*第32回*  (H27.1.9 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は広島大学での取り組みについてご紹介します。

広島大学医学部の地域医療を担う人材の育成について
文責 : 広島大学医歯薬保健学研究院地域医療システム学寄付講座 教授  竹内 啓祐 先生 
  広島大学医学部長 木原 康樹 先生 
             

1.広島県の状況
 広島県では広島県地域保健対策協議会という大変ユニークな組織を昭和44年に設置して以来、広島県、県医師会および広島大学が協力して地域医療に関する対策を講じてきたが、「無医地区数は北海道に次いで全国第2位」という事実に代表されるように地域医療を担う人材は不足している。平成18年の調査においては人口あたりの医師数が全国で唯一減少した県として注目され、広島県知事、県医師会長および広島大学長連名で「“みんなで守ろう広島県の医療”緊急アピール」を発表した。この頃には診療体制を縮小せざるを得なくなった地域の医療機関が相次いだ。このような状況が生じる理由として挙げられるのが、広島県は比較的人口が多い割に医育機関が1カ所しか無い、ということである。人口250万人以上で医学部が1カ所しかない自治体は東京近郊以外では静岡県と広島県だけであり、新医師臨床研修制度導入といったような医師不足方向へのストレスに対しては大変脆弱な面を有している。
 そういった中で平成21年度より広島大学医学部に推薦入試の地域枠(広島大学では「ふるさと枠」と呼称)が設けられた。当初5名であった定数も年々増えていき、平成26年度では95名が在籍しており、1年生においては120名中20名、すなわち6人に1人がふるさと枠生として医学科に入学している。また、1学年20名中18名が広島県枠、2名が岡山県枠であり卒業後はそれぞれの県において義務勤務を果たす予定である。広島県枠は広島県から奨学金の貸与を受け、その際発生する義務として、9年間の義務期間中4年間は中山間地域の公的医療機関または知事が指定する診療科に勤務する事となっている。種々検討の結果、知事指定診療科は当面の間、病理診断科ということになっている。
 また、平成22年度より地域医療システム学講座が広島県の寄附講座として設置された。地域医療教育、地域医療体制確保のためのコーディネートおよび地域医療課題に関する研究が主なミッションである。

2.地域医療教育の実際

 ふるさと枠医学生に対して、地域医療を理解し地域医療に貢献する意欲を醸成することを目的として、様々な地域医療マインド養成プログラムを実施している。

   地域医療マインド養成プログラム
   


 毎週水曜日にはランチョン形式でふるさと枠セミナーと称するミーティングを実施している。このミーティングにおいては、医療面接や臨床実技といった基本的技能・態度を1年次より培ったり、グループワーク等によって学年を超えた交流を図ったり、時にはキャリアプランについて話合うことで将来の不安を解消するよう努めている。また、夏季、冬季、春季の長期休暇を利用したセミナーを開催している。夏季セミナーでは県内十数カ所の中山間地域医療施設の協力の下に、学生達が各院長と相談して実習内容を計画し、最終日には全員が一堂に会して報告会を行っている。冬季セミナーは合宿形式で開催しており、講師の招聘やプレゼン能力を鍛えるグループワークなどの企画を学生達が自主的に計画している。希望者には海外実習として、オーストラリアへき地の医学部やネパールの医療状況の視察などを行っている。

  学生アンケート 
2013年夏季セミナー
N:80名 
 
 
あなたは将来へき地医療に従事してみたいですか?
医師になって5-6年目の油が乗り始めた頃に行きたい所はどこですか?


 一般医学科生に対しては4泊5日の地域医療実習を5年生全員にポリクリの一環として実施している。中山間地域の5つの病院にご協力いただき、在宅医療、多職種連携、看護体験実習などを実施している。各病院に1~2名ずつ毎週2~3カ所の病院にお願いしている。食事、宿泊等の便宜を図っていただいているだけでなく、指導医などにもかなりの負担を掛けていると思われるが、快く引き受けていただいている。丸投げにならないよう大学のスタッフは毎週金曜日に各病院に出向き外来実習と1週間の振り返りを実施している。学生には概して好評で、大学病院では経験できないような体験や感動があり、実習前後で比較すると平成25年度においては33%が地域医療に興味が増し、42%が将来地域医療に従事する意向が増加している。地域社会にはどのような医療ニーズがあるのかを現場で感じ取れるカリキュラムを作成するべく、毎年度末には各病院長等にご参集いただき地域医療実習のためのFDを開催している。またアドバンストの地域医療実習にも数カ所の病院に協力して頂いている。

3.今後の課題と展望
2年前からふるさと枠生のキャリアプラン作成を開始した。本制度の目的を達成するため、また、彼らが不安を感じることなく勉学に勤しむために、しっかりとしたプランを立てる事が重要である。理念としては、ふるさと枠生が納得し満足できるプランである事、中山間地域への配置が担保できている事、そして広島大学が卒後教育にも積極的に関わっていける体制である事が重要である。その概要を下記に示す。

   

 専門医育成プログラムを有する広島大学病院27の診療科全てにおいて、これらの原則に基づいた診療科別キャリアプランを作成していただいた。キャリアプランは市町関係者も納得し、ふるさと枠生が地域への貢献意欲を減退させることなく、しかも大学各診療科が状況を理解して指導できるよう運用されなければならない。義務遵守をおびやかす存在には果敢に立ち向かわなければならないし、配置の決定においては各ステークホルダー間での調整が極めて重要となる。女性医師への対応や初期臨床研修のマッチング方法あるいは新たな専門医制度への対応などふるさと枠生の将来に関わる様々な課題もたくさん存在しているが、本来の目的を見失う事無く、広島県地域医療支援センターとも協力しながら一つ一つ乗り越えて行かなければならない。

URL:http://home.hiroshima-u.ac.jp/cbms/(広島大学地域医療システム学講座)