*第22回*  (H26.4.3 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は北海道公立大学法人 札幌医科大学での取り組みについてご紹介します。

札幌医科大学における研究医育成の試み」
(文責 : 札幌医科大学大学院医学研究科教授(前医学部長) 黒木 由夫 先生)

1.札幌医科大学大学院MD・PhDプログラム
 札幌医科大学医学部・医学研究科では、研究医の育成のために、医学部では第3学年の基礎研究室配属を、医学研究科ではMD・PhDプログラムを実施している。今回は、われわれが実施しているMD・PhDプログラムの概略を紹介する。
 札幌医科大学では、平成17年度から大学院医学研究科MD・PhDプログラムを開始した。理念としては、札幌医科大学の将来基盤を支える人材を育成することを目的として、大学院教育を医学部在籍時から開始するプログラムで、札幌医大の基礎医学研究と教育の充実を図り、大学の発展の礎を築く人材育成を目指している。

2.募集、入学試験とコースの概略
 募集は、3専攻9領域の27科目で、全ての基礎医学13講座、医学部附属研究所7研究部門の他に、心理学や遺伝医学など、生命科学系7部門が参加している。毎年、11月頃に、受入講座の説明会を実施している。1講座当たり10分程度で,各講座の研究テーマを示し、MD・PhDプログラムの学生生活を例示するなどして、興味を持ってもらう。12月末に募集を受付、冬休み明けに、語学試験と希望講座の個別試験(面接)を行う。MD・PhDプログラム開始当初は,医学部第3学年からの入学としていたが、基礎医学研究へのearly exposureも大事なので、医学部第2学年からの入学も可能とした。

   
   図1.札幌医科大学のMD・PhDプログラム

 医学部在学中のプログラムを前期プログラムとして、医学部卒業後のプログラムを後期プログラムと称している。後期プログラムは、正規の大学院生として3年間で早期終了を目指す。札幌医大では、コース1およびコース2を設置し、医学部を一時中断するMD・PhDプログラムは設定していない。コース1またはコース2を選択した学生は、医学部在学期間中に前期プログラムを受けることとなる。前期プログラム期間は、大学院医学研究科基礎医学系の科目から指導教授を決め、その科目に所属して研究指導を受ける。この間に受講した大学院セミナーなどは、後期プログラムに進んだ時に、さかのぼって単位として認定している。前期プログラム終了時にはプログレスレポートを提出してもらう。A4版用紙5枚程度に前期プログラム期間中の研究内容をまとめ、指導教授の審査を受け、合格と判定されることをもって前期プログラム修了となる。発表論文が既にある場合は、プログレスレポートに代用できることとしている。

3.MD・PhDプログラム入学者 

入学年度

入学者数

前期プログラム
修了者数

入学者中の
修了者数

後期プログラム
進学者数

平成  17

9

7

1

     18

14

2

13

2

     19

6

8

4

1

     20

11

2

8

3

     21

8

13

2

 

     22

16

5

 

 

     23

7

3

 

 

     24

11

1

 

 

     25

19

 

 

 

     26

21

 

 

 

122

34

34

7

表1.MD・PhDプログラムの入学者数、修了者数、後期プログラム進学者数 

 受け入れ人数が最も多いのは病理系2講座で計45名、法医学14名、薬理学12名などとなっている。この3年間、MD・PhD入学者は増加傾向にあり、最も多いのは医学部第3学年での入学者である。
 前期プログラム期間中は、医学部学生として授業を受けなければならないので、医学部授業終了後の夕方〜夜と土日などに研究を行う。少しでも基礎医学研究に関心を持ってもらうのが狙いでもあるので、学生個人個人で研究熱に温度差がある点はやむをえないところである。中には、Gordon conferenceなどの国際学会や国際シンポジウムで研究成果を発表する者もいる。旅費については、できるだけ大学予算で支援するようにしている。人数は少ないが、前期プログラム修了時に、BiochemistryやMolecular Biology of the Cell等の国際雑誌に論文を発表した者もいる。

4.MD・PhD後期プログラムにおける単位取得と学位論文
 MD・PhDプログラム入学者の1割にも満たないが、後期プログラムに進学した者が7名いた。病理学、薬理学と法医学の専攻である。

 MD・PhD後期プログラムは、大学院専任期間で、後期プログラム開始に当たっては再度入学試験を課すことはない。前期プログラム開始時には必要がなかった入学検定料と入学料、および、授業料が必要となる。後期プログラムでは通常の大学院課程と同様に、主科目,副科目および共通教育科目について必要な単位を学位論文提出までに取得する。前期プログラム修了が認定された者は,後期プログラムを3年で修了することが可能である。

5.経済的支援
 学会等に出席し、研究発表をした者については、できるだけ、旅費の一部を助成している。MD・PhD後期プログラムの学生に対しては、リサーチ・アシスタント(RA)の適用(年間56万円/人)を優先的に受けることができる。


6.課題
 現在の初期臨床研修制度のもとでは医学部卒業後すぐに後期プログラムに進み、初期研修を大学院修了後に行うコース1を選択する者は少数で、前期プログラム修了後にすぐに初期臨床研修を受ける者が大多数である。従って、多くの者は初期研修後、そのまま臨床系講座に入り、後期プログラムに進学することはない。本学のMD・PhDプログラムは基礎医学系に限定しているので、臨床系講座の大学院に入学したら、MD・PhD前期プログラムは無効になる。MD・PhD前期プログラムを通して基礎医学研究を少しでも学ぶことは臨床医となっても大きな財産になりうる。将来、臨床医としての研究マインドの醸成につながることを期待している。

 MD・PhD学生に対する手取り足取りの指導は、教員の負担増とも言えるが、研究室に若いMD・PhD学生が出入りすることで、研究室全体が明るくなり、教室の若い研究者の刺激になる良い効果を生んでいる。
 札幌医大では、第3学年で4週間終日基礎講座に配属される基礎研究室配属という授業科目を設けているが、MD・PhD学生が選択している講座でできるだけ長く研究できるように、基礎配属期間の延長も検討するべきであろう。