*第10回*  (H24.8.28 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は徳島大学での取り組みについてご紹介します。

Student Labを活用したリサーチマインド育成の試み
                徳島大学医学部Student Lab運営委員会
       
(文責:徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授 勢井 宏義 先生)
 医学は日進月歩であり、その情報量は爆発的に増大している。臨床現場においても、日々、新しい情報を身につけようとするリサーチマインドがなければ、より良い医療を実践することは難しい。一方、最近、医学部学生の思考がマニュアル化しており、リサーチマインド(探求心・研究心・好奇心)の弱体化が目立つ。徳島大学では、リサーチマインド育成を目的として、次のような対策を講じてきた。①医学科1~2年次において、学生10名に対して1名の基礎系教授が相談役として担当する、いわゆる担任制の実施。②医学科3年次における、1年間(午後)の研究室配属。③MD/PhDコースの設置。本学のMD/PhDコースは、4年次終了後いったん学部を退学し、同級生から離れて研究に専念するという、強い意志や主体的決断を必要とする。設置から10年、毎年1~2名のMD/PhDコース進学者を確保できており、また、基礎系分野へ進む卒業生も現れてきている。しかし、全体的に、思考のマニュアル化やリサーチマインド弱体化を回復させるまでには未だ至っておらず、さらに新たな方策が求められている。

 そこで徳島大学は、学生に、自分の好奇心や疑問から出発し自分の手で実験を実行し結果を得て、そして考察しながら次への実験を考える、という思考の流れを定着させることを目的として、新たな基礎医学実習を立案した。
 その目的を達するために我々は、まず、学生が自由に使える、学生のための実験室を立ち上げることにした。それが、Student Labである。Student Labにはクリオスタット、PCR、蛍光顕微鏡など、1研究室に匹敵する備品が揃っており、また、Student Labには専属の助教がコーディネータとして配置されている。概念的には(図1)、学生が日頃疑問に思っていること、知りたいと思っていることを、コーディネータに相談しながらStudent Labを利用して問題解決のための実験を自ら行う。学生の相談・指導役として、医学部基礎系全分野の若手教員から構成されるStudent Labサポートチームが担当する。サポートチームには、医学部だけでなく、歯学部・薬学部にも協力を仰ぎ、学生の好奇心・疑問に広い分野から対応できるよう準備する。サポートチームの助言・指導を受けながら、自律・自発的な基礎実験を展開できる、そのようなシステムを想定した。

 このStudent Labを利用した試みに対して、2011年度から概算事業として予算的補助が得られることとなった。その予算には、サポートチームの中心的役割を担うリサーチアシスタント費用、Student Labで得られた結果を国際学会などで発表する際の旅費、そして、実験のための消耗品やStudent Lab備品のメンテナンス費などが含まれている。この予算執行のための主体として、Student Lab運営委員会を立ち上げた。
 しかし、実際学生に向けてStudent Labを開放しようとすると、そこには各教員から様々な問題点が指摘された。列挙してみると、①好奇心・疑問をもった学生自体が少ない、②学生に実験に到るまでの基礎知識がない、③実験にはそれなりの技術が必要でトレーニングが重要である。素人的に間違った方法・方向で実験をやらせるのは事故の危険もあり、研究者への最初の一歩として良くない、④動物を用いた実験や遺伝子操作に関わる実験には、前もって講習会を受講する義務がある、などである。
 そこで、運営委員会とサポートチームとで議論した結果、図2にあるような実習体制を構築した。①各年度初めに動物実験および遺伝子操作に関連する講習会を学生全員に受講させる。その際、サポートチームが作成した実験レジュメ集(図3に抜粋例)を配付する。実験レジュメ集とは、サポートチームの各メンバーが、自分の得意とする領域のテーマで、学生が体験的に実施できる実験をレジュメ的にまとめたものである。②学生は、実験レジュメ集から自分のやりたい実験を見つけた、あるいは、講義や日常から疑問に思ったこと、興味を持ったことがあれば、コーディネータへStudent Labの利用を申し込む。③コーディネータは、実験レジュメ集からの申し込みであれば担当分野を学生に紹介し、Student Labで行える実験であれば自ら引き受ける。④運営委員会は、実験を担当する分野ないしはStudent Labへ消耗品代を支給する。⑤実験が終了した際には、学生は簡単な報告書を提出する。⑥そのような実習を重ねながら、サポートチームは、学生に国際学会への参加や論文作成を促し、運営委員会は旅費などのサポートを行う。Student Labを利用した学生が共著者になる論文には、Student Labを所属名として記載する。
 以上のようなStudent Labシステムが確立され、2011年4月よりスタートした。リサーチアシスタントには、医学科の学生にとっては先輩であるMD/PhDコースの大学院生が採用された。一方、実際の実験室であったStudent Labは、このシステムによってバーチャルな実験室となり、各分野にとどまらず、各学部、そして、学外の大学や研究所にまでその視野を広げられることとなった。


 1年目のStudent Lab利用者は1、2年次を中心におよそ30名、旅費サポートは10名(海外6名)、発行された国際論文は3編である。予想(期待)にはまだまだ届かないが、きわめて高いモチベーションを持つ学生数名が、コーディネータとの実験を継続している。
 本事業は、あくまで課外コースであり、学生の自主・主体性を大切にしている。そのため、時に、部活やバイトに負けてしまうシーンも多かった。そこで、2年目の本年度、部活やバイト、遊びなどにまだ囚われて(?)いない、入学早々の1年次にターゲットに絞り、4月より「Student Labコース」を開講した。このコースは、毎週金曜日、医学部で行われる講義の後、基礎系分野が分担して、希望学生に各分野の研究紹介や研究室見学、体験実験などを行わせるものである。4月の時点では、70-80名程度の参加があった。その後、徐々に参加人数は減少していったが、逆に、その参加者の中から、気に入った分野でStudent Lab利用を申請するケースが増え、現在(8月時点)、10名を超える1年次学生が、それぞれの分野での実験を継続している。また、「Student Lab手帳」を作成し、Student Lab利用学生への配布を開始した。Student Labで行った実験や、学内で行われている各種セミナーへの参加についての記録を残していくことで、学生のモチベーションが維持されることを期待するとともに、将来的に、大学院の単位として応用できるよう、検討中である。また、秋からは内容を一新したStudent Labコースを開講する予定である。


 本事業の目的は、基礎医学研究者、研究医、リサーチマインドに富んだ医師を育成することであるが、具体的な数字としては、MD/PhDコースへの進学者数、卒後あるいは初期研修後の基礎医学分野への大学院進学者数の増加にある。その点で、まだ本事業の成果は見えてこないが、学生、特に新入生の顔を基礎医学分野の研究室周辺でよく見かけるようになっただけでも、一歩前に進んでいると感じる。

 国際化も大学にとって重要な課題である。バーチャルな実験室であるStudent Labを国際版に拡大し、海外の大学から実験レジュメを募り、学生が自ら留学先を選択し数週間の短期留学を体験させることは、一石二鳥的な方策と考える。学部間・大学間で交流締結している大学からはじめ、積極的に展開していきたい。

      Student Lab 公式サイト http://www.tokushima-u.ac.jp/scme/student/