*第23回*  (H26.2.21 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は九州大学での取り組みについてご紹介します。

九州大学医学部の地域医療への取り組み
文責 : 九州大学大学院医学研究院地域医療教育ユニット准教授 貝沼 茂三郎 先生
  九州大学大学院医学研究院医学教育学講座教授 吉田 素文 先生
             
 九州大学医学部は1867年に黒田藩の藩校「賛生館」が設立されたことを起源とする。19世紀後半の九州には、このほか長崎、熊本、鹿児島にも医学教育を目的とした組織が設立されていた。大学医学部としては1903年に京都帝国大学福岡医科大学が開設され、2003年に創立100周年を迎えた。2013年3月までの卒業生は12,793人で、最近の統計では約9割が学外、残りの約1割が学内でそれぞれ地域医療に貢献している。さらにこれまで他大学の卒業生も含めて10,493名が医学博士の学位を取得している。
 さて、以上のように九州大学ではこれまで多くの地域医療に貢献する医師・研究者を輩出しているが、地域住民の医療の均てん化のために九州沖縄各県のみならず九州以外の基幹病院等へ多くの医師を派遣している。しかし地域病院機能の維持のためには、さらなる派遣医師の増員、医師養成が必要である。また、特に医師不足が深刻化している産科や小児科での医師養成は必須であるが、医師不足を解消するために2009年度から医学部医学科の入学定員を漸次増員し、従来の100名から111名になった。また2010年度から福岡県地域医療再生計画により、周産期・小児医療学講座の寄付講座を開設し、派遣医師の技術向上等につながる研修プログラムを開発したり、産科を志す医師の支援に資するとともに、福岡県の周産期医療体制の整備に関する研究を行い、派遣医師の技術向上等のキャリア形成につながる研修プログラムの開発を行っている。
 地域医療に関する学部教育としては1年次に地域の医療福祉施設(重度心身障害児施設、回復リハビリテーション施設、ホスピス等)で見学・体験実習を行い、将来へのモチベーションを高めている。2年から4年次においては救急医療、プライマリケア、老年医学、リハビリテーション医学、緩和ケア、インフォームドコンセント、周産期チーム医療、保育所実習、性差医学、国際英語などの講義、実習を通じて地域医療に関して必要な知識の習得を行っている。さらに5年から6年次にかけては各診療科での臨床実習中に関連の地域医療機関での実習を行うことで、大学病院と一般病院との違いなどについて学んでいる。
 しかし、これまでの実習方法では医療以外の保健・介護、福祉に関しての臨床実習は不十分な状態であった。近年、医学教育で地域医療に関する教育が重要視されるようになった。2010年度医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂版において学外での地域病院、保健所、施設などの協力を得て「地域医療のあり方と現状および課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身につける」ことが目標として示されたことを受け、2012年に九州大学医学部では地域医療教育ユニットを設置し、卒前の地域医療実習の充実を図ることとなった。
 現在、5年次に2日間の学外での地域医療実習を行い、6つの地域病院と8つの診療所・クリニックで医療面接ならびに身体診察、訪問診療、訪問看護、介護施設見学、緩和ケア病棟での実習などを行っている。なお昨年行った地域医療実習未経験の6年生に行ったアンケート結果から在宅医療に関する理解が不足していることがわかったため、2日間の実習中で必ず訪問診療に同行することができるよう改善した。
 6年次の選択臨床実習は、4~9月にかけて16週間の臨床実習期間を設け、4週間ずつ4クールの実習であるが、特に地域医療実習に関しては今年度から福岡県郊外の5つの地域病院で4週間の地域医療実習を行っている。今年度は6名が地域医療実習を選択したが、全員が地域医療や多職種間における連携などについて理解を深めた。また実習内容としてはより診療参加型とし、さらには保健所実習を通して、その地域での保健所の役割について理解を深めている。また各人が興味のあるテーマについて住民対象に健康講話を行い、地域住民の方々とのコミュニケーションをとることでその地域に関しての理解を深めることができるような実習も行っている(写真1)。また5~6年次の地域医療実習に地域医療教育ユニットの教員も同行したり、年1回の指導医講習会を行いながら、それぞれの施設での実習内容をより診療参加型にできるように各病院やクリニックの指導医方との良好なコミュニケーションを図っている(写真2)。
 
 写真1 地域住民の方々に健康講話を行っている学生
 
 写真2 外部講師を招いてのキックオフミーティング講習会

 2013年度から未来医療研究人材養成拠点形成事業として「地域包括医療に邁進する総合診療医育成」が採択されたが、卒前における地域医療実習においてもヘルスサービスリサーチを基盤とした地域のリーダーとしての動機付けをすることで、地域での問題解決に対するリサーチマインドを持ち、地域の問題を抽出、分析そして解析することでより深いレベルで地域医療を理解することができると考えている。またリーダーとしての自覚が芽生えることで医学生としての医学知識、スキルの自己獲得能力の向上および生涯学習能力の向上によって地域医療の現場においてリーダー的役割を果たすことができる医師が増え、全体として医療全体の質の向上に寄与するものと考える。