*第28回*  (H27.3.31 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は島根大学での取り組みについてご紹介します。

島根大学医学部における研究医養成の取り組み
文責 :  島根大学医学部長 大谷 浩 先生
現状と基本的姿勢
 島根大学医学部においても、臨床研修制度による直接・間接の影響により、基礎医学系研究室で働いている医学部出身者(以下研究医)が減少する方向の圧力がかかっている状況は、他大学と同様である。一方、旧島根医大時代から「研究医」(本学の場合、教授以外は多くは本学出身者)は、決して多くは無かった。そのためもあり、全国的に研究医の減少傾向が叫ばれるようになってからも、割合から言えば必ずしも減少している訳ではなく、臨床系教室から移籍・配置換えするケースも含めて解剖学、病理学、法医学など基礎医学講座にも一定数の卒業生が在籍している。また本質的には、研究医のみならず医師はすべからく研究マインドを持って日々の現場に臨み、生涯学び続けるべきである、基礎と臨床は連続した相互補完的な関係にあるべき、という基本姿勢を崩していない。したがって、研究医(基本的に基礎医学研究者)に直結するような一部の学生対象の特別コースを設けるなどの枠組みはあえて明確にせず、いわゆる「地域枠」関連の学生も含めて全ての学生に対して、研究マインドの醸成を促す、また将来、基礎系・臨床系を問わず研究を目指す機会があった場合の基礎力を養成し、研究に向かう場を提供することを意図して、以下のような様々な仕掛けを講じている。

講座配属と自由単位「医学研究の基礎」
 医学科の全学生を対象に(3年次編入生はカリキュラムの制約から除く)、3年次後期に2カ月間講座等配属を行い、全基礎・臨床系講座等が研究内容を15分から30分程度スライド紹介した後、学生の希望を調整して、前・後半1カ月で基礎と臨床の各1教室、または期間中通して同一教室に配属する。限られた期間であり研究に「触れる」程度にとどまるが、一端を知る機会にはなっている。さらに「研究をしたい」「研究に関心がある」という、より積極的な学生なら、誰でも、また忙しい医学科のカリキュラムの中でどの段階でも研究を経験できるよう、平成25年度から「医学研究の基礎」として自由単位を設けた。対象学年に制約は無く、講座等に通算1年以上所属して、かつ120時間以上の研究時間を持ち、学内外の学会・セミナー等・誌上での発表や特許申請により研究活動の結果公表を確認することを単位認定の要件としている。現在10名程度の学生が在籍し、すでに2名は発表段階を終え(1名は本稿と並行して本ホームページに掲載される兼田稜君)、うち1名は外国での発表で賞を受けて、さらに2名とも研究を継続している。始めて間もないこともあり登録人数はまだ多くないが、問い合わせする予備軍的な学生は増えてきている。

学内の研究の紹介、認知の推進
 1年次の医学概論の中で、年により3から5コマ程度を使って、本学での、あるいは本学卒業生による実例を中心に医学研究の紹介をし、上記自由単位「研究の基礎」について案内している。また25年から、学内の全ての講座等での研究を、学内の2か所において1カ月交代で1回に3,4講座分ポスター形式で紹介している。内容的には、1か所は基本的に大学院生以上対象(図1)、もう1か所は学部学生対象としているが、前者も臨床実習中の5,6年の学生の休憩スペースに掲示しており、学部内の研究に触れる機会を提供している。掲示内容のうち、記録に残せるものについては、学内限定で簡単な冊子にまとめて各教室に配布している。これと連動して、学部内の若手研究者交流会を若手研究者が自主的に運営開催し、互いの研究の認知と情報交換をしている。本学研究科の博士課程院生は基本的に本学卒業生であり、彼らを含む若手研究者間の連携の場として機能し始めている。共同研究が企画される場合、学部で研究費補助する予定だが、まだその段階には至っていない。
   
   図1 学内ポスターの大学院生、教員による討論の様子

6年一貫医学英語教育と海外研修の奨励
 基礎研究、臨床研究とも、英語力が問われることは明らかであり、これが日本の研究の国際的地位の向上を阻む一大要因となっていることは多年にわたり指摘されている。一方、臨床現場においても、日々刷新される世界の医学・医療情報にためらいなくアクセスできることは、今後日本の医師が世界レベルで「質保証」されるために極めて重要である。そのような観点から、島根大学医学部では、6年一貫の「医学英語教育高度化プログラム」を設定している。このうち、25年度からアドバンスト・イングリッシュスキルコース(図2)を開設して、以下に述べる3海外研修科目を含む全11科目を自由に選択して、120時間以上履修した学生には同コースの修了認定証を授与することとして、既に1名が授与されている。海外研修を独立した自由単位として認め、学部が費用補助する海外研修A(低学年用),海外研修B(高学年用)、ならびに学生が自主的・主体的に行う海外研修C(全学年)の3種類を設けて、高学年では臨床分野のみならず基礎分野においても研修を奨励している。学年により研修内容は異なり、40時間以上を要件とするが、3,4週間のプログラムのものが多い。現在Aは看護学生を含めて20-30名、BとCはそれぞれ10名程度が参加しているが、希望者は増加しており、26年度から6年次の臨床実習の方式を変え、1クール4週間を選択として海外も可としたため、BとCは今後増加するものと予想される。また臨床・基礎を問わない基本的な英語力、世界の情報へのアクセス力を養うため、英語学習支援室「eクリニック」(Facebookページ:島根大学医学部 英語学習支援室 eクリニック)を25年度から開設し、多様な仕掛けで学生の自律的な英語学習を促進している。利用者のべ人数は、25年度は3124名、26年度は支援室が入っている講義棟改修のため後期は仮部屋に退避中にもかかわらず3335名(12月末時点)と順調に増加している。
   
  図2 アドバンスト・イングリッシュスキルコース 

博士課程の多様なコース設定による「研究」へのいざない
 本学研究科博士課程の医学科出身者のほとんどが、本学卒業生である。研究医が減少している直接的原因の一つに、卒業生の専門医志向およびそれと裏腹な博士学位取得離れが挙げられる。それは間違いないが、それは博士課程に進むことが専門医取得とは方向性の異なる労力と時間を要すると認識されているからである。アンケートを取ると、本学でも半数近くの研修医が研究に関心を持っていることが分かった。であれば専門医取得のエフォートと博士学位取得のエフォートを同方向にすべき、と博士課程の中に、従来の「研究者育成コース」に加えて「高度臨床医育成コース」を設置した。臨床教室におけるセミナー、講演会、抄読会、医療統計などの実習など、臨床教室において専門医取得のみならず研究とも直結して行われる知識、技能、倫理などの「教育」を博士課程における教育の一環として位置付けた。また最終の学位論文の条件として「研究者育成コース」では、IF・査読付き欧文雑誌掲載論文という原則があるのに対して、「高度臨床医育成コース」では、査読付き国内学会機関誌、学内欧文誌でも可とした(実際の履修者のほとんどは研究者育成コースの基準を満たす学位論文を提出している)。このように院生の履修と教員の負担を軽減し、とにかくまず「研究」を経験する卒業生を増やすことを目指した。その後、がんプロなどGP獲得にあわせて、それぞれの要件に合ったコースを併設してきた。定員30名の充足率は、このような対策を始めた18年度以降、それ以前の60-70%から増加して93-133%で推移している。

 このように、島根大学医学部では、全ての学生、全ての卒業生が、誰でもいつからでも「研究」を目指すことを支援する体制を強化し、その結果として「研究医」を確保していくことを基本方針として進めている。