*第25回*  (H26.9.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は広島大学での取り組みについてご紹介します。

研究医養成のための広島大学の取り組み
文責 :  広島大学医歯薬保健学研究院分子細胞情報学教授 今泉 和則 先生 
  広島大学医歯薬保健学研究院神経薬理学教授  酒井 規雄 先生 

 研究医養成を見据えた本学の取り組みとして、医学研究実習、並びに医学部医学科・大学院連携MD-PhDコースとこのコースと連動したAO入試制度を紹介する。

1.医学研究実習
 臨床教育の充実が求められる昨今、臨床医学の知識・技能の修得が重要視され、基礎・社会医学への教育研究比重が低下する傾向にある。臨床医の増加を求める社会的要請も影響して、益々医学研究を指向する学生が減少している。病気が起こる仕組みの解明や治療法の開発には、基礎・社会医学と臨床医学の連携が不可欠であり、学部教育の早い段階から基礎・社会医学研究の重要性を認識させることが極めて重要になってきている。
 本学では、医学部医学科4年生を対象とする『医学研究実習』を2012年度からスタートさせた。学生が医学研究の現場を体験し、その重要性を知ることで研究マインドのある医師・医学研究者となるべき資質を涵養することが狙いである。2012年度以前も希望者には基礎研究室への学生配属は行っていたが、配属時期(学部5年生)や配属期間(2ヶ月弱)の点等で、基礎研究を体得させるには質、量とも十分な内容ではなかった。そこで4年生前期までに座学は全て終了させ、CBT試験も繰り上げて4年生の後期に全ての学生が研究実習に専念できるようにカリキュラムを改変した。
 広島大学医学部医学科および原爆放射線医科学研究所に所属する全ての研究室に加え、教員が推薦する国内外の基礎医学研究室の中から、学生が希望した研究室に配属させる。平成24年度と25年度の学外研究機関配属の実績は、それぞれ21名(うち国外10名)および25名(うち国外13名)であり、5人に1人は学外に出て世界トップレベルの研究に触れている。学内組みの配属は、学生が各研究室の教員から研究の内容を聞き取りできるオフィスアワーの期間を設け、自分の興味と照らし合わせて配属先研究室を決定している。
 研究実習は10月1日からスタートし1月末までの4ヶ月間を充てている。この間、研究実習以外の講義・実習は行わず研究に専念させる。配属した各研究室で大学院生と同じように一人1テーマが与えられ、小さなネタでも必ず結果を出せるような指導をしている。また、教室セミナーに参加し研究論文紹介をするなど研究室の一員として活動する。
 実習期間終了時に各学生が成果をポスターにまとめ発表会を行う。研究成果、発表内容および質疑応答を審査員が厳正に採点し、特に優秀な発表を行った学生には賞を授与し研究成果を称えることにしている。研究実習期間が終了して臨床実習が始まっても、時間を作って研究室に顔を出し、コツコツと研究を継続させる学生も複数いる。その中には、学会等で成果を発表し賞を受賞したもの、あるいは成果を論文にしたものもおり、期待以上に大きな成果があがっている。
                                     (文責 今泉和則)


2.MD-PhDコースとそれに連動したAO入試制度
MD-PhDコース(図1)
 基礎社会医学研究医の養成の必要が叫ばれて久しい。しかし、学生の臨床医志向と、臨床医の専門医志向を跳ね返すだけの妙手が急に出る訳はなく、大学院の進学先に基礎社会医学を選ぼうという機運はほとんど生まれないまま時が過ぎている。このまま指をくわえて待っていても状況は何ら変わらないであろうと、基礎社会医学研究室を中心に攻めの一手に出たのが、広島大学医学部医学科・大学院医歯薬保健学研究科連携MD-PhDコース(通称MD-PhDコース)とそのコースで学ぶ学生を選抜する研究者志向AO入試の創設であり、本学では、平成23年度から導入している。
 広島大学で導入したMD-PhDコースでは、4年生までは通常の学士課程教育を受け、CBT・OSCEを受験後、入学5年目に大学院に進学、3年から4年間、大学院博士課程で研究に専念し、まず博士号を取得する。その後、学士課程の5年生に復学し、2年間臨床実習を受けた後に国家試験に臨むというものである。多くの大学でもすでに導入されている制度を踏襲したもので、特に目新しい形態のコースではない。大学院の早期修了制度を適用すれば、最短9年間で学位取得と国家試験受験資格が得られるという、限られた期間で最も早く2つの資格を得ることができるコースとなる。しかし、導入したほとんどの大学では、このコースへの進学者がほとんどいないという現実に直面していると聞き及んでいた。入学後5年目の時点で、同級生の進路から外れて大学院に進むことに、学生はかなりの抵抗感を感じるようだ。すなわち、皆が先に医者になっていくのに自分だけが取り残されるという疎外感が、大学院進学を阻む大きな要因になる様である。

   

研究者志向AO入試
 それでは、入試で初めからこのコースに進学する学生を採ることにより、この制度の弱点を克服しようとMD-PhDコースに併せて創設したのが研究者志向AO入試である。しかし、高校3年生、18歳の時点で、入学後、最短でも9年間を要するコースに興味を抱く学生がはたしているのかが疑問であった。また、将来研究医を目指す資質を持つ学生をどのようにリクルートするのかも問題であった。そこで、科学オリンピックをAO入試の選抜に利用することを考えた。科学オリンピックは科学技術振興機構(略称JST)が主宰している国際科学技術コンテストであり、日本数学オリンピック、化学グランプリ、日本生物学オリンピック、物理チャレンジ、日本情報オリンピック、日本地学オリンピックの6種類がある。これらのオリンピックの成績優秀者は国際大会に出場できることもあり、応募者も多く、一次試験の合格はかなりの難関である。また、試験は単に知識を問うだけでなく、実験などの実践力も問われる。科学オリンピックにチャレンジする高校生は、研究志向が高いであろうと考え、その一次試験合格者にAO試験の受験資格を与えた。科学オリンピックの成績優秀者をAO入試などで優遇する入試制度は30近い大学で行われているが、そのほとんどは理学部、工学部志望者が対象である。医学部医学科で科学オリンピックを入試の募集要件に採用している大学は、現在のところ、広島大学以外にはない。入試では、面接・小論文で研究者・医師としての資質を評価する。さらにセンター試験を課して8割以上を取れれば合格となる。
 対象者があまりにも絞られる入試であるので受験者数が集まるかが懸念されていたが、予想通り、定員3名に対し10名以上の志願者が集まったことはない。そこで、今年度入試からは、「科学研究に関する活動を積極的かつ継続的に行い、その成果や活動を客観的に示すことができる者」という項目を受験資格に増やし、科学コンテストなどで優秀な成績を上げた高校生にも門戸を広げ、定員も5名に増やした。今後多くの受験生にこの入試に興味を持ってもらい、質の高い入試が行われていくことを期待している。

本制度の問題点
 一般の学生に比べて最短でも9年間の学生生活を送ることになるので、学費や生活費を補助する制度整備が必要である。ティーチング・アシスタントやリサーチ・アシスタントの制度を活用して大学院生活を補助する制度を用意しているが十分とは言えない。また、このコースの卒業者が狙い通り基礎・臨床に関わらず、研究を生業とするキャリアを積んでいくのかは全く未知数である。学位を取得してからも継続して研究に取り組めるような環境作りが重要であると思われる。将来、このコースの出身者から稀代の研究者が輩出されることを切に希望するものである。
                                     (文責 酒井規雄)