これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第39回*  (H29.2.27 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は旭川医科大学医学部医学科4年 石原 洋さんです。

                   旭川医科大学医学部医学科4年 石原 洋
  旭川ウェルビーイングコンソーシアム合同成果発表会での発表  

私は昔から生物や顕微鏡がたまらなく好きでした。祖父母が癌で他界したことをきっかけに、医師として癌に苦しむ人達の支えになりたいと思うと同時に、生と死の根幹である生命現象に興味を抱き、人体を隅々まで科学的に学びたいという思いで医学部を志しました。旭川医科大学には学生の親睦サークルとして「医科学研究会」があり、入学後は研究に興味をもち「医科学研究会」に入部し、そこでお世話になった先輩のご厚意で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療法を研究されている教育研究推進センター船越研究室にご紹介頂きました。肝細胞増殖因子(HGF)を用いた神経再生医学によるALSの治療法の研究は、臨床医学と基礎医学の橋渡し研究として大変興味深い研究でありました。船越洋教授と素晴らしい先輩からご指導を賜り、研究の面白さを体感しました。その間、学内において電子顕微鏡が稼働していることを知り、ぜひ顕微鏡を覗いてみたいという思いを自制することができず、解剖学講座顕微解剖学分野の先生にお願いし、電子顕微鏡を用いて研究活動をさせていただく事となりました。当初は慣れない講義や部活動等でなかなか研究室に足が向かないこともありましたが、先生の熱いご指導もあり、長期休みや休講時間など出来うる限りの時間を研究室で過ごしました。
 解剖学講座では最初、性ステロイドホルモンが前立腺上皮細胞のゴルジ装置に与える影響について研究しました。前立腺組織を免疫組織化学と電子顕微鏡観察によって観察し、そこから観えた前立腺上皮細胞のゴルジ装置が生物学の教科書等で散見されるゴルジ装置の形とはかけ離れた興味深い形態をとっており、やはり生命というものは全くもって神秘的であると、強く胸を打たれました。暮地本宙己助教に直接ご指導をいただいて研究を進め、文部科学省主催のサイエンス・インカレに本学で初出場を果たし、分野を問わず全国のユニークな学生研究者と交流することができました。さらに日本解剖学会総会に参加する機会をいただきました。お忙しい中にも関わらず日夜暖かいご指導を下さった先生のお陰で「挑戦すること」の楽しさを知り、私の小さな世界観が水で戻した乾燥ワカメのように風味豊かにワッと広がりました。誠に有難いことでありました。俗世へのしがらみを捨て、無心で実験やデータ収集・整理に励む学会前の生活はまさに修行僧を想起させましたが、非常に楽しく有意義な時間だと感じました。研究、学問というものの深淵さ、面白さという海に、ダイブしたような感覚を味わいました。

 暮地本先生が留学に発たれてのち、新潟大学から赴任された甲賀大輔准教授より直接のご指導をいただき、下垂体前葉ホルモン産生細胞の形態学について、主に走査型電子顕微鏡を通して学んでいます。この成果は日本顕微鏡学会北海道支部会で発表し、支部長賞を受賞しました。電子顕微鏡は、その存在意義は重大であるにも関わらず、専門家の人口が減りつつあると聞きます。甲賀准教授が本学において研究されている最先端の電子顕微鏡の世界の一端に触れ、大変な刺激を受けています。未来の臨床医学の礎となる基礎医学研究を通して、美しい生命現象に触れながら、なぜ我々が生きていられるのか、という問を追求していけたらこの上なく幸福であろうという思いで、臨床医学の勉強の傍ら、日々基礎研究に向き合っています。
 単科の医科大学である本学において数は少ないながらも、自主的に研究室に出入りし一生懸命に研究をされている学部生が居ます。最北端の医学部から、世界に研究の成果を発信し、学生の立場からも本学を大いに奮起させることができたら素晴らしいのではないかと思います。そして、学生の思いに応えてくださる先生が本学に居てくださることが、何より有難いことであると思っています。
 これまでの研究・学生生活で、大学内外を問わず非常に多くの先生、先輩にお世話になり、いかように感謝を申し上げて良いのか適切な表現が見つかりません。学部生に基礎研究のチャンスを与えてくれる旭川医科大学の環境や、吉田晃敏学長を始めとする学内の諸先生、中でも日々お世話になっている渡部剛先生、甲賀大輔先生、暮地本宙己先生等の解剖学講座の先生、遠方から支援してくれる両親、そして本稿の執筆をご推薦頂きました船越洋先生に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。