*第34回*  (H28.3.31 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は弘前大学での取り組みについてご紹介します。

弘前大学医学部医学科における研究医養成の取り組み
文責 :  弘前大学医学部医学科 学務委員長  鬼島 宏 先生

学生のうちから研究への志向を高めるための取り組みとして、弘前大学医学部医学科では1年次の「基礎人体科学演習」、3年次の「研究室研修」、6年次の「クリニカルクラークシップでの講座配属」を行っている。
 「基礎人体科学演習」は1年次の前・後期に配置され、前・後期ともに30コマからなる。例えば、前期では10コマを全体講義と試験にあて、残り20コマでは学生は基礎医学講座に配属される。後期も同様のやり方で進めるので、学生は1年間に2つの基礎医学講座を経験することになる。講座配属では1グループ8名が一つの講座に配属され、「Human Biology」(Chiras著)を英文テキストとして用い、その内容を理解させた上で各自が分担を決め、パワーポイントによる発表を実施している。それに加え、基礎医学講座の実験室の見学や、医学研究者との対話を通じて、各講座で行われている研究に触れることで、医学・医療における研究の目的や意義を理解することになる。
 「研究室研修」は3年次後期(旧カリキュラムでは4年次前期)に配置され、4か月間にわたり毎週水、木、金曜日の午後に実施している。基本的には1ないし2名の学生が1つのテーマ(指導教員)のもとで研修を行う。基礎医学講座だけでなく、臨床医学講座の多くが研究室研修を担当している。到達目標として、①必要な文献を検索、入手することができる。②英文論文を読み、その内容を理解、要約できる。③パワーポイントを用いた発表を行い、質問に答えることができる。④論文形式のレポートを作成できる、の4点を掲げている。また、学生に対する「研究倫理教育」も内容に含めている。マンツーマン形式での指導を行っているので、多くの学生はすぐに研究室の雰囲気に溶け込み、研究の実際を体験することとなる。さらに、研修の最後にはすべての学生を対象に「研究室研修発表会」を行っている。学生一人あたりの持ち時間を8分(発表5分、質疑応答3分)とし、各発表につき3名の教員が審査を行う(各教員は約10名の学生の審査を行う)。審査は、①パワーポイントの内容(30点)、②口演の態度(30点)、③質問に対する答え方(30点)について評価し、各教員は10演題の中から印象に残った発表を3つ選ぶ(ボーナス点を10点加算)という方法で行い、上位3名に優秀発表賞を贈呈している。平成26年度から英語による発表を推奨し、英語による発表演題数は年々増加している。平成28年度には医学英語と連動させ、全員が英語による発表を行うことが決定している。さらに、発表会の後に論文形式のレポートを課している。研究室研修での研究内容を学生自身が学会で発表する件数も増加している。最近、ある4年次の学生は研究室研修での研究内容を日本受精着床学会総会学術講演会で一般会員に混じって発表し、世界体外受精会議記念賞を受賞した。また、研究室研修がきっかけとなり、その後も研究室に出入りし、卒業までに英文原著論文を完成させた学生もいるなど、この研究室研修がリサーチマインドの育成に果たしている役割は大きい。
 6年次の「クリニカルクラークシップ」(4~10月の24週)のうち4~7月の16週間は附属病院の各診療科または学外関連教育病院での実習を行っているが、9~10月の8週間は臨床および基礎医学講座での教室配属としている。したがって、興味のある学生はこの2ヶ月間に研究に取り組むことが可能である。
 加えて、弘前大学全体の取り組みとして、「学生表彰」が設けられている。学長が、研究・課外活動等で顕著な実績をあげた学生を表彰する制度である。上記の授業等をきっかけに、特定の研究室に出入りするようになった学生は、研究成果を学会で発表し、論文作成まで行ってくれる。そのような学生の中から、英文論文の筆頭著者になるなど、秀でた研究成果を上げた学生が、指導教授の推薦で被表彰候補者となる。近年は、若干名の学生が、学生表彰の対象となり、彼らの向上心を大いに刺激している。
 これまで述べてきたように、弘前大学医学部医学科では、主に1年次、3年次、6年次の3段階で研究への志向を高めるための取り組みを行っている。実際に学生に接していると、研究手技の修得、向上よりも、学生自らが興味を持ち、自発的に研究を進める喜びを感じることがいかに重要なことであるかを感じる。最終的には研究というものを通して人間関係を構築することなのだろうと思う。今後は他大学と連携し、短期間であっても研究留学が可能になればよいと思っている。

 なお、弘前大学大学院医学研究科では平成19年度から、指導教授が許可した場合には臨床研修の2年目から大学院入学を認めている。また、一定の条件を満たした大学院生には1年または6カ月の修業年限短縮制度がある。よって、医学科を卒業後、最短4年で学位の取得が可能である。

 医学部医学科を卒業した者のうち将来、研究に専念できる者は少数かもしれない。しかし、人生のある時期、研究に没頭できることは、臨床医としての技量を伸ばすことにも通ずると思う。平成29年度からは、新専門医制度が導入されて、医師免許を取得した大部分の者は専攻医として専門医を目指すことになる。その新専門医制度における必須項目に、リサーチマインドの育成が挙げられている。これは、臨床医学の第一線に従事する専門医といえども、科学的思考や態度をもって医療・医学の進歩に貢献すべしという意図があると思われる。私自身は、昭和59年に医学科を卒業して、すぐに大学院に進学し病理学を専攻した。大学院の4年間は、その後の2年半の米国留学と並んで、十分に研究に従事することができた時期であり、自らの病態病理学的思考の礎が築かれたと貴重な時間であった。当時も今も、病理学講座には、内科・外科をはじめとして臨床各科の大学院生が数多く在籍しており、異口同音に「一定の期間、研究に従事することで、リサーチマインドが芽生え、それが医師としての科学的思考の必須である」と、述べている。
 基礎医学領域のみならず、臨床医学領域においても、医療・医学の発展の大きな担い手である研究医育成で重要なことは、学部学生を含む若い世代におけるリサーチマインドの育成にあると信じている。リサーチマインドが十分に備わった医師は、自ずと「医療/医学」のバランスを認識し、後輩の育成にも力を注いでくれる。リサーチマインドを有する医師の育成は、医療・医学の発展のポジティブ・フィードバックループを形成してゆくはずである。

     
  研究室研修での実習風景 研究室研修発表会にて
   
  優秀発表賞の受賞式にて(後列4名が学生)
 
  全国学会で発表(中央2名が学生) 学生表彰の授賞式にて
(前列右の学生が顕著な研究成果により、
中央の学長より表彰)