*第59回*  (2020.8.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
研究医養成情報コーナートップページへ戻る
今回は奈良県立医科大学での取り組みについてご紹介します。

奈良県立医科大学『研究医養成コース』について
文責 :   奈良県立医科大学 研究開発センター 若月 幸平 准教授

【本学の研究医養成コースの概要】
 医師免許を持つ基礎医学研究者の減少などに対応するため、文部科学省は「研究医枠」による学生定員増制度を平成 22 年度に開始しました。研究医養成の拠点を形成するために、複数の大学との連携をもとに、一貫したカリキュラムを作成した大学に対し設置が認可されています。本学では、平成23年12月に文部科学省から「奈良県立医科大学・早稲田大学 基礎医学・社会医学系研究医養成コース」(以下、「研究医養成コース」)の認可を得て、基礎医学・社会医学の将来を担う人材養成を目的とし、平成24年度から本コースを設置しました。初年度には2名の一期生が入学いたしました。コースの受講者は、早稲田大学からの編入生と学内募集で構成され、第2学年4月1日よりコースが開始されます。当初、平成31年度までの時限でしたが、現在もコースの応募期間を延長し研究医養成のために学生を選抜、育成しています。本コースの責任者は医学部長、コーディネーターは教育開発センター専任教員となっています。

【本学の研究医養成コースの特色】

①早稲田大学と本学との強固な連携のもとに作成されたカリキュラムが認可されていることから、本コースの学生は早稲田大学からの選抜者と本学からの希望者となっています。早稲田大学からの学生については、早稲田大学先進理工学部で所定科目の単位を取得した基礎医学・社会医学系の研究医志望者に対して、本学が第2年次編入学試験を実施しています。コース開始当初は2名でしたが現在は1名を選抜しています。本学からの希望者に対しては人数の制限はありません。

②関西医科大学との連携によって、基礎医学・社会医学系分野での教育や研究指導を受けることが可能であり、領域や将来の進路についての幅が広がります。
③研究医養成コースの学生は、本学が規定した「研究医養成コース」カリキュラムを受講しなければなりませんが、一方で卒業までの間奨学金が貸与されます。本学研究医養成コースで学んだ学生は本学卒業後、医師免許を取得し、臨床研修を終えた後、本学または連携校の大学院医学研究科博士課程に入学し、3年間での学位早期取得を目指します。大学院修了後、基礎医学・社会医学系教室の教員として一定期間、研究に従事することで奨学金の返済が免除されます。


【本学の研究医養成コースのカリキュラム】

 研究医養成コースは、早稲田大学からの編入生と本学希望者に対して、第2学年4月1日から開始されます。コース受講者は、一般学生とほぼ同じカリキュラムを履修しますが、一部、一般学生のプログラムに代えて研究医養成コースのための特別プログラムを履修します。

1)研究医メンター実習

第2学年から卒業まで、希望する基礎医学・社会医学系分野の研究室で、授業時間外や夏期休暇時などの間、メンターとなる担当教授から1対1で基礎医学・社会医学系の研究医としての教育を受けます。積極的に研究にも参加し、research mindを培っていきます。さらには学術論文執筆のトレーニングも受けます。

2)英会話力と英語論文作成能力の向上

本学の英会話コースを必修科目とし、将来グローバルに研究医として活躍できるよう英会話力を身につけます。また英語医学論文作成については早稲田大学のAcademic writing programを受講し、英語のwritingの基礎を学び、英語の論文の読解や執筆に対応できるようにします。

3)リサーチクラークシップは、第2学年の約3ヶ月間、学内外の施設で学生自らが直接専門領域の研究内容や実験を経験することによりresearch mindを培うことを目的として、研究室に配属され各教員から指導を受け研究を行っています。学外の国内施設としては、岩手医科大学、福島県立医科大学、早稲田大学、慶應義塾大学、理化学研究所、国際医療福祉大学、日本医科大学、金沢大学、京都大学、同志社大学、大阪大学、近畿大学、神戸大学、奈良先端技術大学、川崎医科大学などの施設と提携しています。また、学外の海外施設としては、米国、カナダ、イタリア、シンガポール、香港などの施設と提携しています。さらに、リサーチクラークシップの最後に行われる研究成果発表会では研究結果をポスター形式で発表しています。

