これから研究医を目指す学生が自分を語ります。
*第65回*  (2021.8.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は久留米大学医学部医学科6年 前田さくらさんです。


                     久留米大学医学部医学科6年 前田 さくら
   

自己紹介
 久留米大学医学部医学科6年の前田さくらです。3年次に受講した実習をきっかけに研究の面白さに目覚め、現在まで研究を継続しています。日頃から体を動かすことが好きで、長時間の実験も疲れを感じず楽しく行っています。将来は地域の人々と広く関わりを持ち、患者さんに寄り添う医療を提供できる医師を目指しています。

研究を継続した動機

 久留米大学では3年次の夏から秋にかけて約1か月間、グローバルかつ探求心を備えた医師の育成を目的とするRMCP(Research Mind Cultivation Program)という実習があります。この実習では、国内外の研究室に所属し、実際に研究を行うことで研究の思考プロセスや研究者としての心構えを習得することができます。私は、予てからアレルギーに興味があり、アレルギーに影響を与える食品を探してみたいと思っていました。そこで私は乳製品に着目し、アレルギーに対するその作用について研究したいと思い、本学免疫学講座にて実習を行いました。最終的には、研究カンファレンスで成果を発表し約1か月間の実習は終了しました。しかし、実習終了後もアレルギーについての探求心が消えることはなく、興味・関心は深まるばかりで、実習での研究をきっかけに、研究に根差した臨床医(Research-Oriented Physician)を目指したいと強く思い、引き続き研究を行うことにしました。

研究実績
 3年次での実習をきっかけに、本学免疫学講座で研究を始めてから、3年が経過しようとしています。実習では乳製品のアレルギー抑制作用を検証する研究を行っていました。私が行ったマウスの実験系では、アレルギーに対する乳製品の抑制作用は期待に反して認めませんでしたが、この研究結果は、私をさらにアレルギーに関連した研究へと誘いました。実験ではアレルギー誘発方法が人為的であったことに着目し、よりヒトでの発症過程に近い方法はないかと考え、まずは「アレルギー誘発動物実験モデルの構築」をテーマに研究を開始しました。アレルギーの領域は歴史も古く世界的にも研究者が多いため、これまで多数の知見が報告されています。私はまず、それらの内容を理解するために、関連する論文を検索し現状を把握しました。多くの論文を読むことで、英語を読解する技能が高まったのみならず、得られたアレルギーに関する知識は以降の研究計画を構築するうえで、非常に参考になりました。
 現在までに、マウスにアレルギーを誘発するための様々な実験を計画しては実践してきました。上手くいった実験系に関しては再現性の検証や、結果を裏付けできる科学的証拠を探りました。実験では期待通りの結果が得られることは少なく、その都度頭を悩ませては再度挑戦を繰り返す中で、医学研究は興味深い分野だと実感しました。5年次には、よりヒトでの発症過程に近い方法を探索し、抗原の経皮感作を行ったマウスに抗原の再暴露を施行すると、著しい体温低下と倦怠感、さらには血圧低下が観察され、アレルギーを誘発できることを見出しました。この研究成果は、第57回日本消化器免疫学会(2020年7月)にて発表することができました。現在は、この成果を論文として発表するために、ELISAやフローサイトメトリーなどの追加実験を行っています。

研究を通じて感じたこと

 「医学」は様々な専門科目が相互に関連し、膨大な知識が集積された学問だと言われています。その一方で、未だ解明されていないことも多く、医学研究者が日夜その解明に取り組んでいます。私は3年次の実習において医学研究に接する機会がありました。実習の中で、私は「大学とは既存の知識・技術を吸収することのみならず、新しい知識・技術を生産する場でもあり、そこで得られたものは広く社会に還元するためのものだ。」と感じました。さらに「学生が自らの力で問いを立て、それを解決する能力は一人の人間として生きていく上で大変重要なことである。」ということに気が付くことができました。私の研究の出発点のようにどんな身近で些細な疑問であってもその興味を大切にし、そこから科学的に仮説を立て検証できたことは、自分自身の成長に大きく寄与していると実感しています。これは、臨床で出会うであろう未だ答えのわからない問いを解決することを積み重ねていけば、最終的には地域医療や社会に還元することに繋がると考えられます。このように、自ら学ぶ力を得て研究プロセスを習得した医師は臨床に出てからも、それらの知識と技能を生かして医療が行えると確信しています。
 これら全てを一人で始めるにはハードルが高いかもしれませんが、大学には多くの仲間そして先生方がいます。仲間と心と力を合わせて為せば必ずや道は開けると思います。まずは自分が興味を持った研究室の扉を叩いてみることから始めてみませんか。今まで無かったような発見や素敵な未来が待っています。

将来の抱負
 私は将来、研究思考を有する地域に根差した皮膚科医になりたいと考えています。そのために大学院に進学し、研鑽を積みたいです。その過程において、未だ治療法の確立していない皮膚疾患などを免疫学の視点から考察してみたいと思います。