*第38回*  (H28.12.22 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は高知大学での取り組みについてご紹介します。

高知大学における研究医養成の取り組み『先端医療学コース』について
文責 :  高知大学医学部長  本家 孝一 先生

 研究は、将来の学術に対する投資です。医学生が在学中に習得する知識や技術は過去の遺物です。知識量は年々指数関数的に増加していますので、医師は過去の知識を追うだけでは自分を見失ってしまいます。未来の高度医療に対処できる能力を身につけなければなりません。この能力を養うことができるのが研究体験だと思います。

先端医療学推進センター
 近年導入された国立大学法人化、大学医学部教育の標準化、臨床研修制度の余波を受けて、附属病院は収益性の高い診療に追われ、医学部は医療専門学校化し、大学本来の使命である研究から疎遠になりつつあります。このままでは、まず基礎医学研究が廃れ、つづいて臨床医学研究が滅び、ついには医学教育も崩壊するでしょう。この流れを止めるために、高知大学医学部の研究活動拠点として『先端医療学推進センター』を平成21年9月に設置しました。
 先端医療学推進センターの理念は、1)知的好奇心と精気に満ちた医学アカデミアにおける真理の探究、2)臨床と基礎が一丸となった最先端医療研究、3)主体性とリサーチマインドを持った医師・医学者の育成です。この理念のもとに、高知大学オリジナルの基礎研究成果に基づいたトランスレーショナルリサーチを展開して、世界と地域に貢献する革新的医療を創生することを使命としています。

 先端医療学推進センターは、独創的医療部門、再生医療部門、情報医療部門、社会連携部門、臨床試験部門の5部門でスタートしましたが、平成23年度後期から先端医工学部門が新たに加わりました。医薬品に劣らず医療機器の開発も重要であるからです。各部門の下にプロジェクトユニットとして研究班を配していますが、これは研究の進展や社会ニーズの趨勢に合わせて流動的に変化していきます。センターでは、組織横断的に基礎研究者と臨床医が連携し、マンパワーと研究資金を集約して医療学系プロジェクト研究を推進しています。先端医療学推進センターは病院再開発とも連携しており、改修後の病院内には先端医療学推進センターの研究室が整備される予定です。


先端医療学コース
 生物医薬やゲノム情報を利用したオーダーメード医療など、近年の高度医療の進歩は日進月歩です。このため、医学部学生は在学中に既知の知識を詰め込むのではなく、未来の高度医療に対処できる能力を獲得することが求められます。先端医療学推進センターは、医学科学生のための教育プログラム『先端医療学コース』を提供しています。先端医療学コースでは、医学研究に必要な科学原理を学び、最先端医療開発現場での実践研究を通して課題探求能力を磨き、主体性とリサーチマインドを涵養することを目的としています。
 先端医療学推進センターにおいて、学生と教員が一体となったオープンな研究環境をつくることにより、高知大学医学部の研究が活性化されることを期待しています。先端医療開発研究の現場を体験した学生は、座学では得ることのできない、臨床医学実習でも味わうことのできないアカデミアの雰囲気に触れ、基礎医学と臨床医学との垣根や、学問分野間あるいは診療科間の壁をあまり意識しなくなり、医療に対する見方や取り組み方も主体的で柔軟なものに変わってくることが期待されます。
 医学科学生は、2年生への進級時に専門科目の課題探求科目(選択必修)として、PBLコースか先端医療学コースのいずれかを選択します。先端医療学コース履修者は、2年生から4年生の3年間、先端医療学推進センター内のいずれかの研究班に所属して特定の課題について研究を行い、大学院修士課程医科学専攻修了者と同等の研究遂行能力の獲得を目指します。先端医療学推進センターには様々な研究分野の班がありますので、研究方法は専門分野により異なりますが、実際の最先端医療開発研究現場でアクティブラーニングを行います。異年次の学生が一緒に研究を行います。正規のカリキュラムでは週に二日が割り当てられていますが、研究をするにはこれだけでは足りませんので、放課後や休日にも実験をしなければならないこともあります。学生の負担は増えますが、目に見える研究成果以上の達成感や現場で培った自信を得ることができます。
 先端医療学コースは、平成23年度から導入され、今年度が5年目になります。学年あたり20余名の学生が果敢に挑戦しています。この中には、全国学会で発表し賞を受けた学生や英文雑誌に共著者として名を連ねた学生まで現れました。先端医療学コースは創造性を育み個性を磨くプログラムです。将来地域医療を目指す学生諸君にとっても科学的思考能力は不可欠であり、先端医療学コースはこれを身につける絶好の機会です。
 優秀な学生には、先端医療学推進センターの産みの親である相良祐輔前学長の名を冠した『相良賞』を授与して顕彰しています。相良賞には金賞と銀賞があります。金賞は、4年生修了時に、三年間を通して卓越した研究成果をあげた学生に授与されます。銀賞は、各学年において一年間で目覚ましい研究成果をあげた学生に授与されます。授賞者は、書類審査とプレゼンテーションからなる厳正な審査により選ばれます。
 近い将来、大学院総合人間自然科学研究科医学専攻(博士課程)にMD/PhDコースを開設し、医学部先端医療学コース修了者を受け入れる準備を進めています。

   

[ 先端医療学推進センターのURL: http://www.kochi-ms.ac.jp/~citm/index.htm ]