*第17回*  (H25.5.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は慶應義塾大学での取り組みについてご紹介します。

慶應義塾大学医学部における研究医養成の取り組み
(文責:慶應義塾大学大学院医学研究科委員長補佐 佐谷 秀行 先生)

慶應義塾大学医学部は北里柴三郎初代医学部長が創立に際し述べた「基礎・臨床一体型医学・医療の実現」を理念とし、最も優れた医療を提供するためには最先端の基礎医学研究を遂行できる人材とそれを育成する環境の充実に力を注ぐべきと考え、その理念を実現してきました。しかし、近年、臨床医学の複雑化と専門化の両ベクトルが先鋭化したことにより、若手医師の臨床志向が強くなり、逆に基礎研究医が減少し、医学・医療の基盤の脆弱化が懸念されています。また、基礎研究医を育成する場である医学研究科大学院の教育プログラムも、臨床志向の医学生を引き付ける魅力のあるプログラムの構築に努力はしているものの、基礎研究に定着する医師の数はこれまでに比べて減少傾向にあります。他の医師たちと異なったキャリアを歩むことの不安を解消し、基礎研究に使命感を持って臨むことのできる若手医師の育成は、我が国の医学・医療を発展させるために喫緊の課題です。

慶應義塾大学医学部は、基礎医学と臨床医学の知識を学んだ学生が、早期に大学院博士課程に進学し、基礎研究を存分に行い、学位取得後基礎医学者として進むことができるプログラム、基礎研究医養成プログラム(慶應MD-PhDコース)(図)を設置することを平成21年に決定し、22年度より本プログラムへの参加者を見込んで入学者数の2名増員を行いました。学生に本プログラムを周知する目的で、1年次から2年次にかけて、説明会を2回実施しています。その後、アンケートによって調査し、関心があると回答した学生とは個別に面談を行い、学生の目標とプログラムの目的が合致するか否かについて話し合います。個別面談は時期を変えて2回行い、その上で本プログラムへの参加を決定して頂きます。22年度入学者からは2名、23年度入学者からは5名の学生が既に名乗りを上げてくれています。

 


本プログラムに参加する学生は3年次より学部の講義・実習を受講しながら、全て英語で行う大学院の講義を受講し大学院科目の先取りを行い、複数の研究室をローテーションします。ローテーションでは3つの研究室を4カ月ずつ回ることができ、そこで実験の基本や研究の進め方の基礎を学ぶことになります。4年次からは特定の研究室に所属し基礎研究を行い、学部卒業と同時に大学院博士課程に入学し、学位取得を目指して研究を行うことになります。研究がまとまれば、大学院入学後3年で修了することができるため、本プログラムでは学部入学後、最速9年で医師と医学博士の双方の資格を得ることができます。本プログラム実施に際して奨学金制度も立ち上げました。5年次、6年次の二年間は年間100万円の支援を行います。

実施においては、研究テーマのきめ細かい指導に加えて、医学部の講義実習と大学院科目を同時進行で履修することによって発生する負荷に対する対策と、キャリアデベロープメントに対する不安の解消に重点を置いています。そのため、研究指導教官以外に2名以上のメンターを設置し、定期面談を行うことによって、徹底したサポートを行います。

 平成22年度入学者は現在、研究室ローテーションを実施中で、各研究室で研究の手ほどきを受けています。医学部卒後の大学院ではレベルの高い基礎研究を初年度から展開することが可能であると考えます。本プログラムが進行することにより、基礎医学研究に使命感を持って臨む人材が輩出されることを切に希望致しております。