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今回は大阪大学での取り組みについてご紹介します。

大阪大学医学研究者育成プロジェクト・「MD研究者育成プログラム」
       
文責:大阪大学医学部医学科教育センター特任助教・MD研究者育成プログラム専任教員
     河盛 段 先生
【はじめに】
 大学医学部は医師養成により現在の医療崩壊に対応するのはもちろんのこと、未来の医学・医療の発展に対する責務があり、このためにはより一層の基礎医学の振興が不可欠といえます。しかし近年、初期臨床研修義務化等の影響もあり医学部卒業者(Medical Doctor; MD)で基礎系大学院に進学し、基礎医学の研究・教育の道に進む者が大幅に減少している現状であります。すなわち、アカデミズムを追求する学問と教育の府である大学医学部において、医学研究者及び教育者を志す者が減少していることは、将来の医学・医療の発展にとって重大な問題となってくると考えられます。
 そこで、大阪大学医学部ではこれらの問題に対応し、基礎医学研究・教育のみならず医学界のリーダーとなる国際的な視野を有する研究者を育成するための教育カリキュラムとして、「MD研究者育成プログラム」を平成21年度より設置し、医学研究者育成に取り組んでおります。

【本プログラムの目的】

 本プログラムにおいては、世界をリードする研究能力と国際的視野を兼ね備えた医学研究者を養成することを目指し、医学部医学科の学生に対して入学後早期より基礎医学研究に参加する特別教育プログラムを実施しています。すなわち、学部学生の期間中に通常の医学部医学科教育カリキュラムと併行し基礎医学研究の基本的能力を習得させ、将来の医学研究に対する素地とすることを目的といたしました。さらに医学部卒業後は早期に基礎医学系博士課程大学院進学にて研究を続行することにより博士号学位取得を目指し、将来の医学研究者を養成するものであります。

【本プログラムの概要】
 本プログラムでは1年次前期にまず生命科学入門コース(選択制)を開講し、基礎医学系教室各教授の講義による基礎医学研究紹介を行っています。次いで1年次後期には、学生が聴講し興味を持った教室を一ヶ月単位で見学・体験する短期研究室体験を実施しています。2年次には1年間一つの教室に体験配属し、生命科学研究の基礎を体験・修得させるとともに、今後の基礎研究に対する動機、意欲を養います。
 2年次終了時に、3年次からの本プログラム参加学生(各学年10名程度)を選考します。選考された学生を希望する基礎医学系教室に配属させ、独自のプロジェクトをもって医学研究を開始させます。以降は教室での研究活動を通じ研究手法、論理的思考能力、プレゼンテーション能力などを教育します。また、医学英語教育を重視し、海外留学や国内外の学会での発表も奨励しています。プログラム参加学生が医学部卒業までに研究プロジェクトを修了し、論文作成、研究発表することを目標として研究活動を支援、推進します。

【MD研究者育成プログラム関西コンソーシアム】
 本プログラムでは、本学以外の大学との連携を目的に、大阪市立大学医学部、岡山大学医学部、徳島大学医学部と関西コンソーシアムを結成し、国内留学、共同研究、学生・教員の交流、合同発表会など包括的な医学研究教育推進を予定しています。今後、定期的な学生交流会、研究発表会を行うとともに、大学間協定の締結や研究の流動性の向上などに努めていく予定です。

