のために、形にこだわらず、必要なこと、やりたいことをするための準備ができた気がします。将来研究をしようと思ったときには、臆することなく飛び込んでいこうと思います。