これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第38回*  (H28.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は高知大学医学部医学科3年 渡部 伸一朗さんです。
 「基礎と臨床の架け橋を目指して」
                        高知大学医学部医学科3年 渡部 伸一朗
  アメリカ麻酔科学会にて  

 高知大学医学部医学科3年の渡部伸一朗です。高知大学医学部では選択必修科目「先端医療学コース」を履修することにより、2年次から4年次まで特定の研究室に所属して、毎週2回、午後一杯を研究時間にあてることができます。私は2年次での編入学後、メディカルデータマイニング研究班と麻酔科学・集中治療医学講座(麻酔科)に所属し、メディカルデータマイニング研究班では奥原先生と畠山先生、麻酔科では横山先生と河野先生に師事しています。
 私は元々損害保険会社で勤務しており、業務の一環でシステム管理を担当していました。その後、インターネット企業に転職してシステム開発を担当しました。入学と同時に起業という形をとり、システム開発の仕事を継続しています。
 研究に興味があったことと、これまで培ったコンピュータスキルを活かしたいという想いから、入学後すぐにメディカルデータマイニング研究班を訪ねました。高知大学には1981年の附属病院開院時以降35年間病院情報システムに蓄積されている32万人という膨大な患者データを匿名化した教育研究用データベースがあり、コンピュータを用いてそのデータを解析することできます。このデータを用いて従来の実験とは異なった角度から研究のアプローチができることを奥原先生から教えていただき、その魅力に惹かれました。また、麻酔科の先生からは、麻酔科では、データマイニングを用いた研究の将来性があること、データマイニングのような基礎分野と麻酔科のような臨床分野の橋渡しができる人材を求められていることを教えていただきました。この二つの研究室に所属することで、双方からの知識を得て、それを融合することで何か新しいことが出来るかもしれないと考え、この二つの研究室に所属することを決めました。
 私の主な研究は、膨大な患者データの中にある、手術前の血液検査などの検査結果から、手術後の腎機能障害などの合併症を予測することです。さらには、検査コストを抑えつつ予測の精度を向上させる方法、薬剤の投与によって手術後の合併症を抑える可能性についても研究を行っています。統計的な手法はメディカルデータマイニング研究班の先生から教えていただき、臨床的な視点は麻酔科の先生から教えていただき、その二つの分野を融合させる役割を私はコンピュータを用いて行っています。多くの先生方に助けていただき、2年次末には学内の優秀発表賞にあたる「相良賞」をいただくことができました。3年次では日本麻酔科学会で研究内容を発表し、他大学の先生方と議論することで、研究の内容を深めることができました。さらに麻酔科で世界最高峰の学会であるアメリカ麻酔科学会で発表させていただくという貴重な体験をさせていただくことができました。そこでの私の発表は拙いものでしたが、先生方のアドバイスを聞き、必死に発表したところ、海外の先生から「Good presentation!」と言っていただき拍手をいただくことができました。このことは今後の研究の励みにもなりました。また11月には医療情報学会で発表します。

 私の研究での役割はあくまで、基礎と臨床の架け橋になることだと考えています。
 私は現在、学業と研究、システム開発の仕事を行っていますが、これらを全て行うことは正直非常に大変なときがあります。しかし、学業では医学の基本を学び、麻酔科では臨床的な視点を学び、データマイニングでは解析方法と統計学を学び、仕事ではコンピュータスキルを向上させることができます。これら全ては私が基礎と臨床の架け橋になるために必要なものと考えています。アメリカ麻酔科学会での講演で、「麻酔科では臨床現場でビッグデータを活用しようとする試みは現在のところ始まっていない。しかし十分な量のビッグデータは既に蓄積されている。今後は、臨床現場でビッグデータをリアルタイムで解析することで、より質の高い医療を行える時代が来るであろう」との話を聞きました。私もビッグデータ活用への流れが加速していくことで、より高度な医療が実現していくことを期待しています。そのような新しい時代が来るまでに、私は自分を高めて、基礎と臨床の架け橋としての役割を果たせるようになりたいと考えています。
 最後になりましたが、休日や深夜にも関わらず、指導してくださる奥原先生と畠山先生、臨床の合間で指導してくださり、学会発表もさせていただいた横山先生と河野先生に、この場をお借りして心よりお礼申し上げます。