*第61回*  (2020.12.25 UP) 前回までの掲載はこちらから
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今回は大阪医科大学での取り組みについてご紹介します。

大阪医科大学医学部における研究医養成の取り組みの紹介
文責 :   大阪医科大学医学教育センター
寺﨑 文生 副センター長
中野 隆史 副センター長
■はじめに
 大阪医科大学では、研究医を志望する学生を育成するために、また、リサーチマインドを涵養する機会を増やすために、これまで、(1) 研究医枠学生の募集、(2) 学生研究員制度、(3) 5年生における基礎医学系学習(basic medical learning: BML)配属、(4) 6年間縦断統合型の新たな「学生研究」カリキュラムの導入など、入学試験や教育プログラムの整備において様々な取り組みを積極的に実施しています。本稿では、それらについてご紹介致します。


■研究医枠

目的
 基礎系医学研究を発展させると共に、良質の臨床医を支える基礎医学系及び社会医学系教室の人材育成を目的として、2015(平成27)年度から2019(平成31)年度までの5年間、各年度2名の研究医枠入試制度を設けて実施した。本学の基礎医学及び社会医学系教室の教員として研究活動を継続する意志のある医学部学生に対し、本学医学部の学費の一部を減免することで、在学中の経済的負担を軽減して医学教育により専念できる環境を提供した。(大阪医科大学医学部研究医枠生規程)
入試出願条件:
 一般入学試験(前期)の出願資格を有し、研究医枠入学試験の目的を理解して将来本学において基礎・社会医学系教室での教育研究活動に従事し、かつ合格の上は入学を確約する者。
入学後のプログラム:
 「大阪医科大学医学部研究医枠生に関する細則」を定めており、研究医枠生は、通常のカリキュラムに加えて、細則に沿って下記のプログラムを履修する。
・第1学年在籍中9月から3月の間に、別表に定める教室(基礎医学系又は社会医学系教室)から所属教室を選択して配属される。
・第2学年在籍中に、大学院統合講義を受講する。
・大学院統合講義を受講し修得した単位については、大阪医科大学大学院医学研究科入学後に医学研究科において修得したものとして認定を受けることができる。
・研究成果に関する口頭発表を第4学年末に行う。また、研究成果に関する論文は第6学年末までに完成させ、研究支援センターが取り扱う。
研究医枠生の現状と成果:
 本制度を実施した5年間の実績を表1に示す。本制度を利用して入学した学生は合計6名で、その内2名が入学後に研究医枠を辞退して一般枠に変更を希望した。一方で、本制度を利用して一般枠から研究医枠に変更を希望した在学生が2名であった。現在、研究医枠の在学生は5名であり所属教室は、病理学、薬理学、生理学、解剖学であり、将来これらの教室の教員となり、研究を推進することが期待される。また、卒業した1名は継続して薬理学教室に所属しながら臨床研修を行っている。


表1 研究医枠制度の実績


■学生研究員制度
 1984(昭和59)年より開始され現在まで脈々と継続されている本制度は、希望する学生(学年を問わず)を基礎系あるいは臨床系教室の研究活動に参加させ、将来の進路を考える機会を与えるとともに、大学における学問の一端に直接触れる機会を提供することを目的としている。登録学生数は、2015(平成27 )年度は30 名、2016(平成28 )年度は15 名、2017(平成29)年度は23名、2018(平成30)年度は25名、2019(令和1)年度は33名であった。多くの学生が生化学、微生物学、法医学、薬理学、病理学、生理学、解剖学、麻酔学などの教室に所属して研究活動を行っている。そこでは各教室の最先端の研究に直接触れることができる。単位付きの必修カリキュラムではなく、自らの意思で自由に、長期間所属することが可能であり、より深い研究活動に参加することができる。
 本学HPに学生研究員制度(生理学教室、解剖学教室)の現状「学生研究最前線」が紹介されているので是非ご参照されたい。(https://www.osaka-med.ac.jp/research/02_student.html)(2020年6月12日閲覧)

■基礎医学系学習(BML)配属
 第5学年のBMLでは、全学生がいずれかの教室に2週間配属され研究活動を行い、科学的思考能力の涵養や自ら問題を発見し解決する方策を学ぶことを目標にしている。医学研究や医療の現場を直接体験することができ、講義や臨床実習のようにあらかじめ詳細に設定された形ではなく、学生が教員との相互交流を通じて、学習意欲を形作っていくカリキュラムである。医学に対する基本的な知識の習得に必要な積極的態度を身に着け、この配属で得た体験を卒業後の進路選択の一助として活かすことを目標とする。
 BMLは新カリキュラムにおいて、次に記述する「学生研究」に吸収されるため、2020(令和2)年度で終了となる。

■学生研究
 2017(平成29)年度より施行開始された新カリキュラムでは、6年間の学年縦断統合的なカリキュラムシリーズの主軸の一つとして「学生研究プログラム」が新設された(図1:カリキュラムマップ左端参照)。これは学生がリサーチマインドを醸成し、自ら課題を発見しそれを解決するという姿勢を身につけるとともに、医師として evidence-based medicine(EBM)を実践できる能力を涵養することを目的にしている。


図1  大阪医科大学 カリキュラムマップ 
 

 第1学年「学生研究1」では研究の前提として、医学・医療における研究の意義と重要性、医師としてのキャリアパスと研究活動との関係を学び、また、最先端の医学研究に触れることによってその意義や社会との関係などを自ら考察する。「学生研究プログラム」の中心部分は、第3学年の「学生研究2」(表2)において設定している学生研究コア期間(各教室等への配属期間)と第4学年の「学生研究3」(表3)におけるまとめと発表・報告会である。配属先として、大阪薬科大学や関西大学工学部など他大学や機関にも学生の受け入れを依頼して、研究分野の拡充を図っている。この期間において、各担当教員からの指導のもとに、実際に研究テーマの設定、研究計画の作成、研究の実施および成果のまとめと発表(可能であれば学会発表、報告書や論文作成を目指す)を学生自らが行うことでリサーチマインドの涵養を推進する教育カリキュラムになっている。また、第5学年、第6学年において、選択制の学生研究制度が設けられており、研究をより一層進める道が開かれている。

 これからの医療人には、想定外の事態に直面した際に、自ら考え行動するいわゆる「問題解決能力」が強く求められている。「学生研究プログラム」は科学的な視点を持つとともにアクティブラーニングの一環としても大変重要であり、本学の特徴の一つとなることが期待されている。


表2 学生研究2 

表3 学生研究3(2019年度の第3学年が第4学年になった2020年度) 

■おわりに-今後の展望-

 本学においては、既に豊富な実績のある「学生研究員制度」を継続していく。また、新カリキュラムとして開始した「学生研究プログラム」の成果を見極めながら、その改善と充実を図っていく。それらのことで、研究医を志望する学生の育成と、将来の医師として欠かすことのできないリサーチマインドの涵養を一層推進していく。
 さらに、大阪薬科大学と統合する2021年度からは、看護学部に加えて薬学部との協働、交流がより活性化されることで、研究の視野と分野がさらに拡がる。本学が目指すビジョン(図2)において掲げている「医薬看多職種連携教育」は本学の独自性を活かす重要な分野であり、この領域における「研究医療人育成推進プログラム(仮)」など、より広い視野での新たな構想や展開が期待できるかもしれない。

図2  大阪医科薬科大学(仮)の新ビジョン