*第36回*  (H27.5.18 UP) 前回までの掲載はこちらから
地域医療を支える国立大学医学部の役割トップページへ戻る
今回は愛媛大学での取り組みについてご紹介します。

愛媛大学医学部の地域医療人育成の現況と改善策
文責 : 愛媛大学 副学長(地域医療担当) 安川 正貴 先生
  愛媛大学医学部附属病院 地域医療支援センター センター長 高田 清式 先生 
             〃          副センター長 高橋 敏明 先生 
             

I. 愛媛県の医療の現況
 愛媛県には四国山地の中山間部や全国でも有数の島しょ部が多数散在して、限界集落をはじめとする過疎地の多いことが特徴で、無医地区ではさらに人口が減少しており、医師不足は集落の存続にも深く関わっている。また、県を宇摩医療圏、新居浜・西条医療圏、今治医療圏、松山医療圏、八幡浜・大洲医療圏及び宇和島医療圏の6つの医療圏に分けると、松山医療圏には医師が集中しており全国平均を大幅に超えて医師の供給過剰状態となる一方、それ以外の5医療圏はすべて全国平均未満であり、医師偏在が顕著となっている。そこで、県内すべての地区の住民が安全と安心の良質な医療を享受できるような新しい地域医療を創生すべく、地域医療人の育成を柱として、愛媛大学、行政、医師会、県内医療機関をはじめとしたオール愛媛体制で取り組んでいる。

II. 地域医療支援センターの概要(図1)
 愛媛県地域医療支援センターは、地域医療に従事する医師を育成し、その定着を図り、医師の地域偏在を解消することを目的として、平成24年4月1日に愛媛県の委託により愛媛大学医学部附属病院内に開設された。愛媛県内の医師不足状況を把握し、県内医療機関の要望を踏まえ、地域医療奨学生を含めたすべての医師のキャリア形成に配慮し、県内の医療の充実と発展に寄与することを目指している。

   
   図1 地域医療支援センターの概要


III. 地域枠奨学生
 平成21年度より地域医療を担う人材の育成を目的として、地域枠奨学制度による医学生が入学し、第一期卒業生は平成27年度から県内の病院での臨床研修を開始している。平成27年度現在、愛媛県地域枠医学生として愛媛大学に98名、香川大学に4名が在籍している。地域医療支援センターは、県内医療機関や県市町の保健福祉部との連携を緊密にし、地域枠卒業生の臨床研修におけるキャリア形成支援や医療機関への適正配置に取り組んでいる。

IV. 地域医療寄附講座の開設
 県や市町からの寄附金により4つの地域医療寄附講座を開設し、県内の地域医療の発展に貢献している。地域医療学講座は愛媛大学医学部内の講座以外に西予市立野村病院内と久万高原町立病院内にサテライトセンターを設置し、両地区において総合診療医の育成を重点的に行っている。地域医療再生学講座は四国中央市HITO病院内サテライトセンターを設置し、地域の救急医療や脳神経外科や整形外科などの高度先進医療に貢献している。地域救急医療学講座は市立八幡浜病院内にサテライトセンターを設置し、南予地区の救急医療全般や外科医療の向上に貢献している。地域生活習慣病・内分泌学講座は四国中山間部の高齢者の内科疾患の克服に貢献している。
 さらに、平成27年4月には新たに地域小児・周産期学講座が開設され、県下医療過疎地の小児・周産期医療の充実と発展に貢献することが期待されている。

V. 地域医療教育
地域医療実習
 平成21年より西予市立野村病院と久万高原町立病院のサテライトセンターでは、5年生全員と1年生地域枠医学生を対象に地域医療実習を実施している。総合診療だけでなく在宅医療や訪問診療にも参加し、地域医療への理解を深めることによって、学生の将来地域を担う意欲が高まり、着実に教育的効果をあげている。
 平成27年度からは、6年生全員に対して、県下の地域医療病院(23病院)での、2週間の病院実習を実施することになっている。

VI. 愛媛大学医学部の特色ある取り組み
1.地域病院見学バスツアー(図2)
 医学生の希望者を対象に、平成24年11月から年に4回の頻度で、愛媛県内の公的な地域医療病院への見学ツアーを実施している。平成27年1月までに計10回21病院を訪問した。1回のツアーにつき2もしくは3病院の説明を受け、院内を見学し、各市町担当課から地域の特色の説明を受け、意見交換を行っている。これまでの参加者は計125名であり、地域医療を実践している現場に出向き現状を認識することにより、地域病院での研修の意欲が高まり、将来の地域医療研修についての動機づけや選択基準の1つになりうると考えている。

