*第12回*  (H24.10.31 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は山口大学での取り組みについてご紹介します。

山口大学医学部の研究医養成の取り組み
 -アカデミックドクター育成プログラム-
       
(文責:山口大学医学部機能神経解剖学講座教授 篠田 晃 先生)
(アカデミックドクター育成プログラムチームリーダー)

 全国的に大学を含めた医療機関での医師不足が叫ばれ、特に地域の医療現場で即戦力として活躍できる臨床医の育成に向けて国を挙げての取り組みがなされています。一方で、この陰に隠れて医学科卒業生・研修医の研究離れ、大学離れ、地域離れが加速しております。大学院生の減少、基礎研究医の人材不足、将来の学部教育への支障や基礎から臨床へのリエゾン型研究の展開障害も懸念され、将来大学に残って医学の第一線で活躍し、世界的レベルで研究する医師・医学者が激減し、日本全体の医療レベルが低下する危惧もあります。その背景には、陥りがちな近視眼的医学教育環境の中で医学生に研究マインドの低下や国際的視野の狭小化が進行し、また教員と学生との絆の形成が不十分であることが見え隠れします。地域の医療機関であろうと大学であろうと高度な医師・医学者を育てるには、臨床現場の即戦的知識や技術は勿論重要ですが、広い国際的視野と生涯続く学術的向上心と探求心を育むことも必須です。
 山口大学では、生命や病気や医療を科学的な観点からとらえ,生涯続く研究心(学術的向上心と探求心)と国際的視野を持ち、特に大学等の医学研究活動を通じて、世界レベルで活躍できる高度学術医(アカデミックドクター)を早期の学部学生時代から育成することが重要だと考えております。既に平成7年度から学部3年次に、座学授業を完全にフリーにし、各研究室等の実践的な研究活動やボランティア活動に参加し、具体的な方法を学び、研究者や社会人と交わる事で学問的並びに人間的成熟を図る「自己開発コース」を開設しました。平成 14 年度には、全員がその活動成果をチューター指導下でプレゼンテーションし、3年次年度末に科学論文を作成・提出する日本で唯一の「修学論文チュートリアル」を実施してきました。平成22年度には選択科目として「Open Science Club」を2-3年次に設定し、研究室を開放し、学生が出入りして研究に馴染む環境・雰囲気を整えました。また4年次「自己開発コース」以降に選択科目として単位認定した「高度学術医育成コース(SCEA/AMRA コース)」を開設し、学生が継続して研究に携わることができるようにいたしました。このコースを通じて、医学生は学会発表や論文作成や投稿を目指した実践研究に携わり、達成した場合、博士取得期間の短縮を認めるなど、大学院入学・進学に際する優遇措置を付帯して、これを奨励する制度を設けました。今年度は既に50人を超す学生が履修登録をしております。

 平成22年度には、こうした長年に亘る取り組みが認められ、文科省による中四国地区の研究医育成拠点校の指定を受けました。また、上述した学部2年次から大学院までの首尾一貫した一連の「Open Science Club(2-3年次)」「自己開発コース(3年次)」「修学論文チュートリアル(3年次)」「SCEA/AMRAコース(4−6年次及び大学院博士過程)」を「実践研究参加型のアカデミックドクター育成プログラム(アカドク育成プログラム)」としてまとめ上げ、平成24年度から3年間、「高度学術医の育成を目指した実践研究参加型医学教育の拡充」プロジェクト(通称、アカドクプロジェクト)の助成支援を受けるに至っております。この拡充プロジェクトは、これまでの「研究参加型カリキュラム」をさらに推し進める形で、①実践研究参加型教育へのシフト、②海外研究体験型教育の導入、③学生学術交流の活性化、④学会や論文での成果発表の奨励を行い、医学生同士が切磋琢磨して⑴研究心と⑵国際性を高め、また学生と大学や指導者との⑶絆形成強化を図る事を目的としたものです。その中核にあるのが、平成24年度の開設間近な学生医学アカデミアセンター(通称SMAC: student medical academia center)と付随したSMACラボ(SMAC laboratory)です。SMACは、研究志向の学生が学年を超えて集い、学術サロン的雰囲気の中で互いにあるいは指導教員との交流ができ、学術情報の入手できるスペースです。SMAC教員と事務補佐員が配置され、管理・運営、SMACに係わる学生に学内や海外ラボの情報提供を行い、特に海外研究室とのSMAC海外ネットワークを構築して、学生の海外派遣のコーディネーション等を支援します。また、SMAC学生メンバーには実践的英語能力の向上のための指導やプログラムを準備します。SMACラボには基本実験研究環境が整備され、基本的実験手技の手解きのための「SMACラボトレーニングコース」や成果発表技術の指導が行われ、自己開発コースでの研究や海外研究への参加準備を支援します。また学生達の研究・実験手技獲得やデータ解析・プレゼンテーションにも利用できます。期待するところは学生が互いに切磋琢磨し、自らが独創的な研究を発想し、実験研究を遂行できる場に利用される事です。このプロジェクトが、リアリティと研究マインドを高め、医学生の学問的興味分野の多様化を促進し、国際的視野を広げ、個性豊かな高度学術医を育成できるものと信じております。

 今年度はプロジェクト準備初年度ではありますが、ハーバード大学、ピッツバーグ大学、トロントヘルスネットワーク大学、ソフィア大学、マルタ大学で海外の実践研究に参加している学生が5人おります。来年度はSMAC海外ネットワークを利用して10人以上の学生が海外実践研究に参加する気配です。そして現在、自己開発コースで3年次の学生全員が各研究室等に散らばって、実践研究・社会活動に従事しております。4年次以降の学生は授業が忙しい中SCEA/AMRAコースで頑張っております。2年次学生も来年以降を目差し、講義や試験やクラブと両立させようと、Open Science Clubで研究室に足を運んでおります。忙しい時間を縫って意気揚々と研究室で実験し、先生と同じ立場で真剣に議論して、実際に学会発表をし、論文を書いている学生の姿を見ていると本物の輝きを感じます。講義や実習も勿論重要です。しかし何が本当に役立つ知識や思考や技術なのか。何が問題解決に重要な判断と行動なのか。何が相互理解に大切なコミュニケーションなのか。これらは実践経験からしか体得出来ません。医療現場でも研究現場でも、出会った患者さんや病気や生命現象を正面から科学的に捉え、問題を明確化し、広い視野から冷静かつ臨機応変に対応し、断固として解決に至る必要があります。やればできる学生ばかりです。若い時代の成功体験の波動は生涯心を揺らします。学生達には是非とも大学のアカデミズムとグローバルな世界を体験し、勇気をもって夢への挑戦をしていただき、日本の、延いては世界の将来を支え、何処へ行っても周囲の人達の心を動かす仕事ができる医師・医学者になっていただきたいと思っております。最後に、こうした取り組みを通じて医学生と指導教員や大学との絆形成が強化され、レベルの高い卒業生の大学院進学率及び臨床医の大学定着率・帰還率が向上し、優秀な人材が大学に確保されることを願っております。


山口大学医学部|高度学術医(アカデミックドクター)育成特別カリキュラムhttp://www.med.yamaguchi-u.ac.jp/medicine/curriculums/academic-doctor.html