【本プログラムの特徴など】
本プログラムの特徴:従来の医学科教育カリキュラムをそのまま受講し、その時間外を利用して基礎医学研究を実践するプログラムです。 
これまでのカリキュラムとの違い:これまでは医学部を卒業後まず臨床研修、その後本格的な研究生活に入るコースが一般的でしたが、この場合は研究開始時期が遅れ、研究への動機が充分に成熟しない懸念がありました。将来の医学研究者を目指す場合、学生時代から本格的な研究生活を体験し、研究者としての基本的能力を修得することの利点は大きいと考えられます。
開始時期:本プログラムは1年次より開始され、6年次終了までの6年一貫のプログラムです。1,2年次は希望者を対象とした研究紹介や基礎医学研究の体験実習であり、3年次以降は本格的な研究を開始する特別プログラムとなります。
参加施設:大阪大学医学部医学科・医学系研究科基礎医学系教室を中心に、微生物病研究所、生命機能研究科、免疫学フロンティア研究センターなどの研究施設がプログラムに則った学生研究教育に参画しています。 
選考基準:基礎医学研究における素養、2年次の基礎医学研究体験などプログラムにおける活動状況および面接により決定します。 
3年次以降の教育プログラム:特定の基礎医学教室または研究施設に所属し、研究手法、論理的思考能力、情報集能力、プレゼンテーションやディスカッション能力など、研究者としての基本的な能力を学習、習得させます。また、医学英語教育を重視し、学会発表や海外留学も積極的に奨励、補助しています。定期的に学内研究発表会を行うほか、他大学学生も含めた合同研究発表会を実施します。プログラム参加学生が卒業までに研究プロジェクトを修了させ、成果を論文として発表することを目標としています。 
本プログラムは医学部医学科正規の授業及び実習と併行して行うこととなるため、プログラム参加学生は時間外を利用して研究活動を行います。ただし、3年次後期の基礎医学講座配属(基礎配属;医学科学生全員が対象、約4ヶ月間)間は原則として本プログラムの研究を継続させます。また、5年次後期の選択実習期間(約2ヶ月間)において本プログラムにおける研究を行うことも許可しています。 
  卒業後の進路:医学部卒業後早期に本学博士課程大学院に進学することを原則しています。大学院生が学位(医学博士)を取得するには通常4年間が必要ですが、本プログラムの参加者は3年間での学位取得を目指しています。プログラム参加者の学位取得後は研究継続、臨床研修などを選択することとなります。 
  単位認定:本プログラムは選択制ですが、本プログラム修了により単位(15単位)を授与します。 

【プログラムの現況(平成24年5月現在)】
1年次(4期生):生命科学入門コースを行い、基礎医学系全教室の紹介を行なっています。自由選択講義ですが、現在半数以上の学生が受講しています。秋からは基礎医学系教室短期見学を行う予定です。 
2年次(3期生):現在9名が早期基礎医学研究体験に参加し、基本的な手法や研究の進め方などを習得中です。 
  3年次(2期生):現在11名がプログラム参加者として本格的に研究を開始しています。独立したプロジェクトを持ち、他の研究員に準じたかたちで研究を行っています。本年度に1名が筆頭演者にて学会発表(日本薬理学会)を行いました。
  4年次(1期生):現在11名がプログラム参加者として研究を継続しています。昨年度に2名が筆頭演者にて学会発表(日本神経科学会、日本免疫学会)を行いました。

【プログラムから学生へのサポート状況】
奨学金の支給:プログラム参加学生に対し、返済不要奨学金を3年次以降の各学年最大5名に支給しています。 
  学外活動の推進:学会参加を補助し、積極的な学会発表を推進しています。また、短期海外留学、国内留学、国内研究出張などを補助するとともに、年1回の4大学合同リトリート(2日間)の参加を補助しています。
  研究活動の補助:研究に必要な試薬、消耗品等の購入補助を行うとともに、ラップトップPCの全員への貸与を行なっています。

【プログラムの今後の方針など】
  現在のプログラムの続行:現在は当初の計画通り、各学年10名程度のプログラム参加者が集まり、基礎医学研究を行なっています。現在のプログラムを続行し、さらなる研究参画を推進します。
  プログラム参加者の各学年間での交流の推進:学内外での交流(研究発表会や学生交流会など)、情報の共有や問題提起、学生サイドよりの要望を検討し、次の世代にむけ改善を図っています。

【大阪大学大学院医学系研究科・医学部HP】  http://www.med.osaka-u.ac.jp/

 
 図1 大阪大学医学部MD研究者育成プログラムのタイムライン
 
 図2 大阪大学医学部MD研究者育成プロクラムのカリキュラム一覧