これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第59回*  (2020.8.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は奈良県立医科大学医学部6年 緒方 瑠衣子さんです。


                      奈良県立医科大学医学部6年 緒方 瑠衣子
   
分子病理学研究会での発表、指導医の國安教授と  分子病理学教室での研究風景
   
 奈良県立医科大学6年の緒方瑠衣子です。
 私は、3年次から当学分子病理学教室に所属し、研究をしています。もともと人体における生体反応の仕組みについて関心があり、特に細胞生物学の勉強が好きでした。そこで、分子病理学教室の國安弘基教授を訪ね、がん細胞における細胞内シグナル伝達を扱う研究に携わらせて頂くことになりました。

 私の研究テーマは「リノール酸による休眠性幹細胞関連シグナル経路の検討」です。先行研究より、がん細胞にリノール酸を加えると、がん細胞はある時期で増殖もアポトーシスも起こさない静止期の状態に移行し、休眠性幹細胞へ誘導されることが見出されています。その現象にソニックヘッジホッグシグナル経路が関与していると推測されるため、現在私はその経路における細胞内メカニズムを検討しています。これまでの研究成果は一進一退でした。実験をすれば必ず結果が付いてくるというわけではなく、思い通りにいかないことも多々あり、時に落ち込んでしまうこともありました。しかし、諦めず結果と向き合い、地道に実験を積み重ねていくことで、ポジティブなデータが得られたときは、これまでの苦労が一気に報われたような、晴れやかな気持ちになりました。そこで研究の面白さ、楽しさを実感することができました。

 研究室には私の他にも学生や、研究員の先生方がいらっしゃいます。定期的に行われるリサーチミーティングや抄読会では、自分と異なる研究テーマで実験をされている方々の発表を聞くことができ、非常に刺激になっています。また、これまで約7回もの学会発表の機会を頂きました。学会では発表の仕方や質疑応答の内容について毎回反省点も浮かび上がりますが、ポスターを見てくださった初対面の先生方から「面白そうな研究だね」「今後の実験も期待しているよ」などと声を頂けることが何度かあり、以降の研究のモチベーションにもなっています。さらに、学会発表を通して、参加者の理解を得られるようなポスターのレイアウトやプレゼンの仕方にも工夫を凝らすことの大切さを学びました。人前での発表は毎回緊張をしてしまいますが、気持ちのコントロールの方法も少しずつ身に着けることができていると思います。学生のうちからこのような経験をさせて頂くことは非常に恵まれていると感じています。

 当研究室の國安教授は、ご自身がご多忙であるにもかかわらず常に研究員それぞれに対して懇切丁寧にご指導くださり、気を配ってくださる方です。私が実験で失敗し悩んでいる時は、いつも明快なアドバイスやあたたかい励ましの言葉をくださいます。國安教授は私の理想の研究者像、教育者像であり尊敬の念に堪えません。また、研究室内のあらゆる専門分野の先生方からもご指導やご意見を頂きながら考察を深め、実験を進めることができています。臨床現場においてもチーム医療が大切ですが、研究分野においても、個人プレイだけではなく、時には協力したり、互いにディスカッションをしあえる環境が大切です。それが作業効率にも、実験結果にもつながっていくことを私は肌で感じています。

 私の大学生活は、研究室があったことで充実した有意義なものになっていると思います。前述のとおり、学生という未熟な立場でありながら、一研究員として熱心で高度なご指導を頂けたり、学会発表を経験させて頂くことができました。学業との両立は決して簡単なものではありませんでしたが、妥協することなく続けられたからこそ得られた忍耐力、研究の醍醐味、先生方との親交は生涯にわたる財産であると感じています。このような貴重な経験、素晴らしい環境を与えてくださった國安教授をはじめ、岸真五先生、谷里奈先生、森汐莉先生、その他多くの先生方に深く感謝しております。

 また、私は2年次に当学のプログラムであるリサーチクラークシップで3ヶ月間、東京都の国立感染症研究所にて「RSウイルス感染によって誘導される二次性細菌感染の免疫学的メカニズム」の研究に携わらせて頂きました。その際にご指導頂いた東京医科大学准教授の柴田岳彦先生の論文がThe Journal of Clinical Investigationの2020年6月号に掲載され、有難くも共著者として私の名前を入れて頂きました。このように私は大学生活において、たくさんの先生方との出会いに恵まれ、導いて頂きました。

 将来は、研究医として研究分野から医療に貢献していきたいと思っています。昨今のCOVID-19による感染拡大問題においても、各国が国境を越えて研究成果を集約することで世界を救うことができると痛感しました。そういった意味で、研究は未曾有の困難をも打開できる夢のある職業だと思います。京都大学の山中伸弥教授が“研究はマラソンである”と例えられているように、研究者の道は長期戦です。決して思い通りにいくことばかりではありませんが、地道に努力し続けることの大切さを胸に、これからも精進していきたいです。