4)特別プログラム

(1)第3学年、第4学年、第6学年での研究室配属

本学、または連携校である関西医科大学の基礎医学・社会医学系研究室または早稲田大学先進理工学研究科研究室で実習を行います。

(2)第6学年キャリアパスメンター実習

本学、または連携校である関西医科大学の基礎医学・社会医学系または早稲田大学先進理工学研究科研究室の教授から実習の直接指導を受けます。

(3)本学と早稲田大学とのコンソーシアム実習

本学と早稲田大学が共同開催する医学研究に関連したコンソーシアム実習プログラムに参加します。

このように本学の研究医養成コースでは、医師免許を取得すると同時に研究医を目指すための充実したカリキュラム内容となっています。


【実施状況と成果】

 研究医養成コース開始から現在までコース受講者は22名にのぼり、そのうち辞退者は2名のみで他の受講者は順調に研究医の道を歩んでいます。20名の受講者のうち、早稲田大学からの編入は11名、本学学内の受講者は9名となっています。在学生はクラブ活動などの大学生活を満喫しながらも、自分に興味がある研究分野として免疫学、生理学、微生物学、分子病理学、解剖学、公衆衛生学と様々な研究室に所属し、メンターとなる担当教員から指導を受けながら授業の傍ら研究を行っています。中には学生時に論文を完成させる受講生もいます。卒業生15名はすべて無事に医師国家試験に合格しており、優秀な成績を収めています。ほとんどの学生は医師国家試験合格後、初期臨床研修医として臨床研修病院に就職しています。

 卒業生の現在の進路は、初期研修医が9名(本学付属病院6名、他施設3名)、大学院生4名(本学3名、早稲田大学1名)、大学院卒業生が2名(いずれも本学)となっています。大学院卒業生2名は、現在、本学の公衆衛生学講座に所属し、基礎研究に従事しています。他の大学院生や初期研修医は、本学の病原体・感染防御医学講座や病理診断学講座、血栓止血先端医学講座、免疫学講座や早稲田大学の基礎研究講座などの所属を考えています。また、本学の基礎医学講座に所属しながら国立感染症研究所への国内留学をしている受講生もいます。

 運営面では、本コースの円滑な運営を図るため、研究医養成コース運営委員会を設けており、早稲田大学、関西医科大学の先生方にも役員として加入していただき、年に数回の意見交換や議題についての審議を行っています。また、教育開発センターの専任教員、基礎医学教育部長、教育開発センターおよび教育支援課の担当事務により定期的にコース受講者(在学生および臨床研修医)を対象に面談を行っています。面談内容は進路相談や近況報告などとなっており、受講者の不安解消や進路決定をサポートしています。教育支援課では、研究養成コースに係る連携大学間の連絡・調整に関すること、研究医養成コースの学生選抜に関すること、修学資金貸与者の卒前教育および卒後教育のキャリア支援に関することの所掌事務を行っています。


【今後の展望・課題】

 今後も、本学の研究医養成コースは、早稲田大学、関西医科大学、その他の大学と協力しながら基礎医学研究者を育成し、日本または世界中で活躍する本学出身の研究者を増やしていくことが使命であると考えています。学生の研究に対するモチベーションをいかに維持させるかが大切であり、今後もメンター実習で指導頂いている各基礎医学講座の先生方の多大な協力が必要と考えます。また、研究医が魅力あるものでなければならず、充実した研究が行えることはもちろんのこと、生活に必要な収入を得ることも大切です。不安定な収入とのイメージから研究医の将来に不安を持ち、臨床医を希望する受講者が少なからずいることから、できる限り経済的に不安のない環境を整備する必要があります。そのために奈良県立医科大学では、大学院在学中または卒業後に研究助教と呼ばれる、助教と同等の給与が支払われる制度を整え、安心して研究が行えるように準備をしています。

奈良県立医科大学「研究医養成コース」 : http://www.naramed-u.ac.jp/~kaihatsu/index5.html