これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第28回*  (H27.3.31 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る 
今回は島根大学医学部医学科4年 兼田 稜さんです。
 「医学研究の基礎」という自由単位
                        島根大学医学部医学科4年 兼田 稜
     
   
 島根大学医学部医学科4年の兼田稜と申します。私は現在、学部の授業の傍ら、本学の自由単位である「医学研究の基礎」を通じて、解剖学講座発生生物学の大谷教授の下でお世話になっています。まだまだ研究者と名乗るにはおこがましい私ではございますが、学部生の知り合いにも先輩・後輩問わず「どう思って研究室にいるの」「やっぱ入った方がいいかな」と聞かれることは多々あります。出来たばかりの「医学研究の基礎」、幸運にもその第1号となったためか、今回の原稿の話を頂きましたので、分不相応ながら率直な思いを述べたいと思います。

 私は高校生の頃、文部科学省事業であるSSH(スーパーサイエンスハイスクール)に参加していたためか、大学に入学した後も同級生より人一倍研究に対する興味が強い人間であったかと思います。しかしそんな意気込みも束の間、5月には馬術部に入部し、以後馬術にのめりこんでいました。研究することへの興味はありましたが、「勉強」「部活」「バイト」で手一杯だったのでしょう、とても研究をしている余裕などありませんでした。転機が来たのは2年の夏休みの頃です。馬術部は当時人数が少なく(現在は人数も増えましたが)、シフトを組んで世話をするため2年生以上は長期休暇も丸々帰省することが難しい部活でした。そのため遠出することは難しいのに、夕方の練習以外は時間を持て余す日々が続くことに気付いたのです。入学してから1年半、将来「大学生活を精一杯過ごした」と言えない気がして焦りを感じ始めていたのでしょう。解剖実習中や、放課後の質問などで当時お世話になっていた大谷教授のところへ研究の話を聞きに行ったのはその頃でした。
 同じ思いの医学部生も珍しくないと思うのですが、「興味はあるけどいざ始めて続かなかったら先生に申し訳ない」「テストもあるし余った時間でしか研究は出来ない」、このような思いを医学部長を兼務されていた大谷教授に素直にぶつけたのです。すると、大谷教授は私の失礼な話にも笑いながら「よしやろう!」と快諾してくださり、出来たばかりの「医学研究の基礎」についての話をしてくださいました。しかし単位となると束縛が厳しくなる気がして、医学研究の基礎を通さずにしたいと話すと、「続かなかったら他の教室行ってもいいし、やめて単位落としてもいいですから、とりあえず通すだけ通しときなさい」と、当時の私にとってはとても斬新な提案をしてくださいました。そのような至れり尽くせりな所から私の「医学研究の基礎」は始まりました。

 それからというもの長期休みだけは週6日研究室に入り浸り、授業が始まるとテスト勉強でほとんど行かない、という遠洋漁業の漁師のような生活を3年まで続けていました。そんな私だったのですが、興味だけはあったので、教室の会議のときだけ顔を出しても大谷教授は暖かく迎えてくれました。そのお陰で、発生学のダイナミックな変化、そしてその捉え方に好奇心を膨らませることが出来たと思います。割と時間に余裕が出来る3年の終わりごろ、それまで教室で色々な基本的手技を習っていた私は、「今年は本気でやってみよう」と思い、「胎児器官形成期における気管上皮のinterkinetic nuclear migration」という新しいテーマを頂きました。それからというもの、ほぼ毎日研究室に出入りするようになりました。そして夏の先天異常学会のポスター発表に誰が行くかという話が出た時、「学会というものに行って他の人の研究も見たいな」と思っていると、大谷教授は「よし、行こう!懇親会でA5ランクのステーキが出るから食べに行こう!」とおっしゃり、私は食べ物にまんまと釣られてポスター発表の抄録を書いたのです。しかし初めての発表、右も左も分からなかった私にはかなりハードな2ヶ月が待っていました。データの整理や追加実験、ポスター作成などに追われている中、2週に一回やってくる試験、引退が近かった部活の練習、そして続けていたアルバイト。歩いて10分の自宅に帰ると次の日授業に遅刻するため、週に2.3日は研究室に泊まっていた記憶があります。教室の先生方が手伝ってくださった甲斐もあって、なんとか学会に間に合い、去年の先天異常学会でポスター発表させて頂くことが出来ました。そしてその発表で「医学研究の基礎」の単位を修得することが出来ました。

 私も含めた多くの大学生にとって、「単位」は喉から手が出るほど欲しいプレゼントだと思います。本来は勉強した結果もらうべきものですが、実際はもらうために勉強する人の方が多いかと思います。私は今回、「医学研究の基礎」という「単位」をいただきましたが、進級に関係ないこの単位は、頂いたことよりも、おそらく将来役に立つ考え方や伝え方、そして何より研究に対する「好奇心」を学ぶことが出来ました。まだまだ一人前には程遠く、遠い道のりを感じてはいますが、先生方の体得されているものを身に着けようと、放課後はほぼ研究室へ足を運び、「マウス器官形成期における気管・食道上皮の発生」についての研究を続けています。私はまだ臨床研究の世界は見ておらず、基礎研究もほんの一部しか見ていません。10年後にどの道を進んでいるか全く見当がつきませんが、基礎であれ臨床であれ、絶えずリサーチマインドを持ちながら精進していこうと決めています。当面の目標は卒業までに論文の執筆です。

 初めて門戸を叩いた2年生の夏から2年半、このように文章に起こしてみますと、その頃の自分がいかに未熟者であったかということ、研究室の方々に支えて頂いているかということを実感いたしました。またこれほど自由にやらせていただける、学部生という貴重な時間の有意義さについて今も痛感しています。まだまだ未熟な私ですが、この原稿で少しでもやってみようと思ってくれる後輩がいれば幸いです。最後になりましたが、大谷教授をはじめ教室の方々、また他教室でも私に嫌がらず教えてくださる諸先生方にこの場を借りて感謝させて頂きたいと思います。