これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第55回*  (2019.12.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は聖マリアンナ医科大学医学部医学科4年 須郷 秀雄さんです。
「研究室配属コース:臨床腫瘍学教室での4週間」

                  聖マリアンナ医科大学医学部医学科4年 須郷 秀雄
  研究室でご指導いただいた先生方との食事会(前列中央が筆者)  
 今回、私は聖マリアンナ医科大学医学部4年の研究室配属コースの一環として臨床腫瘍学教室で結腸直腸がん患者の遺伝子異常に関する研究を行った。本教室を選択した動機は、がん治療が近年著しい進歩を遂げていると知り、最先端の医療にとても興味をもったためである。また、私自身医学部入学直前に祖母を末期がんで亡くし、講義で聞く治療や転移というものを目の当たりにしていたことも1つの要因かもしれない。
 指導医の砂川先生の勧めで結腸直腸がん患者の遺伝子異常がテーマとなった。がんに関わる遺伝子は、医学部の講義だけではなかなか理解しにくく、専門家のもとで勉強することができる良い機会であると考え、研究に取り組んだ。

 本研究では、遺伝子異常を一度に網羅的に調べることができる遺伝子パネルというキットのデータを用いた。これらは今年6月に日本でも保険収載され、本格的に治療への応用が始まったばかりのものであった。研究に際して調べた数々の論文や文献もここ1、2年のものばかりでまさに最新の研究なのだということを実感させられた。

 本研究では、私はデータの解析から得られた結果を考察しまとめる役割を担った。直接患者さんに接するわけではないが、これらのデータの後ろには実際の患者さんがいると思うと、普段の授業や実習と違った緊張感があり、改めて襟を正してこの研究に取り組まなければいけないと感じた。


 研究に自分自身で取り組んだ経験が無かったため、最初は道筋も掴めないような状態であったが、指導医の砂川先生始め、臨床腫瘍学教室の先生方が進捗の確認や相談に乗ってくださり、安心して取り組むことができた。特に、研究室配属の最後に自分の研究を教授や医局の先生方へ発表する研究室配属成果発表会では、学会発表に準じた指導・修正を丁寧に行ってくださり、時には夜遅くまで指導していただけたのが印象的だった。また、準備だけでなく、プレゼンテーションに関する指導もいただき、とても勉強になった。

 今回の研究室配属を通して自分が特に感じたことは、私たちが日頃見ている論文や、教科書に載っている結果の一行でさえもそれを調べるのに莫大な時間と労力がかかっているのだということだ。今回100人ほどの患者さんのデータを用いて研究を行なったが、この人数でも綺麗なデータと明確な結論を得ることは難しかった。指導を頂いた臨床腫瘍学教室では、今回私が取り組んだテーマに関して、1000人近い患者さんについての研究を行なっており、確からしい結果を得るには多くのデータを解析していく必要があることを実感した。


 研究室配属期間中に臨床腫瘍学の中島教授がおっしゃった、”論文は自分たちが調べてわかったことを世界中の人に教えてあげるもので論文を書かないと知識がもったいない”という言葉がとても印象に残った。私自身、論文作成はとても大変で面倒で、その論文を書く時間があるなら臨床に携わって1人でも多くの患者さんを治療したいと思っていたが、今回研究室配属を通して、少ないながらも自分が行った研究の結果が治療に繋がる可能性を実感できた。そう考えると、論文を書くことで私の直接携わらない患者さんを助けることができるのではないかと言葉だけではなく真に実感することができた。

 大学の講義でも、こうした先生方の臨床・研究の実情や苦労について聞いたことはあったが、実際に自分で手を動かし、その苦労の一部でも経験することによって臨床医が研究をするというとが、本当に大変だが、重要なのだということが理解できた。

 聖マリアンナ医科大学における研究室配属は今年初めての取り組みであり、教室を選択する学生として、どんなことをするのか不安もあった。

 卒業後のキャリアについて少しずつ実感を持って考え始める今の時期に、このような実習を通して、未来像の一端を垣間見ることができた。研究に貢献し、成果としてはわずかかもしれないが、私のキャリアプランにとって、大きな収穫になったと感じられた。