*第27回*  (H26.6.30 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は浜松医科大学での取り組みについてご紹介します。

浜松医科大学の地域医療人育成の試み
文責 : 浜松医科大学 学長  中村 達 先生 
             

 浜松医科大学医学部医学科は昭和49年に医学生定員100名(2年次編入学生5名を含む)で開学した。平成21年に定員を10名増員し、さらに22年に10名増員したことにより編入学生5名を含む120名が入学している。平成26年3月現在までの卒業生総数は3460名である。うち県内で約750名が勤務医として働いている。
 本学は以下のような項目で地域医療人育成に力を入れている。

  平成22年に第2期中期目標・中期計画期間を迎え、年度計画に地域に根差す医師たちを増やす方針をたてた。6年後からの卒業生の60%が県内に定着することを目標とした。 
  県内には新生児を扱える小児科医が少なく、ハイリスク分娩が増加していることなどから、ハイリスク分娩に対応できる産科医および、新生児を扱える小児科医を育成する。
  各種シミュレーターを用いて医学生、看護学生から院外の医師たちも含めて、各種技術を身につけさせる目的で設置したシミュレーション用のホールを学外の方にも利用できるようにした。
  学内の麻酔医を中心に日本医学シミュレーション学会を設立した。 
  将来構想として、卒前卒後の一貫した総合診療の実習、研修を地域の家庭医療センターと連携して行い、総合診療医を養成し、医師不足地域の支援を推進していく計画で整備中である。 

静岡県に根差した医師の養成
 本学の学生は毎年のこれまでのデータからみて県外出身者の約40%が静岡県に就職し、県内出身者の約90%が県内に定着しているので、毎年45~53名が県内に就職している。静岡県は関東と愛知県の間にあって、県外出身者の多くは故郷へ帰る人が多い。静岡県は東西に長く、医師の派遣は歴史的に東京、神奈川、愛知、京都、千葉などの各大学に依存してきたが、臨床研修制度が始まって多くの県内病院から指導医クラスの医師たちが引き揚げたため、県全体の病院が本学からの医師派遣を懇願する形になった。しかし、県の人口370万人を抱える県内の病院は病院数も病床数も多く、とても本学だけの対応では無理であることは明白である。本学としては県内に定着する医師たちを増やす以外に方法はない。平成22年以前の本学入学生の県内出身者は32~55%であったが、23年以降は各進学高校へ説明に行くなどの努力と、定員が120名になったこともあり60%前後(65~71名/年)の静岡県内出身者が入学するようになった。このままいけば平成29年ころから本学出身者の約70~80名が毎年静岡県内に定着してくれるものと推測している。

周産期医療に従事する医師の育成についての取り組み
 静岡県では毎年約3万2千人が出生している。本学は静岡県唯一の医科大学であり、周産期医療に携わる医師、すなわちNICUに勤務し新生児を取り扱う新生児科医師あるいは分娩を取り扱う産婦人科医師の卒後研修を行ってきたが、県内においていずれも恒常的な医師不足の状態が続いている。
 このような背景から、平成23年に浜松医科大学の周産母子センターに静岡県の寄附講座「地域周産期医療学講座」を開講し、特任准教授が1名着任した。本学は新生児/母体・胎児いずれの領域でも専門医研修の基幹施設に認定されている。静岡県には現在周産期(新生児)専門医が11名、周産期(母体・胎児)専門医が12名いる。周産期(母体・胎児)専門医の1名は本講座開設後に研修開始登録をして専門医を取得した。現在、周産期(新生児)専門医を目指して7名の医師が、周産期(母体・胎児)専門医を目指して5名の医師が本学において研修の登録をしており、今後順次受験し専門医資格を取得した後に県内の医療施設へ赴任する予定である。
 長期的な人材確保の視野に立ち、周産期に従事する医師を希望する学生を増やすことを目的としてNICUのポリクリの充実を図り、年間約120名の医学生に実際に新生児に触れてもらう機会を作り、医学生参加型のdiscussionの機会を設けている。毎週火曜日朝には産科医師、新生児医師とともにポリクリ学生を交えて、周産期カンファレンスならびに胎盤病理カンファレンスを行っている。このような医学生への働きかけの結果、年間約20名の医学生がNICUを選択ポリクリとして選んでいる。また、本学で研修する初期研修医のうち5〜6人、後期研修医の1〜2名がNICUでの研修を選択している。
 「地域周産期医療学講座」を基軸として、医学生教育から、前期研修、後期研修、専門医研修へとつながる研修環境の充実をはかることで、静岡県内において周産期の地域医療に従事する人材を育成し、静岡県に貢献していく考えである。

シミュレーション教育研修指導者育成の試み
 本学に平成23年7月聖隷福祉事業団からの寄付講座として臨床医学教育学講座を設置した。本講座の使命は、大学と市中病院の枠組みを超えた臨床医学教育の研究開発を行い、本学のみならず、静岡県全体の臨床医学教育の発展に寄与する事である。講座代表者五十嵐特任准教授は、平成17年に発足した日本医学シミュレーション学会(Japan Association of Medical Simulation)を創設したメンバーの1人であり、現在は医学教育におけるシミュレーション教育の普及に努めている。平成25年2月には第8回日本医学シミュレーション学会学術集会会長を務めた。
 平成24年2月より26年3月まで、静岡県地域医療再生事業「シミュレーションによるプリセプタ医(研修指導医)育成プログラム」を本学附属病院シミュレーションセンターを主会場として開催した。このプログラムは静岡県からの補助金を元にシミュレーションによる研修指導のノウハウを広める事を目的とし、静岡県内に勤務する医師を対象に1か月に1回程度セミナーを開催した。内容は、JAMSが開発した実践的なセミナー:CVC(中心静脈穿刺)セミナーやDAM(気道確保困難対策)セミナー、教育手法を学ぶための教育学的セミナー:デブリーフィング(セミナー受講者の学習効果を高める手法)セミナーなど7種類のセミナーをJAMSのメンバーの協力を得て実施した。また、本学は東西に長大な静岡県の西端に位置する。医療過疎地である静岡県東部地域からの受講が難しいため、静岡県東部に位置する静岡医療センターのメディカルスキルアップセンターとタイアップし、同センターでも定期的にセミナーを開催した。計24回のセミナーを開催し、計208名の県内医師が受講し、地域医療人材育成に貢献したと考える(図1)。

   
   図1

総合診療医養成をもとに医師過疎地域を支援
 医学教育の国際基準化については、現在全国の医学部でカリキュラムの改正に取り組んでおられると思う。本学でも国際認証評価受審を目指して改正した新カリキュラムを平成28年度から実施する予定で整備を急いでいる。その中で、総合診療についての実習を導入することはコアの科目となることから必須である。静岡県では菊川市および森町に家庭医療センターが地域医療再生計画の支援を得てすでに稼働しており、医師不足が深刻な中東遠地域ではこれらのセンターが大変有効な成果を出して活躍している。本学ではこれらの家庭医療センターと連携し、平成32年ごろから家庭医療センターで120名の学生全員が各人2週間実習できるように準備中である。平成28年ごろに新専門医制度が導入され、30~32年頃から総合診療医の専門医が誕生することに合わせて、卒前卒後の総合診療医養成プログラムの整備を始めている。将来構想として、中東遠地域の家庭医療センターの規模を拡大して浜岡原発近隣の深刻な医師不足の病院を支援していく計画である。次に伊豆地域、および県東部に総合診療医を配置して、拠点を構築する、あるいは病院を支援する体制を構想として描いている。まだ時間のかかる話であるが、10年後には立派に軌道に乗せるべく整備していきたいと願っている。