 
  図2 病院見学バスツアー


2.地域医療再生セミナー
 平成23年度から県内各地域の医療体制の現状・課題と展望や医療連携について理解を深め協力体制を強化するために、県内医療機関の病院管理者・事務長及び行政関係者や大学内関係者が参加するセミナーを毎年一回開催している。
3.地区病院指導医講習会・連携講演会
 平成25年度から医療過疎地域である南予地区と東予地区において、病院指導医講習会と病院連携講演会を毎年一回開催している。各地区の病院管理者・指導医や事務長及び市町の保健福祉行政担当者を対象に、地区内病院からのミニレクチャーを実施すると共に、地区指導医連絡協議会等から講演者を招き、地区の医療情勢を共有し、医学生や医師の教育指導体制の整備・充実や救急医療の向上を目指している。
4.多地点コミュニケーションシステムを活用したキャリア形成支援
 県内の病院などをネットワークで結ぶテレビ会議によるレクチャーや症例検討会などを行い、最新の医療情報を共有し、さまざまな地域医療研修に活用している。
5.シミュレーター実習による卒前・卒後教育
 附属病院地域医療支援センター内に最新設備である診察や治療手技習得のためのシミュレーターを設置し、スキルスラボとして医学生・看護学生、学内医師や県内医師に広く開放し、診察・治療技術のスキルアップの向上に努め、実戦で活躍できる臨床能力の高い医師の養成を行ってきている。さらに手術手技研修センターにて、若手医師が、ご遺体を用いたさまざまな手術手技の習得に努めていることも、実践を重んじる当大学の特徴である。
6.愛媛研修医OSCE大会(図3)
 平成26年9月に研修医の診断・治療の技術向上を目指し、県内研修医(10名)を対象として、第一回愛媛研修医OSCE(客観的臨床能力試験)大会を実施した。大学が主体として行われたのは全国初であり、県内・外の指導医、看護師、薬剤師、模擬患者や医学生等を含め総勢65名が参加・協力した。今後も毎年開催することを予定している。

 
  図3 第1回愛媛研修医OSCE大会の実施風景


7.医学生サマーセミナー
 平成24年から地域枠医学生や自治医大生と県内出身医学生とが協働して地域医療発展のためのワークショップを実施し、地域医療の担い手としての共通意識を高め、近い将来の地域医療の改善策など意欲的に討論している。
8.ランチョンミーティング
 地域枠学生を対象として、学年ごとに毎週木曜日の昼休み時間に昼食をとりながら、地域医療の話や地域の問題点について積極的に意見交換を行い、学生間や担当教官との意識の共有に努めている。
9.アンケートによる実態調査
 地域医療の現状とニーズを詳細に把握し適正な対策が迅速に実行できるように、様々なアンケート調査を行っている。
①平成24年9月に県下の住民(総数2581名)へのアンケート調査を実施し、各市町別にどの診療科が不足しているかを分析し、市町ごとの医師不足状況をおおよそ把握している。
②平成25年9月に地域枠卒業生の受け入れ予定病院に対して、詳細なアンケート調査(23病院)を実施した。各病院での医師の教育指導体制や医師の勤務環境の改善の取り組みの詳細や、地域枠卒業生の配置を希望する診療科と人数などを調査し、今後各病院に対しての改善指導の資料としている。
③平成26年10月に医学生の地域医療に対しての意識調査を実施した。地域医療への関心度を調査し、地域医療コースの大学院設置やキャリアパスについての意見や希望を取りまとめ、今後の方向性の資料としている。

VII. 今後の改善策
1.地域病院での実習
 これまで医学生の県下地域病院での病院実習は数病院に限られていたが、愛媛県医師会や県内病院の協力を得て、平成27年度からは6年生全員を対象に県下23病院で2週間の地域病院実習を開始し、地域医療への関心を高め、医師として地域で貢献する意義や役割をさらに認識するように指導する。
2.実態調査からの地域医療人の育成と充実
 これまで住民、病院、医学生からのアンケート調査を実施してきたが、平成27年度には愛媛大学出身者及び県内病院勤務の臨床研修医に対して、希望するキャリア形成支援や改善してほしい勤務環境等のアンケート調査を実施することを予定している。これまでの結果と合わせ、地域医療に従事する医師の育成・増加策を講じる。
3.地域医療教育と実践の充実・発展
 これまでの特色のある施策をさらに活発化・発展させることが重要であると考えている。実施している病院見学バスツアーや各地区指導医講習会の活発化、多地点コミュニケーションシステムなどのITを使用した会議システムの発展、臨床実習後のpccOSCEの導入、研修医OSCE内容の充実と発展などを、関係各機関と連携して推進する。また、医療過疎地に対しての在宅医療推進のためにICTを活用した新しい健康管理システムを導入し普及させる。
  平成27年度から第一期地域枠卒業生が初期研修を開始するので、研修先病院を順次訪問し、その状況の把握と研修システムについての改善指導を行う。また、新しい専門医制度に立脚した個人及び全体としての綿密なキャリア支援プログラムの策定と改訂を行う。