*第11回*  (H25.1.21UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は旭川医科大学での取り組みについてご紹介します。

「旭川医科大学医学部における地域医療に関する教育的取り組み」
文責:  旭川医科大学教育センター 副センター長・教授  蒔田 芳男 先生 
  旭川医科大学学長 吉田 晃敏 先生 
             

 旭川医科大学は、医療過疎に悩む北海道民の声が実り、昭和48年に設立された医療系単科大学で、「医療の質を向上させ地域医療問題を解決することにより社会に貢献し、患者の苦しみを理解し、その改善に最善の努力を尽くす高度な実践的臨床能力を有し、患者の人権、生命の尊厳、QOL等に高い生命倫理観を有する良い医師及び看護職者を育成する。」ことを教育理念として掲げて設立され、全国唯一の遠隔医療センターを持ち、地域医療にも資する多くの取組を行ってきた。しかしながら、広大な北海道では、札幌・旭川の医師数が10万人対300人近くありながら、依然として10万人対100人を切る医療の手薄な地域が存在する。
 医師の地域偏在を背景とする医療過疎の増大には、地域大学単独の学部教育改善では解決しない要因を含んでいる。地域に医師が残る条件としては、奨学金の有無よりも、「地域で生まれ育った」、「地域で生活したことがある」などの要因が大きく関与しているとの自治医科大学の報告1)や、北部ノルウェーでの実践の結果として「人的資源の少ない地域で専門的職業人を育成するには、その地域を良く知っていて、そこに居住勤務することが自然で、居心地がいいと思う若い人を教育すること」の報告2)がある。つまり、地域社会が地域の医師を育む視点も必要との指摘である。
 紹介する取組は、このような視点のもと、医育機関である本学が、地域の高等学校と地域医療機関における活動に積極的に支援(高大病連携)し、医療職を目指す若者に、医師になることの目的意識をより明確に持たせ、その後入試制度から学部教育、卒後研修までを一貫統合して、将来地域医療に従事する医療職者、すなわち「ふるさと医療人」を育もうという全学を挙げた取組である。
 このプログラムは、平成20年に文部科学省「質の高い大学教育推進プログラム」として「高大病連携によるふるさと医療人育成の取組」選定を受け、3つのステップから構成されている。
.地域枠の設定を含む入試枠の改革、.「医学部進学は職業選択である」ことの目的意識を明確化するための大学と地域高校、地域医療機関連携によるプログラムの実施、.学部における重層的地域医療教育の3つである。
. 地域枠の設定を含む入試枠の改革
 本学では、平成20年に第2学年後期編入学に初めて地域枠5名を導入した。それから、地域枠は増大し、現在では、推薦入試(道北・道東特別選抜)10名、AO入試(北海道特別選抜)40名を加え55名となり少なくとも入学定員45%が北海道出身者となることになる。
. 「医学部進学は職業選択である」ことの目的意識を明確化するための大学と地域高校、地域医療機関連携によるプログラムの実施
 このGPでのプログラムと相前後して、北海道教育委員会は、平成20年4月から「地域医療を支える人づくりプロジェクト」を開始した3)。これは、将来における本道の地域医療を支える人材の育成を目的として、地域医療の現状や医師という職業の理解を深める機会の提供、地域医療を担う使命感の育成、教育課程や指導法の改善を図ることによる進路希望の実現に向けた効果的な学習支援を柱にしている。具体的には、北海道教育委員会が、札幌圏以外の北海道立の進学校を医進類型指定校として指定し、これらの高校に所属する生徒に対し、道内3医育大学との協定のもと、「高校生メディカル講座」、「地域医療体験事業」、「高校生メディカルキャンプセミナー」の実施が盛り込まれた。この内容は、本学の教育GPとベクトルを同じくするものであった。
 教育GPの事業として、本学は、高校生メディカル講座の講師派遣に対し、派遣枠の半分を担当した。地域医療体験事業の実施に関しては、ほとんどの地域で地域医療機関を活用したコーディネーターを担当し、高校生メディカルキャンプセミナーにおいては、高校生のワークショップと学内見学を提供した。また、医進類型指定校には、PBL(problem based-learning)に代表される大学側の教育ノウハウを導入し、生徒自らの地域医療調査や研究の後押しを行った。各高校での事業の実施にあたっては、高校側の日程を優先することで、長期実施が可能な体制を構築する方針を取った。
 年間の活動は、高校生自身により発表報告する「高校生医療体験活動報告会」を年度末に札幌で開催している。第2回(平成22年度)からは、高校生の発案により「高校生によるしゃべり場」も設定している。医療体験活動を通じて身近な地域がどのように見えたのかを、高校生の視点で議論できるような場になってきている。

