*第32回*  (H27.11.26 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は鳥取大学での取り組みについてご紹介します。

鳥取大学医学部における研究医養成の取り組み
文責 :  鳥取大学医学部・医学科長 河合 康明 先生

【大学の基本方針】
 鳥取大学は、「知と実践の融合」を基本理念とし、3つの目標として、①社会の中核となり得る教養豊かな人材の育成 、②地球規模及び社会的課題の解決に向けた先端的研究の推進 、③国際・地域社会への貢献及び地域との融合を掲げている。
 鳥取大学医学部は、「生命の尊厳を重んじるとともに創造性に富む医療人や生命科学者を養成する」を理念とし、医学科の教育目標に、「高い倫理観と豊な人間性を備え、地域特性に合わせた医療の実践や最先端の医学を創造できる医師を養成する」と設定している。こうした理念・目標を達成するため、学位(学士)授与者が身につけるべき能力や特性(ディプローマポリシー)の一つとして、「論理的思考力、高度な判断力、コミュニケーション能力を身につけ、他者と協力・共同して医療・研究を行う能力」を掲げている。そして、こうした学位授与の方針を達成するために、カリキュラムポリシーの一項目に、「研究体験、先端医学講義、及び英語論文抄読などにより、リサーチマインドを涵養します」と述べている。
 鳥取大学医学部医学科では、一部の学生を対象とした特別コース(MD-PhDコースなど)の設定は行っていないが、全ての学生にリサーチマインドを涵養するべく、1年次には「実践情報チュートリアル」、「実験動物学」、2年次には「基礎医学セミナー」、「基礎医学実習」、3年次には「応用英語」、「研究室配属」、4年次には「社会医学チュートリアル・実習」など多数の授業を設けている。

【研究室配属】
 リサーチマインドを涵養することを目的としたプログラムの中心は、3年次学生を対象とした研究室配属である。2014年度の実績について述べると、27研究室(臨床教室10を含む)から29プログラムが提案され、各学生はその中から1つのプログラムを選択し、履修する(選択必修)。週4日、終日、4週間の期間が設けられている。週のうち1日(月曜日)は、全学共通教育を楔形に配置しているため、配属から離れて学習する。配属の時期は前期の最後、すなわち夏季休業前の時期が割り振られている。

 提案されたプログラムは、①分子生物学・遺伝子解析、②生化学的実験、③生理学的実験、④病理学・免疫組織学的実験、⑤動物実験、⑥フィールドワーク、⑦症例検討会・抄読会参加、⑧医療現場体験、⑨シミュレーション体験、⑩英語論文の読み方、など多彩な内容が用意されている。学生に対して、予めこうした内容を提示した上で、配属先の希望を調査し、決定する仕組みになっている。

 この授業を通して身につけるべき能力として、以下の項目を行動目標として設定している。(シラバス参照)①自ら実験の準備・計画を行うことができる。②生体現象を観察し、実験データを収集することができる。③得られたデータを解析し、レポートを作成することができる。④実験成果を発表することができる。⑤チームの仲間と協力して問題解決ができる。また、行動目標としては設定されていないが、論理的な思考力の養成、英語力の向上、論文の読み方・書き方の習得などを重要な成果と考えている。

 評価は形成的評価が中心であるが、授業終了後には出席・授業態度、レポート、プレゼンテーションの結果をもとに総括的評価を行っている。すべての学生が一堂に会する成果発表会は行っていない。また、各教室単位のレポート提出は行っていても、全てをまとめた成果集は作成していない。

 この授業に対する学生の反応は、個人差が大きい。きわめて熱心に取り組む学生がいる一方、息抜きの時間と捉えている学生も少なからずいる。熱心な学生の中には、この授業が終了した後も配属先の教室に通い、研究を続け、学会発表や論文作成に至る学生も見受けられる。学部在学中に、英文のファーストオーサーとして、ピアレビュー誌に数編投稿し受理された学生もいた。それとは対照的に、配属中に姿が見えなくなると、こっそり試験勉強をしている学生もいるようである。

 現在、今後の研究室配属のあり方について、検討が行われている。検討課題は、①実施時期は低学年の方が良いのではないか、②配属期間をもっと長くすべきではないか、③この授業に対する学生のモチベーションを上げるにはどうしたらよいか、④配属期間の終了後に、学生が配属先に通えるシステムを構築できないか、⑤学生全体で行う成果発表会や成果集の刊行が必要ではないか、などである。現在取り組んでいる医学教育改革の方針の一つとして、アクティブラーニングを重視している。研究室配属の充実は、その流れに沿った改革であり、鳥取大学医学部にとって大切な課題である。

【研究室配属中の学生達】    
 
  病態運動学分野  腎泌尿器学分野  環境予防学分野  医動物学分野 


【研究医の基礎的能力養成】

 研究医に必要な基礎的能力として、語学力、情報収集力、論理的思考力、データ分析力、コミュニケーション力、気力、行動力を重視しており、こうした能力を養成するために、「実践情報チュートリアル」、「実験動物学」、「基礎医学セミナー」、「基礎医学実習」、「応用英語」、「社会医学チュートリアル・実習」などの授業を設けている。これらの授業は、1~4年次にかけて楔形に配置されており、学生が継続的に学ぶ機会が用意されている。

【現状と課題】
 取組の評価をデータとして示すことは困難であるが、一つの指標として大学院への進学率、大学院の充足率を挙げることができる。鳥取大学大学院医学系研究科・医学専攻の定員(30名)に対する充足率は、過去5年間の平均が109%であり、この面では目標を達成している。一方、他大学あるいは他病院で卒後研修を行った卒業生の動向を十分に把握できていないため、鳥取大学医学部医学科卒業生の大学院進学率は不明である。大学院進学率・充足率以外に、研究論文数、学会発表数、科研費申請率・採択率などが参考になると考えられるので、こうしたデータの近年の変動を調査・分析し、今後の教育改革の参考に資する所存である。
 大学院充足率100%を維持しているとはいえ、大学院入学者の実数は、近年減少している(定員を削減したため)。研修医制度の変更後、鳥取大学医学部附属病院あるいは鳥取県内の病院で研修する卒業生の実数が、大きく減少したことが影響を及ぼしている。本院に所属する研修医、大学院生、医員の絶対数が少ないことが、研究アクティビティーの低下に影を落としていることは否定しえない。こうした状況下で、リサーチマインドを涵養する医学教育を充実するためには、どのような取り組みを行うべきか熟慮が必要であると感じている。