      地域医療体験事業の様子 
                     高校生医療体験活動報告会        
 

. 学部における重層的地域医療教育
 入試枠の変更と連動して、新しい「2009カリキュラム」(平成21年度導入)を準備した。このカリキュラムでは、本学医学部と密接な関連にある地域をフィールドとして選定し、地域医療への動機付けを高めることを目的として2本の柱を持つ。
①地域医療に関する6年間の一貫した実習改革
1)早期体験実習:地域における医療体験実習への改変
2)早期体験実習:地域での医療問題を社会医学の視点で見つめる実習に改変
3)地域医療実習:地域での基幹病院と周辺診療所との医療連携を含む地域医療実習に改変し2週間の期間を設定
②地域医療と生涯学習のための講義改革
 地域でのヘルスコーディネーターとなる資質として3つの柱を立て、新規科目を開講した。
1)ライフワークバランスを含む地域医療活動の講義
 平成21年度に設置された「地域医療教育学講座」がコーディネートする新科目として「地域医療学」を開講
2)将来の地域健康活動への関与
 社会医学の展開、「臨床疫学」の新科目を開設
3)障害をもつ方たち(健康弱者)への対応
 地域で医療を必要とする住民は広義の障害を何らかの形で持っている。今後は、これらの人々に対し、単に医療を提供するためでなく、医療を含めた地域で支えていくという視点が重要となる。しかし、これまで、そのような人々を対象とした学問体系は整備されていなかった。そこで、これらを統合して学ぶためにリハビリテーション、障害者医学を統合した「健康弱者のための医学」という新科目を開設した。

 上記のような、講義実習体系を構築し、地域枠を含む全学生に対して必修科目として設定している。


 教育GPを発端にした旭川医科大学の地域医療に関する教育的取り組みを紹介した。


 地域枠は設定すれば自動的に充足するというものではない。事実、平成21、22年は充足出来ず地域枠欠員分を一般入試前期募集人員に加えざるを得ない状況であった。しかしながら、この取り組みから3年が過ぎて平成23年度からは、地域枠定員は100%の充足率になってきている(図1)。また、医進類型指定校9校からの医学部進学者数は、60名から80名へと3割上昇した。全てが旭川医科大学に入学しているわけではないものの北海道地域における医学部進学者の掘り起こしにも役立っていると考えている。
 現在、地域医療教育重視の「2009カリキュラム」の最高学年は4年生でありCBT・OSCEを受けクリニカル・クラークシップに入る。地域枠充足率100%の学年は2年生になっている。今後の本学の課題は、地域枠学生への適切な初期臨床研修の提供とキャリアパスの構築の援助である。この出口を構築していくことが、北海道にふるさと医療人を送り出すことだと考えている。そして、その日が来ることを大学人として楽しみにしている。

 
 (図1)旭川医科大学地域枠募集人員充足率の推移

1) Matsumoto M, Inoue K, Kajii E. A Contract-Based Training System for Rural Physicians: Follow-Up of Jichi Medical University Graduates (1978-2006). The Journal of Rural Health 24:360–368(2008)

2)   Magnus JH, Tollan A. Rural doctor recruitment: does medical education in rural districts recruit doctors to rural areas?  Med Education 27:250-253(1993)

3)  http://www.dokyoi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/kki/tiikiiryouwosasaeruhitodukuri.htm